なぜ、ITエンジニアの頭脳は疲労するのかITアーキテクトが見た、現場のメンタルヘルス(1)(2/2 ページ)

» 2007年08月27日 00時00分 公開
[樋口節夫樋口研究室]
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外国人エンジニアに仕事を取られる?

 ITの仕事を支えているのは、もちろんコンピュータです。コンピュータ技術は、世界中の専門家が英知を尽くして築き上げてきたものです。「ITの世界では、世界のITエンジニアと一緒に仕事ができる」。そんな思いを持ってこの業界に入ってくる人も多いでしょう。しかし最近、こんな人たちが私のオフィスを訪れます。

 「自分の仕事が外国人に取られてしまうようで、怖い」

 「私は、英語が嫌いだ」

 グローバル化の波が押し寄せ、中国やインドのITエンジニアが日本人の仕事を奪い取っていく状況が思い浮かびます。

 しかし驚くのは、こういう言葉を発する人たちに技術力がないかというと、決してそうではないことです。じっくり話を聞いてみると、その人たちにはコンピュータの知識も技術もある。プロジェクト管理の経験もある。しっかり仕事をしています。それなのに、なぜこういうことをいうのでしょうか。

 プロの運動選手の仕事の基は「体」です。ケガや体調不調が、たちまち自分のパフォーマンスに響きます。それと同じように、ITエンジニアのパフォーマンスを支えるエンジンは「脳」です。

 脳の働きは、皆さん1人1人異なります。調子の良いときも悪いときもあります。ITエンジニアは、自分の脳を自由に働かせられるような現場を好みます。しかし最近の仕事の環境や体制の中には、脳の自由な働きを妨害するさまざまな要因が渦巻いています。

 体の自由が奪われたら、それを取り除く行動を起こすでしょう。手足が鎖でつながれていたらそれを切ろうと思うし、牢屋に閉じ込められていたら、爆破して脱出しようという行動に駆られます。しかし、脳の自由がなくなってきたためにパフォーマンスが低下し、上記の人たちのような考えを持つようになっても、何が原因でそういう問題が起こっているのかすぐには分からないのです。

ITエンジニアの脳を乱す、組織の構造

 とあるITエンジニアが私のオフィスに来て、ポツリとこんなことをいいました。

 「仕事を終えて自宅に帰っても、何もする気が起こらない。土日もそれを引きずっているのです」

 体はしばらく休めば回復しますが、脳はなかなか回復しません。脳の乱れの原因にストレスの増加があるといわれ、このストレスには「肉体的ストレス」と、「精神的ストレス」の2つがあります。肉体的ストレスは、体の動きですぐに防御できます。しかし精神的ストレスは、自分の脳で考えて防御する必要があります。例えばお客さまからクレームが来て、精神的ストレスが増加すると、それを回避する手法が自分の頭に浮かんでこない限り、長い間ずっとそのストレス状態が続きます。

図1 精神的ストレスの蓄積が頭脳の疲れを引き起こす 図1 精神的ストレスの蓄積が頭脳の疲れを引き起こす

 私は、IT業界の仕事には肉体的ストレスよりも精神的ストレスが多いことを突き止めています。そして精神的ストレスが短い時間に数多く起こるという、現場の特質を知っています。

 そのため、皆さんの中には精神的ストレスが徐々に蓄積されていきます。

 発生した1つの精神的ストレスを忘れる間もなく、次の精神的ストレスが発生します。それが繰り返され、たまりにたまって、爆発的な行動や心の問題に発展します。

 しばらく現場を離れ、回復したと思っても、戻ればそこには相変わらず脳を乱す原因が渦巻いています。もし、皆さんが何も武器を持たずに戦場に戻れば、当然また元の悪い状態に戻ってしまいます。

 皆さんの多くは、仕事がうまくいかない状態を改善したいと思っているでしょう。コンピュータという正確に動く道具を使って仕事をしているわけですから、それは当然のことです。

 自分の脳が乱れる、その本当の仕組みを知りたいと思いませんか。原因やきっかけが分かれば、自分の心や体の準備ができますし、それに対処する武器を準備できると思います。

 次回からは皆さんの会社や組織、チーム、現場に潜んでいる、ITエンジニアの脳を乱す構造を解き明かしていきます。

 文句をいっても誰も聞いてくれない理由。疲弊したプロジェクトを会社が残す理由。チームの中で信頼感が低下する理由。信じていたものに裏切られてしまう理由。会社や組織の中には、このように皆さんの脳を乱す構造が数多く存在しています。

 皆さんにこの構造を知ってもらい、ITコーチングの手法を活用して、自分の身を守って元気よく仕事を継続するための方法をアドバイスしていきたいと思います。もし私と会いたいと思われたら、樋口研究室に遊びに来てください。皆さんのお越しをお待ちしております。

筆者紹介

樋口研究室

樋口節夫

日本アイ・ビー・エムに22年間勤務し、その後独立。アーキテクトとしてメインフレームからオープンシステムまで幅広いシステム構築に携わった経験から、コンピュータシステムの良しあしはそれを使う人間の良しあしによって決まることを発見。人間のパフォーマンスアップツールとしてITコーチング手法を開発し、人材開発およびテクニカルコンサルタントとして活躍中。『ITコーチング入門―SE・ITエンジニアのための問題解決とスキルアップ』(技術評論社刊)をはじめ、技術系や人材系の著書多数。主宰する樋口研究室では、ITエンジニアが危機から身を守るための練習会(ワークショップ)も実施している。



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