英文履歴書をより魅力的に、ほかの人と差別化して書くにはどうしたらいいのか。そんな英文履歴書の書き方、使い方を解説しよう。
前回(第6回 機械が書類を審査する)紹介したATS(Applicant Tracking System/Software:応募者追跡システム)対応の英文履歴書を作成する場合の、具体的な注意点について解説します。
実は、この連載を始めたときは、Electronic Resume(機械対応の履歴書の総称)を扱うつもりはありませんでした。採用そのものにATSを利用する外資系企業の日本法人や日本支社は多くはないからです。
しかしながら外資系の企業の中には、社員として入社してから、人事のグローバル・データベース用のElectronic Resumeの提出を要求するところがあります。人事がATSの特性をよく知っていて、ATS向けの書き方を教えてくれるなら問題はありません。一方で、ATSについてよく知らず、「応募のときに提出してくれた英文履歴書のファイルを渡してくれればいいんだよ。機械が勝手に読むんだから」などとおっしゃる、のんきな担当者も実在します。
このような担当者の指示に素直に従ってしまうと、グローバル・データベースでのあなたのスキル・ランキングが、実際よりかなり下になりかねません。そんなことにならないよう、機械用の英文履歴書の作成方法に関する知識を、頭の片隅にでも置いておきましょう。
ここでは、人間の目と頭での審査に合わせて作った履歴書のフォーマットを、機械での審査に合わせて2通りに変換する方法をお教えします。
Electronic Resumeのうち最も一般的なものは、ASCII(Plain Text)Resumeです。テキストファイル(.txt)で、またはそのままメール本文として送られるものです。AdvancedResumeConceptsのサンプルをご覧ください。ASCII(Plain Text)Resumeへの変換時に必要な作業は、以下のとおりです。
上記の作業は、テキストエディタの編集記号をすべて表示して行った方が安全です。日本語環境ではテキストファイルに変換したときに、表組みなどの一部が全角スペースに置き換わることがあり、英語版のOSでは文字化けの原因になります。全角スペースは、編集記号を表示していないと見つけにくいのです。
紙に印刷されていますが、OCRで読み取られ、データ化されることを前提にした履歴書です。フォーマットは原則としてASCII(Plain Text)Resumeに準じますが、OCRプログラムの特性に合わせた変換が必要になります。ResumeEdge.comのサンプルをご覧ください。
Wordの日本語文書のデフォルトのフォントは10.5ptですから、Times New Romanを使用する場合は、特に注意しましょう。
スキャナとOCRプログラムの性能が進化しているため、上記3つのルールは近い将来は撤廃されるのかもしれませんが、いまのところは注意が必要です。
Electronic Resumeはキーワードで検索されるため、まずは応募するポジションで採用側がどのような検索条件を設定するかをリサーチし、適切と思われるキーワードをふんだんに盛り込みます。相対的に、連載第2回(「英語的発想」対「日本人の常識」)で説明したアクション・ワードの重要性は後退するため、こちらは使用を控えめにします。
キーワードには、業界独自の用語や頭字語(Acronyms)が頻繁に使用されます(例えばEA、CRMなど)。マーケティングの募集に「CRM」と書いても「コックピット情報管理」との誤解は受けないでしょうが、その頭字語が業界内で共通のものかどうか分からない場合は、「FSP」(Frequent Shopper Program)のように両方書いておきましょう。
「KEYWORDS」という独立した項目を設けてキーワードを列挙するかどうかは、書き手の判断次第です。今回のScannable Resumeのサンプルでは、この項目は設けず、「PROFILE」の中にキーワードを盛り込んであります。これでもよいのですが、「PROFILE」は「KEYWORDS」に書き換えた方がよいという考え方もあるようです。すなわち、
PROFILE
Achievement-oriented sales professional with 15 years of success in International trade and global marketing. Skilled in developing marketing programs, coordinating new product introductions and providing customer Proven track record in cold calling, new business development and key accountant management.
の代わりに
KEYWORDS
Sales, 15 years, international trade, global marketing, marketing programs, new product introductions, customer support, cold calling, new business development, key accountant management
のような書き方をするということです。
■スキルの記述について
スキルといってもいろいろありますが、ITエンジニアなら、実際の業務に必要な技術的スキルを中心に記入することになります。IT関連のマネジメント職に応募する場合には、リーダーシップなどの管理職に必要なスキルの記載がメインになるでしょう。いままでとは異なる職種に応募するなどのキャリアチェンジを行う場合には、それまでの経験で得たスキルの中から、分析能力、交渉能力など、汎用的に使えるスキルを書き出すことが重要になります。
また、わたしたちが外資系企業に転職する場合には、多かれ少なかれ語学スキルも求められるので、その記載も必要です。
「Skills」(スキル)と「Certificates」(資格)の項目は、必要であれば分けて書きますが、そうでなければ1つの項目にまとめてもよいでしょう。この項目の中に語学スキルを入れることもありますが、ITエンジニアの場合は別項目にした方がすっきりすると思います。IT関連のスキルの書き方の例は、Monster TechnologyのShow Your Skills on Your IT Resumeにいくつか載っています。これを参考にするとよいでしょう。
スキルの記載を配置する場所は、技能と業績の要約(Summary, Profile)の中、学歴の後、職歴の後の3カ所が考えられますが、今回のようなKeyword Resumeではあまり考慮する必要がありません。人間の目は意識しなくてよいからです。
一方、人間が見ることを前提にした履歴書では、スキルの記載を効果的な場所に持ってくることが必要になります。
スキルの項目はまず、技能と業績の要約の中に含めることができます。技能と業績の要約部分で具体的にスキルをリストアップする場合には、最初に要約文を入れ、最後に「Skills Include:」のような表現を使ってスキルを個条書きにすることが多いようです。
学歴の後や職歴の後(学歴の前)に置かれることもあります。どの位置にスキルの項目を配置するか、項目の中でどのスキルをどの順番で並べて書くかは、書き手が何をどのような形で強調したいかによります。
スキル、資格、免許などは、持っているものをすべて書けばよいというわけではありません。いまさら持っていても役立たないような古いスキルや、応募する職務にまったく関係ないスキルは削除しましょう。それまでに取得した多方面にわたる資格をすべて記入しようとする方もいますが、これもやめた方がよいでしょう。中には興味を持ってくれる担当者もいるかもしれませんが、大抵は「変な資格マニア」と思われるだけです。
語学スキルの書き方については、「STEP 1st Grade」(英検1級)とか「730 on TOEIC」 などと書いても、ほとんどの外国人には理解できないでしょう。外国人向けであれば、
のような記述の方が分かりやすいと思います。
「仕事上の英語での意思の疎通はうまくいっているし、英語でプレゼンもできる。でも英語の資格は学生のときに取った英検2級しかない」というような場合にも、英検2級と記載するより、上記のような記述の方がよいでしょう。
しかし、英文履歴書を見る者が日本人だったり、日本の英語事情に通じている外国人だったりすることもあります。そういった人たちからは「『英語ができる』と書いてくるのなら、転職活動に際しては語学力を客観的に証明するTOEICなどを受けてほしい」という声も聞こえてきます。
しかるべき語学力の証明になるものを持っており、語学力があることを強調するのなら、
のように、両方書いておくとよいでしょう。
語学力の記述に関しては、もう1つ注意点があります。
英語力のあるエンジニアが、ある企業に応募したとします。日本の外資系企業(あるいは英語でのコミュニケーションを必要とする日本企業)の従業員の語学力のレベルは、企業によってさまざまです。応募先に英語ができる人材が不足して困っていた場合、語学力のある応募者は「英語専門要員」になってしまい、エンジニアとして転職したはずなのに、通訳・翻訳ばかりやらされている……ということになるかもしれません。本人が語学力を生かした仕事をしたいのならこれでもよいでしょうが、あくまでもエンジニアとしてのキャリアを極めるつもりで応募したのであれば悲劇です。
英語専門要員になってしまったことでエンジニアとしての第一線から外れ、知識と技術のアップデートが遅れてしまうかもしれません。このような中であくまでもエンジニアとして頑張ろうとすると、エンジニアの仕事と英語関係の仕事の2つを同時に抱えることになる可能性もあります。
上記のような状況が想定される場合には、高得点の英語の資格があっても記入せず、
のような書き方にしておいたほうがよいでしょう。
本記事は、「B-zine(ビージン)」(メールマガジン)に掲載された記事を基に加筆、修正したものです
福島由美
外資系メーカー、会議通訳、再就職支援会社勤務などを経て、現在は某大学で非常勤講師としてビジネスコミュニケーション科目群を担当。異文化ビジネスコンサルタントとしても活動中。著書に『異端パワー?「個の市場価値」を生かす組織革新「新しい経営」シリーズ』(共著、日本経済新聞社)がある。
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