紋切り型の管理作業を繰り返しマウスで実行するのは非人間的だ。ぜひWindows Script Hostで自動化しよう。待望の超入門連載スタート!
Windows PCを使っていて、あるいはWindowsサーバを管理していて、「何で人間様が、こんなこまごまとした作業を繰り返し、何度も何度もやらないといけないの?」と思うことはないだろうか。例えばこういう作業はどうだろう。
「My Documentsフォルダ内にある2005年に作成されたファイルのうち、最近1カ月更新してないテキスト・ファイルの中身を確認したいので、それらのファイルの1行目を抜き出して1つのテキスト・ファイルにする」
これを手作業でやろうと思うと大変だ。まずエクスプローラでMy Documentsを開き、詳細表示モードにし、作成日時と更新日時をにらめっこしながら該当するファイルを選び、メモ帳で開いて1行目をコピーし、もう1つメモ帳を立ち上げてそれを貼り付け……、という操作を複数のファイルで繰り返す。フォルダが階層化されているなら、すべてのフォルダを探しつつ、同じ作業を何度も何度も繰り返さなければならない。そんなことは考えるだけで嫌になってくる。しかもこの作業を定期的に実行するのだとしたら、その憂うつさは計り知れない。
だが、わたしたちは、本当にそんな非人間的な単純作業に従事する必要があるのか。そんなことは、コンピュータに自動的にやらせたいと思うのが人情ではないだろうか?
■連載目次
第1回 WSHを始めよう
第2回 VBScript基本(1)文字列の入出力
第3回 VBScript基本(2)計算と分岐処理
第4回 関数を使いこなす:文字列、数値、日付
第5回 データ型について理解を深めよう
第6回 VBScriptの配列を極める
第7回 Subプロシージャで処理を定義
第8回 Functionプロシージャで関数を定義
第9回 VBScriptのオブジェクトを使いこなす
第10回 WScriptオブジェクト(1)
第11回 WScriptオブジェクト(2)
第12回 WshShellオブジェクト(1)
第13回 WshShellオブジェクト(2)
第14回 WshShellオブジェクト(3)
第15回 WshNetworkオブジェクト
第16回 FileSystemObjectオブジェクト(1)
第17回 FileSystemObjectオブジェクト(2)
第18回 FileSystemObjectオブジェクト(3)
第19回 TextStream/Dictionaryオブジェクト
Windows Script Host(以下WSH)は、Windows 98からWindows OSに搭載された、ある決まった一連の手続き(スクリプト)をテキスト・ファイルに記述したもの(スクリプト・ファイル)を実行する「スクリプト実行環境」である。人間様に代わって、冒頭に挙げたような非人間的なルーチンワークを引き受けてくれるありがたい存在である。この救世主は、OSがWindows 98以降(Windows 98、Windows Me、Windows 2000、Windows XP、Windows Server 2003)であれば、お得なことに最初からインストールされているので何も設定せずとも利用可能である。ただしWindows 98/Me/2000にプリインストールされているものはバージョンが古いので、以下のWindows Scriptのページで最新バージョン(Windows Script 5.6=WSH 5.6)をダウンロードしてインストールするのが望ましい。本連載でも、Ver. 5.6がインストールされていることを前提にして解説を進めていく。
WSHはスクリプト実行環境と前述したが、スクリプトとは一種のプログラミング言語である。プログラミングというと難しいものだというイメージがあるかもしれないが、スクリプトはお手軽に記述でき、しかも習得が容易になるように簡素化が図られているので心配することはない。
WSHには標準で2つのスクリプト言語のエンジンが含まれている。「VBScript」と「JScript(マイクロソフト版JavaScript)」だ。この名前に聞き覚えのある方もいるかもしれない。どちらもWebブラウザであるInternet Explorer(以下IE)上で動作するスクリプト・エンジンと同一のものである。IEではHTMLファイル(*.html)などの<script>タグ内にスクリプトを記述するのに対し、WSHでは、*.vbs(VBScript File)や*.js(JScript File)というファイルにスクリプトをじかに記述する(VBScriptとJScriptを混在させることが可能なwsfファイルという形式もあるが、ほとんどのスクリプトはVBScriptのみで記述できるので、本連載では扱わない)。ただし、VBScriptとJScriptの文法などは非常に似通っているが、それぞれのスクリプトで使用する「オブジェクト」(次回以降で詳しく解説する)は異なるので、記述するスクリプトは、同じ処理でもまったく同一にはならない。初心者にもたやすく理解できると思われることから、本連載では、これらのうちVBScriptを使用する。WSHによるスクリプト作成を基礎から解説し、実際にシステム管理に使えるスクリプトまでを詳しく解説していく予定だ。
VBScript/JScriptとWSHの関係を示すと以下のようになる。WSHでは、VBScript/JScriptで記述したスクリプト・ファイル(テキスト形式)を作成し、これを実行させる。これを可能にするホスト環境がWSH(Windows Script Host)である。今回の最後で少しだけ紹介するが、WSHのスクリプト・ホストには、GUI版とコマンドライン版の2種類がある。
この記事をお読みの方の中には、自動処理化というと、バッチ・ファイルを思い浮かべる方もいるかもしれない。バッチ・ファイルも、WSHと同じく繰り返し作業を自動化させる仕組みであり、MS-DOSの時代から存在していた。バッチ・ファイルは、順に記述したコマンドやアプリケーションを、出現順に実行するのが基本である。
そんな基本的なことしかできないバッチ・ファイルだが、そのニーズはGUI全盛期になっても存在している。事実、Windows 2000になってバッチ処理機能はかなり強化され、Windows 9x/Me以前に比べると、より複雑な処理ができるようになった。しかしながら、もともと単純だったバッチ・ファイルに複雑な処理をさせようとしたため、その構文は直感的ではなく、ずいぶん複雑なものになってしまった。「分かる人には分かる世界」という感じだ。その気になれば、冒頭の例に挙げたようなことをWindows 2000やWindows XP/Windows Server 2003のバッチ・ファイルで自動処理させるのは不可能ではないが、複数のコマンドを複雑に組み合わせなければならないだろう。また、後述するようにWSHでは、オブジェクトを使いこなせば事実上できないことはほとんどない。しかもVBScriptは、バッチ・ファイルよりはるかに柔軟性があり、分かりやすい記述ができる強力なスクリプト言語なので、いまからバッチ・ファイルの文法を学習する必要はないだろう。
少々余談めくが、マイクロソフトが現在開発中のWindows次期バージョン、Windows Vistaにも、WSH 5.6が含まれる予定なので、本連載で学習したことは将来的にも無駄になることはない。ただし、残念ながらWSHに新機能が追加されることはもうないので、今後はバグフィックスなどのマイナーチェンジにとどまると思われる。将来的にWSHは、Windows PowerShell(PS、旧Microsoft Command Shell= MSH)にスクリプト実行環境のバトンを渡すことになる(PSの詳細については関連記事を参照)。だが、VBScriptを学ぶことでプログラミングの一般的手法をマスターすることができ、PSの習得も容易になると信じている。また、PSからWSHのスクリプトを実行することが可能であるだけでなく、PSスクリプトの中からWSHのオブジェクトを呼び出して利用することも可能だ。従って本連載で得られる知識とスクリプト資産は、PS時代になっても息長く活用できる。安心してWSHの学習を始めていただきたい。
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