英文履歴書をより魅力的に、ほかの人と差別化して書くにはどうしたらいいのか。そんな英文履歴書の書き方、使い方を解説しよう。
米国と日本の紙を比べると、トイレットペーパーにしろ、紙おむつにしろ、ノートにしろ、概して日本製のものの方が質が良いようです。ところが履歴書や企画書の紙の質となると、その逆であることが多いようです。
英文履歴書を印刷する紙は、どのようなものがよいでしょうか。日本語で書かれた英文履歴書の本やWebサイトを参考にするとこうなります。「A4サイズの白またはクリーム色の、厚めのOA対応上質紙(上質紙70g/m2ぐらい)」。値段が高めのコピー用紙、またはマルチユースのOA用紙を選べば、厚手の上質紙ということになるでしょう。
実はこれだけでは、ネイティブが考える「履歴書にふさわしい紙」の条件は満たしていません。英文履歴書にふさわしい紙とはどのようなものでしょうか。
紙を光にかざしてみましょう。ウォーターマーク(透かし)は入っていますか。
ネイティブの考える「履歴書にふさわしい紙」とは次のようなものです。「色は白、アイボリー、オフホワイトのどれかで、ウォーターマークの入っている厚手の上質の紙。コットンファイバーが少なくとも25%は配合されているもの」
米国には「履歴書や企画書に良質の紙を使えば、普通のOA用紙の場合よりも、面接に持ち込めたり企画が通ったりする確率が高くなる」という調査結果があるそうです。紙の力のなせる業です。
そのような調査がなくとも、以前から米国企業は企画書などの用紙にはこだわる傾向がありました。企画書を作るとき、日本企業は表紙はともかく中身はOA用紙を使うところが多いのですが、米国企業の多くは、ウォーターマーク入りの厚手のボンド紙などを使い、スパイラル製本をします。企画書であれ履歴書であれ、「紙で提出する売り込みツールには、良い紙を使うことが成功のコツ」と心得ているわけです。
米国ではResume Paperなるものが売られています。だいたいは100%コットンの厚手の紙で、もちろんウォーターマーク入りです。どういうものかは、DealTimeのResume PaperのWebページを見てみてください。
え、そんな紙があるなら、個人輸入でもしてみたい? 残念ながら、このResumePaperはすべてレターサイズ(Letter Size、北米のローカルサイズ)です。日本でこのサイズの紙を使っているのは、米国系の公的機関や、本国色の強い米国系企業だけでしょう。
日本で英文履歴書を提出する場合には、2つの事情を考えて用紙の選択をしなければなりません。
1つ目の事情は、英文履歴書を郵送する場合、一緒に日本語の職務経歴書や添え状を提出する機会が多いことです。日本語の職務経歴書は「厚手の白のOAペーパー」が基準になるので、英文の履歴書の用紙と日本語の職務履歴書の用紙をあえて変えるべきか、という問題が出てきます。両方の紙の質をそろえるなら、OAペーパーで統一するか、ウォーターマーク入りの紙で統一するかを考えなければなりません。
2つ目は、ウォーターマークの入った紙が、日本ではなかなか手に入りにくいことです。それでもウォーターマーク入りの紙でネイティブにアピールしたい方には、伊東屋が出しているプリンタ用紙の中から、次の2つをお薦めします。どちらもデパートや大手家電店のOA用紙のコーナーなどで手に入ります。伊東屋の通販サイト「ITO-YA e-STORE」からも購入が可能です。
コンケラーはヨーロッパではビジネス用の紙として定評があり、企業のレターヘッドなどに使われます。ブリリアントホワイト・ウーブはビジネス向きの紙で、色は純白です。定価は100枚1500円と、少しばかり高いのが欠点です。
コンケラーレーザーの用紙にはウーブのほかにレイドという種類があります。レイドはすの目状の透かし筋入りの用紙なので、履歴書には向きません。
クーリエのウーブには色が2種類ありますが、入手しやすいのは「オイスター」で、その名のとおりオフホワイトです。「ベラム」は色が濃いので、履歴書がコピーされる可能性を考えると、あまり向いていないかもしれません。こちらは100枚700円です。
クーリエにはスーパーウーブという種類もありますが、こちらはウォーターマークが入っていませんので、気を付けてください。
さて、この記事を読み、今後は書類一式をこれまでより厚い紙にプリントアウトしようと決心した人は、郵送料に気を付けましょう。紙は数枚まとまると意外と重く、郵送料が変わってしまうことがあります。実際、用紙を変えて総重量が増えたことに気付かず、コピー用紙のときと同じ郵送料で書類一式を送って、料金不足で送り先に迷惑を掛けた人がいます。
■A4とレターサイズ
皆さんが英文履歴書や英文の手紙を作成するときの紙のサイズは、A4(210mm×297mm)です。A判は国際判と呼ばれ世界中で通用するサイズで、A4の用紙は世界中のビジネスで広く使われています。しかしこの世界標準が通用しない国があります。北米、つまり米国とカナダです。この2つの国では、レターサイズというA4と少々異なるサイズがビジネス文書のサイズの主流になっています。
レターサイズは215.9mm×279.4mm(=8.5インチ×11インチ)で、A4よりも縦は若干短く、横幅は若干広くなります(図1)。輸入ものの3穴のノートやルーズリーフのサイズといえば、「ああ、あの大きさ」とピンとくる方もいらっしゃるでしょう。
北米ではこのレターサイズが広く使われているため、A4の紙が使われる機会はあまりありません。国内標準ですから、北米に住む人間が自国内向けに履歴書を作成する場合には、レターサイズの用紙を用います。
そのため、外資系企業の米国本社・カナダ本社へ英文履歴書を直接送付する方や、北米に留学する方から、しばしば「履歴書やほかの応募書類はレターサイズで作成すべきか」「どこへ行けばレターサイズの紙が手に入るのか」という質問を受けることがあります。特に留学で使う方は募集要項に「レターサイズで○枚ぐらい」などと書かれている場合もあり、かなり困惑するようです。
単にファイル添付の形でレターサイズの書類を出すのであれば、事は簡単です。ワープロの設定をレターサイズにして打てばよいからです。特に米国生まれのMicrosoft Wordの日本版の英文テンプレートは、デフォルトでは用紙サイズがレターサイズに設定されているので、レターサイズの文書が非常に楽に作成できます。デフォルトのマージンもインチ換算にするとちょうどよい数字になっています。ツールのオプション画面で「使用する単位」を「インチ」にしておくと作成しやすいと思います。
しかし、レターサイズの用紙に印刷して送るとなると、少しばかり難しいことになります。レターサイズの用紙は北米以外では入手しにくいからです。日本国内ではネットの通販や、輸入文具を取り扱う伊東屋や丸善などの大手文具店で購入することができますが、至急作成して郵送しなければならない場合、特に地方在住者は入手にかなり苦労することがあります。
レターサイズを入手できない、または入手が間に合わないためA4で送ろうと考えた場合、「サイズ違いの紙を用いることで、審査上不利にならないか」「履歴書がコピーされたときに、不具合が生じるのではないか」「相手が履歴書をファイリングするときに、サイズ違いで困るのではないか」といった懸念が生じてくるでしょう。この点に関して、私は次のように説明しています。
2の理由については、今回の連載で紙の質の重要さについて説明したので省略することにし、ここでは1の理由についてお話ししましょう。
まずサイズ違いが起こす、審査上の影響についてです。レターサイズは北米のローカルサイズですから、日本と同様に入手経路が限られているか、入手不可能に近い国の方が多いのです。一方、A版は多くの国が使っている国際規格です。海外と接点のある北米の組織は、A4のサイズの書類を受け取る機会が非常に多いのです。例えばヨーロッパから来る手紙は、A4で作成されたものがほとんどです。
そのため、A4は北米では「ヨーロピアン・レターサイズ」(European Letter Size)として知られており、レターサイズが入手できない場合はA4で代用することが事実上の了解事項になっています。逆に北米に住む人がA4サイズの書類を求められ、A4が入手できない場合は、レターサイズで代用するということになります。
2つ目の懸念は、A4の紙に書いた履歴書がレターサイズの紙にコピーされて、用紙の上下の印字が切れたり、書類の中心がずれるかもしれないということでしょう。これもあまり気にすることはないと思います。
A4の印刷物をひんぱんに受け取る北米の組織は、A4で印刷されたものをレターサイズの用紙にきれいにコピーするには、93%か94%に縮小するとよいことを知っています(逆にレターサイズの書類をA4にコピーする場合は、97%に縮小するとよいといわれています)。コピー機には、93%、94%、97%といった複写の定型倍率を備えたものがありますが、これはA4とレターサイズの間でコピーが行われることを想定したものです。
3つ目の、ファイリングの際のサイズ違いの懸念ですが、これについては何ともいえません。北米でもA4を収納するバインダーやファイルは入手可能ですが、A4をレターサイズでファイリングしても横幅は問題がないため、ひょっとするとレターサイズ用のクリアブックや3穴バインダーに、A4の履歴書の上がはみ出した状態でファイルされているかもしれません。
さて、皆さんを混乱させたくはないのですが、用紙のサイズについて日本国内で実際起こっていることを、参考までに記しておきます。
皆さんがA4で作成した英文履歴書は、サイズ違いのレターサイズでコピーされる可能性があります。なぜかというと、米国やカナダに本社を置く企業の日本法人・支社・支店の中には、書類をすべて本社に合わせてレターサイズで作成・コピーしているところがあるからです。こういう企業は、日本語の文書ですらレターサイズで作成する場合が多いのです。
自社内の書類をレターサイズで統一しても、日本国内に拠点を構えている以上、社外から来る書類はほとんどがA4で作成されています。しかしこういう企業には、レターサイズのコピー用紙は大量にあってもA4の紙のストックはほとんどありません。そこでA4の書類もレターサイズにコピーすることになり、皆さんのA4の履歴書もレターサイズにコピーされてしまうわけです。
少々やっかいなのは、同じ業界の北米系企業でも、現地の事情に合わせて自国外ではA4を使用する企業と、あくまでも本社に合わせてレターサイズを使う企業があることです。応募の際には採用窓口に「履歴書を送りたいのですが、御社はレターサイズとA4のどちらをお使いですか」と聞いてみてもよいかもしれませんが、おそらく「どちらでもよい」といわれるでしょう。
こういう企業は、ほとんどの英文の履歴書がA4で来ることを想定しています。しかし米国やカナダから日本に応募してくる人や、日本国内でも「米国企業にはレターサイズ」と信じている人から、レターサイズの履歴書を受け取ることもあります。そこで応募書類をA4ワイド(レターサイズの収納も可能な、横幅の広いA4の変形サイズ)でファイリングしており、A4とレターサイズという2つの異なるサイズの英文履歴書が集まってきても、特に問題が起こることはありません。
最後に、いうまでもないことですが、B判は日本国内のローカル規格ですから、B5やB4といったサイズは、英文履歴書のみならず英文の文書全般に向いていません。
本記事は、「B-zine(ビージン)」(メールマガジン)に掲載された記事を基に加筆、修正したものです
福島由美
外資系メーカー、会議通訳、再就職支援会社勤務などを経て、現在は某大学で非常勤講師としてビジネスコミュニケーション科目群を担当。異文化ビジネスコンサルタントとしても活動中。著書に『異端パワー?「個の市場価値」を活かす組織革新「新しい経営」シリーズ』(共著、日本経済新聞社)がある。
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