機械が書類を審査する一歩上いく英文履歴書の書き方、使い方(6)

英文履歴書をより魅力的に、ほかの人と差別化して書くにはどうしたらいいのか。そんな英文履歴書の書き方、使い方を解説しよう。

» 2005年02月24日 00時00分 公開
[福島由美@IT]

 書類を審査するのが人間ではなくコンピュータである場合、どのように英文履歴書を書けばいいのかを、2回にわたって解説します。

コンピュータが書類を選考

 企業に応募したときの最初の関門が書類選考です。この書類選考をコンピュータに任せる企業が増えています。ATS(Applicant Tracking System/Software:直訳すると「応募者追跡システム」)という専用のシステムを使い、応募者の履歴書の記述を基に適格者を抽出し、選考を行うのです。

 平仮名、片仮名、漢字、英数字が混在し、1つの言葉の表記方法が複数存在する日本語の履歴書では、ATSの利用は難しいでしょう。しかし英語の履歴書では比較的簡単なため、IT志向のアメリカ系大企業で多く利用されています。

 人間でなくコンピュータが書類選考を行うことについては、批判もあります。ATSが抽出するのは真の適格者ではなく、プログラムの抽出基準に合うように履歴書を書いてきた人間だというものです。つまり書き方次第で、本来なら面接に進むべき人間が適格者リストから漏れたり、逆に不適格者が適格者のリストに載ったりすることがあるというのです。

 しかし常に大量の履歴書が送られてくる企業では、効率性を重視し、ATSを積極的に利用しています。CAPTERRAのページには、代表的なATSが紹介されています。

ATSの仕組みを知ろう

 ATSの仕組みを簡単に説明しましょう。採用する側は、必要とする人材のスペックに沿って業界・学歴・キーワードなどの条件を設定します。ATSはこれらを基に検索を行って適格者を抽出し、適格度のランク付けとともに結果として返します。

 例えば、あるATSでは以下のような条件が設定できます。

条件 複数選択
業界 IT  
スキル 最近○年以内に○○のスキル経験○年
職歴 職歴○年/平均的な在職期間○年/最低給与○ドル  
学歴 最終学歴○○/専攻○○  
場所 郵便番号/州名
キーワード Oracle/UNIX

 書類選考にATSが使用される場合には、履歴書をデータの形で企業に送る必要があります。このような履歴書はElectronic Resumeと総称され、そのほかにも形式や目的によってASCII Resume、Plain Text Resume、HTML Resumeなどの名称が使われます。紙に印刷されていても、スキャナからOCRでデータ化されることを前提にした履歴書はScannable Resumeと呼ばれます。

 ATSを使用する場合、企業は募集広告で「Scannable Resumeを送れ」のような指示をします。応募者は、履歴書を機械が読み込みやすいレイアウトにし、ATSの検索条件に設定されそうな言葉を入れて作成する必要があります。

ATSを意識した履歴書の一例:Keyword Resume

 SolutionsIQのサンプルページには、ATSという機械の目と頭に合わせて作成した履歴書の例が挙げられています。

 機械が読みやすいレイアウトで作成され、人間が書類選考を行うことを前提にした履歴書とはかなり趣が異なります。

 記述にも特徴があります。英文履歴書では一般的に、連載第2回(「英語的発想」対「日本人の常識」)で説明したアクション・ワードを多用しますが、ATS対応の履歴書では、これよりも具体的なスキルを表す単語が重要です。上記の例では「KEYWORDS」の項目を設けて大量のキーワードを載せていますが、これはATSの検索でヒットしやすくするためです。

 このように、キーワードを独立項目として配置した履歴書はKeyword Resumeと呼ばれます。募集要項に「Keyword Resumeを送れ」という指示があったら、書類選考にATSを使用することを意味するので、それ相応の対策が必要です。

 次回は、ATS対応の履歴書を作成するときの具体的な注意点を紹介します。

英文履歴書ワンポイント解説

■学歴の記述について

 ある程度のキャリアがあって転職を希望する場合、学歴は通常、職歴の後に置かれます。項目名は「Education」が一般的です。

 大卒・短大卒・高卒などの場合は最終学歴を、大学以上の教育を受けている場合は大学からの学歴を、職歴と同じように新しい順に記述します。専門学校が最終学歴になる場合は、その前に卒業した高校なども記述した方がよいでしょう。

 学歴の記述の際に必須なのは、学校の所在地・学校名・卒業年・専攻・学位です。仕事でキャリアを積んでいる場合は職歴を中心とした記載になるため、学歴は1〜2行でシンプルに記述します。例えば東京にあるABC大学を1990年に卒業し、コンピュータ・サイエンスを専攻して理学士の学位を持っている場合は、次のようになります。

EDUCATION
B.S., Computer Science, ABC University, Tokyo, 1990

 どの範囲を学歴の項目に記述するかは、状況に応じて戦略的に決めます。項目を「Education and Training」や「Education and Credentials」などとして、学校教育だけでなく受講研修や取得資格を記入することもできます。Distinctive Documentsのサンプルページを見てみましょう。

 研修や資格は、「Professional Training」「Continuous Education」など「Education」とは別項目で書くこともできます。しかし上記サンプルの作成者があえて「Education and Credentials」とまとめているのは、キャリアはあるものの、実はまだ大学を卒業していないからです。そこで、研修や資格も学歴の項目に含め、学歴不足という印象を与えることを巧みに避けているのです。

 一方、新卒やキャリアの浅い応募者にとって、学歴は重要な意味を持ちます。学校で何をし、どんな成績を修めたかが、応募者の実力を証明することになるからです。そのため、学歴を職歴の前に置いて、成績などの具体的な内容を記述します。

 アメリカの大学には成績評価の方法としてGPA(Grade Point Average)という制度があり、最近ではこの制度を採用している日本の大学もあります。この値が高ければ学歴欄に記載するとよいでしょう。3.0より低い成績ならあえて載せる必要はありませんが、アメリカの大学を出ているのにGPAを記載していない新卒の履歴書は、GPAが低いから記載していないと見なされるようです。GPAを採用していない大学を卒業している場合には、「Top 10% of graduating class」(卒業クラスの上位10%)「Grade average: A」(平均成績A)のような書き方をすることができます。

 連載第1回(英文履歴書の表現とその理由)で例示した新卒の履歴書のサンプルでは、「Awards and Honors」という項目を作り、奨学金や優秀な学生のみが入る友愛会のメンバーシップなどを記載しています。そのほか「懸賞論文で入選した」「弁論大会で優勝した」「レギュラーメンバーとして所属しているラグビー部が全国大会で優勝した」というのも実績になります。また、応募する職務に関連する科目を履修している場合には、「Relevant coursework」や「Coursework Included」として、これらの科目を記載しておくとよいでしょう。

 生年月日の記載がない英文履歴書では、学歴の卒業年から応募者の年齢を推測することになります。そのためアメリカの中高年の応募者の履歴書には、年齢上のハンディキャップを避けるべく、学歴に卒業年を記載していないものがかなりあります。日本でも、中高年の応募者に卒業年を書かないように指導する方がいます。しかしわたしは、規制はあるものの採用広告での年齢指定が存在する日本においては、英文履歴書でも卒業年は消さない方がよいと思います。

 「英文履歴書といえども、中学以上の学歴については、何年何月に入学し何年何月に卒業したか、きちんと書いてほしい」という採用側の意見も聞いたことがあります。理由は「当社は外資系企業だが、採用するのは日本で働く日本人であり、高校卒業後浪人せず大学へ行ったか、大学で留年せず4年で卒業したかを重要視する」というものでした。

 どこまでをアメリカ式にして、どこまでを日本人担当者の要望に合わせるべきか、ここで簡単に結論付けることはできません。しかし、英文履歴書から年齢の手掛かりとなる年号を省いたため、「気を利かせた」日本人採用者が日本語の履歴書を参照して「Born in 1952」「Aged 52」と書いた付箋を英文履歴書の1ページ目に貼り付け、ネイティブの採用決定者に渡したという例も実際にありました。このように、年齢がかえって悪目立ちすることにもなりかねないので、ご注意ください。


本記事は、「B-zine(ビージン)」(メールマガジン)に掲載された記事を基に加筆、修正したものです


筆者プロフィール

福島由美

外資系メーカー、会議通訳、再就職支援会社勤務などを経て、現在は某大学で非常勤講師としてビジネスコミュニケーション科目群を担当。異文化ビジネスコンサルタントとしても活動中。著書に『異端パワー?「個の市場価値」を生かす組織革新「新しい経営」シリーズ』(共著、日本経済新聞社)がある。



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