「添え状」と侮るなかれ、カバーレター一歩上いく英文履歴書の書き方、使い方(10)

英文履歴書をより魅力的に、ほかの人と差別化して書くにはどうしたらいいのか。そんな英文履歴書の書き方、使い方を解説しよう。

» 2005年10月29日 00時00分 公開
[福島由美@IT]

「添え状」とはいっても

 今回取り上げるのは、カバーレターです。カバーレター(cover letter、イギリス英語ではcovering letter)は、日本語で応募書類を提出するときの「添え状」に相当するものです。

 最近は日本語の添え状にもいろいろなタイプのものがありますが、中でも自己PR型で相手のアクション(この場合は面接に呼んでくれること)を促す形式のものが、英語のカバーレターの性質に近いと考えてよいでしょう。

 「果たして企業は、本当にカバーレターを読んでいるのだろうか」。これはよく出る質問です。ほとんどの場合、忙しいマネージャたちはまず履歴書に目を通し、履歴書が気に入らなければカバーレターには目を通さないでしょう。逆に履歴書が目に留まった応募者については、履歴書の後にカバーレターに目を通す確率が高くなります。履歴書が良くてもカバーレターで失敗してしまっては、力を入れて作成した履歴書の素晴らしさも帳消しになってしまいます。

 というわけで、カバーレター作成においても気を抜くことはできないのです。

英文レターの3部構成の書き方を守る

 英文ビジネスレターの基本は3部構成です。最初のパラグラフでレターを書いている理由と要件を述べ、中間のパラグラフでメッセージの本題を具体的に示し、最後のパラグラフで手紙を書いている相手へリアクションを求める、または次に自分がどうするつもりであるかを示します。カバーレターでもこの3部構成を守ります。というのは、この3部形式で書かれた文書が、英語的には一番スムーズに頭に入るからです。

 最初のパラグラフで、その募集をどのような経緯で知ったのかと、応募する意思を伝えます。また、ここで自分が「採用されるに値する人間」であることを宣言することが一般的になっています。

 例えば、

I am sending my resume in response to your October 3rd advertisement in the Japan Times for Installation Engineer. This is an ideal job for me given my enthusiasm for telecommunication, my related experience and qualifications.

(10月3日付ジャパンタイムズに掲載された、インスタレーションエンジニアの募集に応募したく、履歴書を送付いたします。これはわたしのテレコミュニケーションに対する熱意、関連する経験および資格を考えると、理想的な職務です)


のようにです。

 中間のパラグラフでは、募集広告などを通じて企業側が出している必要条件を自分が満たしていることを証明します。必ずしも1パラグラフでなくてもよいですが、カバーレターも履歴書と同様「簡潔さ」が身上のため、通常は1〜3パラグラフでまとめます。

 この中間部については、簡潔さをアピールするために、通常の文章ではなく個条書きや表組みで記述することもあります。表組みにする場合、左列に企業側が広告などを通じて出した必要条件、右列にその必要条件に対応する自分のスキルや実績を並べて、企業側に自分がニーズをきちんと満たしていることを示します。

 最後のパラグラフでは、面接への意欲を示しつつ、相手に感謝の言葉を述べます。面接可能な時間帯や自分への連絡方法を書いておく場合もあります。例えば

I look forward to a personal interview at your earliest convenience. I can be reached at XX-XXX-XXXX. Thank you for your consideration.

(御社の一番早く都合がつく時間に、面接を受けたいと思います。わたしの連絡先はXX-XXX-XXXXです。何とぞよろしくお願い申し上げます)


のような表現ができるでしょう。

英文レターのプロトコル

 日本語の手紙の書き方に独自のプロトコル(儀礼上のしきたり)があるように、英文レターにもプロトコルがあります。このプロトコルを述べるだけで1冊の本になってしまいます。まずはカバーレターに関する知識をお伝えしなければなりません。

 そこでプロトコルについては省略し、今回皆さんにお勧めするのは、ユーザーが多いと思われるMicrosoft Wordのカバーレターの英文テンプレートをダウンロードし、それに沿って作成する方法です(Wordユーザーでない方には申し訳ないですが、それぞれのテンプレートのダウンロードの前に表示されるgifイメージをご覧ください)。ただしWordの英文テンプレートは、前回(連載第9回「紙の力のなせる業」)説明したレターサイズです。実際にこれらのテンプレートを使用して作成する方は、紙のサイズに気を付けてください。

Microsoft Office Online Templates: Cover Letters

 これらのテンプレートの中から、自分が応募しようとする職種、あるいは募集を知った経緯などに合ったものを選び、内容を自分の状況に従って変えていけば、形式の整ったものができるはずです。

 テンプレートの行間、氏名・住所などの配置、「Dear XX」の後のコロン(:)、「Sincerely」の後のカンマ(,)などの句読点は変えないでください。英文レターのプロトコルにかかわるところだからです。

ポジティブな表現が原則

 今回ご紹介したカバーレターのテンプレートの1つは、最初のパラグラフで「The position requirements and my skills are a perfect match.」(このポジションの必要条件とわたしのスキルは完全に一致しています)と宣言しています。またテンプレートにはありませんが、「I believe I have the skills that your company is seeking.(わたしは御社が求めるスキルを有していると存じます)とか、「I feel that I would be an excellent candidate.」(わたしは素晴らしい候補者だと思います)など、日本語の添え状では書けなさそうな強い表現が、英文のカバーレターではひんぱんに使用されます。

 最後のパラグラフにおいても、テンプレートの中には「I can promise that meeting with me will not be a waste of your time.」(わたしとの面接は、御社の時間の無駄にはならないことをお約束いたします)と書いてあるものがあります。これも日本語の添え状では、対応する表現を見つけることができないでしょう。

 こういう英文のカバーレターに目を通すのは、実は英語は理解していてもメンタリティは日本人のままの人かもしれません。その場合にはこのような英語的な表現が、マイナスに働くことがあります。わたし自身もかつてカバーレターで「My experience, skills and knowledge are a direct match for the position」(わたしの経験、スキル、知識はそのポジションにぴったりです)という表現を使い、面接で日本人のマネージャから「英文からうかがえるあなたの性格には、謙虚さが足りないように見受けられるが……」と散々にいわれたことがありました。

 しかしネイティブが目を通した場合、謙虚さを示そうと「まだまだ学ぶことが多いですが」「業界経験は○年と短いですが」などと書いてあると、行間を読まない文化の人たちから「事実としての欠点」と受け取られる可能性があります。ネガティブに受け取られる可能性のある情報は書かない方がよいでしょう。

誰にあてて出すのか

 募集広告には「人事部へ送付してください」「総務部長に送ってください(部長の個人名は書いていない)」のような記述が多いです。米国のキャリアマネジメント関連の指南書には、こうした場合には先方に電話や電子メールで「誰がその応募書類に目を通すのか」を確認し、特定の人物あてに出すべきだとあります。履歴書は具体的な個人名にあてて出す方が効果的だと考えられているからです。

 しかし、個人名を出してしまうと、多数の応募者たちが何度もこの人間にコンタクトを取ろうとしてくるため、ただでさえ忙しいマネージャがますます多忙になってしまいます。だから採用側としてはどうしても教えたくない場合もあるのです。「書類を出したいので上司の名前を教えてほしい」と粘る応募者と、「とにかく人事部あてに送ってほしい」とあくまでも教えないスタッフや秘書たちとの間で、険悪な電話のやりとりになってしまうこともあります。個人名が分かれば個人あてに出すに越したことはありません。しかし教えてくれない場合に粘りすぎるのは逆効果です。

 さて、相手の名前が分からない場合、例えば「人事部長」という特定の職務に出すときは、「Dear Human Resources Manager:」のような形で書きます。出すべき相手の役職も分からないときは、「ご担当者さま」に相当する「To Whom It May Concern:」「Dir Sir or Madam:」などを使います。

 相手の名前は分かっているのに、性別が分からないということもあります。昔の英文ビジネスレターのマナーでは「相手の性別が分からない場合は『Mr.』としておけば失礼にならない」とされたこともあったようです。しかしいまではこうすると、性差別意識のある人間と思われてしまう可能性があります。

 同じような意味で上記の「Dir Sir or Madam:」を、「Dir Sir:」や「Gentlemen:」とする方法は、同じ英語圏でも文化差があり受け取り方が多少異なるのですが、使わない方が無難です。電子メールか電話で、あらかじめ相手の性別の確認をしておいた方がよいと思います。

 そのほかの注意点を挙げておきます。英文履歴書同様、紙は質の良いものを使いましょう。応募先に合わせてカスタマイズし、ぱっと見で読みやすいと感じられるものにしましょう。この点も履歴書と同様です。

 年収に関すること(希望年収や前職の年収)は、特に指定されているのでない限り、書かない方がよいでしょう。

英文履歴書ワンポイント解説

■英文レターのプロトコル

 今回ご紹介したWordの英文カバーレターテンプレートでは、レター本文のほか日付、署名欄など、すべての行が左ぞろえで書かれています。これは「フルブロックフォーム」と呼ばれる英文レターのフォーマットです。

 英文レターのフォーマットには大きく分けて「ブロックフォーム」と「インデントフォーム」があり、フルブロックフォームはブロックフォームの1つです。現在の米国のビジネスレターは、インデントを使わずすべてを左ぞろえで書くフルブロックフォームが中心になっており、このテンプレートもそれにならっています。

 フルブロックフォームの基本的なマージンの間隔、行間の開け方については、About.comのSample Business Letters: Full Block Componentsが参考になります。

 このページにあるレターの構成要素も非常に参考になります。この中から、個人がカバーレターを書く場合に使用する部分を、実際に記載する順番に取り上げてみましょう。


・リターンアドレス(Return Address)

 基本的に発信者の住所を書きますが、現在は発信者の住所の上に発信者の名前を入れるものが多くなっています。ワープロソフトの機能が向上したため、個人でも氏名や住所のほか、電話番号や電子メールアドレスなどを加え、全体をレターヘッド(letterhead、企業などの組織が正式文書に使用する外部向けの便せんのようなもの)風のデザインにした英文レターを書く欧米人が増えています。今回ご紹介したWordのテンプレートにもレターヘッド風のものがありますね。


・日付(Date)

 米国式は「October 25, 2005」、英国式は「29th October, 2005」が一般的です。「29 October 2005」のような書き方もあります。


・インサイドアドレス(Inside Address)

 送付先の氏名(社名)および住所です。なぜ「インサイド」アドレスかというと、封筒にもあて先の氏名と住所を書くからです。紙のビジネスレターの場合は、このインサイドアドレスを必ず入れるべきだと考えられています。

 次のアテンションラインの項目でも述べますが、インサイドアドレスに送付先の氏名を書くと、そのレターは特定の個人にあてたものとされます。アテンションラインに氏名を入れる場合は、ここに個人名は入れません。


Ms. Fiona Smith
Managing Director
ABC, Inc.
XXX Bldg.
X-X-X Marunouchi
Chiyoda-ku, Tokyo 100-XXXX


この場合、Fiona Smith個人にあてた手紙であると見なされます。


・アテンションライン(Attention Line)

 日本語で「特定あて名」と呼ばれています。募集広告の送付先に「Attention: Ms. Fiona Smith, Managing Director」のように書かれていることが多いです。アテンションラインにあて名を入れる場合には、インサイドアドレスは企業あてにし、1行空けて次の行にアテンションを入れます。封筒のあて名も同様にします。


ABC, Inc.
XXX Bldg.
X-X-X Marunouchi
Chiyoda-ku, Tokyo 100-XXXX
Attention: Ms. Fiona Smith, Managing Director


 インサイドアドレスに個人名を入れると、あくまでもその個人あてであると見なされます。従って、当人が出張していたり突然退職したりして不在の場合、いつまでも開封されない可能性があります。しかし、Attention: Ms. Fiona Smithとしておくと、本人がいる場合には本人に届き、本人が不在の場合には、代理の人間が開封するようになるとのことです。


・(冒頭)敬辞((Opening)Salutation)

 日本語の手紙の「拝啓」に当たるものです。個人にあてて出す場合は、「Dear Ms. Smith:」のように「Dear+敬称+ラストネーム」とするのが普通です。冒頭敬辞に付ける句読点は、米国式ではコロン(:)、英国式ではカンマ(,)です。セミコロン(;)は不可です。


・件名(Subject Line)

 これは明確にカバーレターと分かりますから、件名を付けなくてもよいのですが、応募者によってはあえて付ける場合もあります。

 ほかのフォーマットなら、センタリングすれば文書の件名だと判断できますが、フルブロックフォームではこの部分も左寄せになるので、判別ができにくくなります。そこで件名の前に「Subject:」または「Re:」を付けます。この「Re:」とは「〜の件に関して」という意味です。


・レター本文(Body)

 3部構成の本文が入るのは、この部分です。


・結尾敬辞(Complimentary Close)

 日本語の手紙の「敬具」に当たるものです。今回ご紹介したWordのテンプレートでは、この結尾敬辞がすべて「Sincerely,」になっていますが、これは最近のビジネスレターでは、この単語の使用が多くなっているからです。これよりカジュアルとされる「Regards,」は電子メールで多用されます。結尾敬辞の後の句読点は、必ずカンマ(,)にします。


・署名欄(Signature Block)

 結尾敬辞の下に行を十分に空けて自分の名前をタイプし、上部の開いたスペースに自筆の署名をします。自筆で署名するのは、「間違いなく本人が書いたものであることを証明する」という意味合いなので、署名自体は判読できなくてもかまいません(ちなみにわたしは漢字で署名しています。ローマ字だとカッコよく崩せないため、簡単に筆跡をまねされてしまうからです)。


・同封物の注記(Enclosure Notation)

 カバーレターには必ず履歴書が同封されます。

 同封物が1種類のときは「Enclosure」、2つ以上あるときは「Enclosures」です。略して「Encl.」「Encls.」とも書きます。この後に同封物の文書名を書いたり、同封物が複数ある場合はその数を入れたりすることもあります。

 ファックスで送る場合や、電子メールにファイルを添付して送る場合には、「Enclosure[s]」の代わりに「Attachment[s]」という表現を使います。


筆者プロフィール

福島由美

外資系メーカー、会議通訳、再就職支援会社勤務などを経て、現在は某大学で非常勤講師としてビジネスコミュニケーション科目群を担当。異文化ビジネスコンサルタントとしても活動中。著書に『異端パワー?「個の市場価値」を活かす組織革新「新しい経営」シリーズ』(共著、日本経済新聞社)がある。



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