これまでケータイのみに閉じられていたSMSやMMSがiOS 5限定とはいえ他の機器にも広がった。が、メールアドレスがIDになるという仕様が誤解を招くのが課題だ
iPhoneシリーズの最新モデル「iPhone 4S」の発売に合わせ、OSも最新バージョン「iOS 5」が公開された。200を超えるという新機能のうち、特徴的な機能やコンセプトを中心にiOS 5の特徴を見てみよう。
iOS 5で搭載された多くの機能に共通するのが、もう1つのスマートフォンOSでもある「Android」に搭載されている機能の取り込みだ。1つ前のバージョンとなるiOS 4でもマルチタスクやホーム画面のフォルダ作成など、Androidで標準搭載している機能がサポートされたが、iOS 5ではこうした他プラットフォームで使われている機能をベースにした強化が行われている。
iOS 5の機能紹介ページで最も上部で紹介されている通知センターなどは、まさにAndroidのステータスバーといってもいい機能だ。どの画面においても画面一番上から下にスワイプするだけで通知センターが表示され、さまざまなアプリの新着情報を確認できるようになっている。
iOS 4以前も新着情報をリアルタイムにプッシュ表示する機能は備えていたが、アプリの操作中に画面に表示されて作業が中断されることもあった。通知センターでは新着があった場合も、画面の上のエリアに表示されるだけで作業が中断されなくて済む。設定次第では従来通りプッシュ表示することにもなっており、ユーザーが好きな通知方法を選択できる。
これまでの通知機能がシンプルかつ使いやすくなったものの、「通知センター」という名前の通り、この機能は基本的に通知のみで、アプリを設置することはできない。同様の機能を搭載しているAndroidは設定だけでなくアプリを常駐することも可能になっており、設定アプリやチャットアプリなどへ手軽にアクセスすることが可能だ。
とはいえiOSの操作体系はホーム画面を中心に構成されており、基本的には設定もアプリもすべてホーム画面にいったん戻ってから操作する流れになっている。iPhoneに比べるとAndroidは操作が複雑で分かりにくいという声もよく聞くが、iPhoneの操作が分かりやすいといわれるのは「すべての操作はホーム画面から」と操作を絞り込み、通知センターもあくまで通知のみと割り切るシンプルさにあるのかもしれない。
Twitterの標準対応もiOS 5の新たな特徴の1つ。自分のTwitterアカウントを登録しておくことで、写真やブラウザのURLなどを簡単にTwitterへ投稿できる。
この機能もAndroidの持つ「インテント」に近い。Androidではインテントという仕組みを用いて、写真やURL、メッセージなどを他のアプリへ渡すことが可能だが、iOS 5のTwitter対応はこのインテントのTwitter限定版、という印象だ。
より多くのアプリと連携できるインテントの方が便利ではあるが、通知センターと同様、機能を必要なものに絞り込むことで操作は分かりやすい。また、ツイートの際には自分のフォローのIDをインクリメンタル表示することで相手先を指定してツイートできるなど一通りの機能を備えており、Twitter連携としてはとても使いやすく仕上がっている。
これまでPCとつながなければ利用できなかったiOSが、AndroidのようにPC不要で利用可能になったのも大きな変化だろう。iPhoneはもちろん、iPod touchやiPadなども「購入してからPCに接続する」という手順がなくなったことでより気軽に使えるようになった。また、オンラインストレージ「iCloud」の提供により、アプリだけでなく音楽や動画といったコンテンツも自動でオンラインにバックアップできるようにもなっている。
ただし、iCloudで利用できるのは無料で5GBまでとなり、それ以上の容量を利用するには10GBの追加で年間1700円、50GBの追加で年間8500円が必要。iPhoneは外部ストレージに対応せず、すべてを本体メモリに保存していることもあり、バックアップを考えると5GBだけで収めるのは難しい。iCloudを使って本格的にバックアップしようと考えているユーザーは有料サービスの利用を前提にした方がよさそうだ。
一見すると大きな違いはないものの、裏側では大きな変更があったのがメッセージ機能だ。これまで利用可能だったSMSやMMSといったメッセージサービスに加えて、Apple ID経由でメッセージをやりとりできる「iMessage」機能が新たに加わった。
もともとSMS/MMSが利用可能だったiPhoneでは大きな違いは感じられないかもしれないが、iMessageの対応により、iPod touchやiPadといった3G機能を搭載しない機種でもこれらショートメッセージが可能になった。
「iMessage」という機能の名称は使われていないのでどのように利用していいか悩みがちだが、Apple IDに指定したメールアドレスへ「メッセージ」アプリからメッセージを送り、相手もiOS 5を利用し、iMessageの設定をオンにしているとiMessageが利用できる。
iMessageでは単なるメッセージだけではなく、写真や動画なども併せて送ることが可能になり、メッセージの表現力がより豊かになった。また、iPod touchやiPadともメッセージが送れることでショートメッセージの相手も広がった。現在はまだiOS搭載機種のみでしか利用できないが、Facetimeがそうだったように、今後はMac OS搭載機種でも利用できるようになることを期待したい。これまで携帯キャリアに閉じられていたショートメッセージサービスを携帯機種以外にも広げる、地味ながら大きな変革と期待したい。
惜しむらくは送信のキーとなるApple IDが独自のIDではなく、自分が使っているメールアドレスを設定する仕組みになっていること。どのメールアドレスがApple IDとして登録されているかどうかが分からないとメッセージで送ることができないため、iMessageを使う同士で「どのアドレスで送るとiMessageで届くのか」をあらかじめ認識しておかなければいけない。Apple IDでないメールアドレスにはそもそもiMessageを送れないため判別できないことはないが、すべてのアカウントを1つ1つ調べるのも煩雑な作業だ。
また、メールアドレスがIDとなるために、場合によっては送信したメッセージが相手に届かないケースも発生する。お互いがiOS 5搭載の機器を利用し、iMessageの設定をオンにしている場合がその例だ。一方がApple IDに設定したメールアドレスから相手にメッセージではなくメールを送信した場合、このメールに返信するとApple IDに指定されたメールアドレスとして認識されるため、相手にはメールではなくiMessageで返信されてしまい、パソコンから送ったのに返事がiPhoneやiPad、iPod touchに届いてしまうことになる。
これまで携帯電話のみに閉じられていたSMSやMMSがiOS 5限定とはいえ他の機器にも広がったという点ではとても興味深い機能であるものの、現状はメールアドレスがIDになるという仕様が誤解を招くケースも発生する点が課題に感じる。個人的にはApple IDにメールアドレスだけでなく独自のIDも設定できるようになればメッセージを受け取る選択の幅も増えるのではないかと期待したいところだ。
iPhoneの初代モデルが登場した2007年1月から4年半以上が経過。AndroidやWindows Phoneなど他のスマートフォンも普及が進む中で、先行するiOSはバージョンアップを重ねることで着実に機能を向上、使いやすさを増している。今回のiOS 5も、目新しい機能を搭載するよりも、他のスマートフォンが持つ便利な要素を取り込んだり、iOSがもともと備えていた機能をブラッシュアップすることで、OSの完成度を高めたという印象だ。
新たに発売されたiPhone 4Sも、前モデルのiPhone 4よりも高性能なプロセッサを搭載し、カメラの性能もアップするなど、全体的に前モデルのブラッシュアップという位置付けになっている。もちろん「4S」という名称が示す通り完全な新モデルではなく4のマイナーバージョンアップということもあるが、4年もの時を経てiPhoneやiOSがほぼ完成に近づいたともいえるだろう。
iPhone 4Sも3日間の販売数が全世界で400万台を超えるなど過去最高の数値を記録しており、依然としてスマートフォンのトップを走り続けている。一方でAndroidもスマートフォンとタブレットを統合した最新OS「Android 4.0」を発表するなどバージョンアップを続けており、Windows Phoneもマイナーバージョンアップとして「Tango」と呼ばれるバージョンアップが予定されている。完成に近づきつつあるiOSと、それを追うAndroidとWindows Phoneがどのような進化を遂げていくか、今後も期待したいところだ。
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