辻 大群ともなればリーダーの存在というものが気になります。オペレーションがたくさんあることを考えると、オペレーションごとに指揮を取る人物がいることが想像されるのですが。
A 基本的には、リーダーは存在しません。もし、自発的に「自分がリーダーだ」などと名乗り出て、仕切ろうとしようものなら、周りからバッシングを受けるでしょう。
とはいっても、発言の内容やアクションによって周りから尊敬され、一目置かれる存在となり、結果的にオペレーションをけん引する立場になる者はいます。しかし、それはテンポラリ(一時的なもの)で、特定のオペレーションが終われば、そのポジションは終わりになります。
また、多々あるオペレーションの多くの情報は、オープンなIRCでやりとりされています。そこでいろいろな意見を出し合い、オペレーションについて決定していきます。そのプロセスは、皆さんが思われているよりも民主的かもしれません。過去、同じオペレーションに参加していたからといって、今後も同じメンバーで同じオペレーションに参加するというわけでもありません。特定ではないのです。
辻 個人的には、アニメ「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」に登場する「個別の11人」を思い出しました。「個別の11人」はリーダーを持たず、それぞれの意思で同じ目的に向かうといった印象があります。
A どちらかというと「個別の11人」よりは「笑い男」のイメージのほうが近いかもしれません。私は、そちらのほうが好きです。
辻 「笑い男」ですか。自然発生的に「オリジナルなきコピー」を生み出し、象徴的なマークは社会現象さえ起こした……確かにいわれてみれば、このイメージのほうが近いのかもしれませんね。
辻 日本のAnonymousのWebサイトを見ると、YouTubeへの動画のアップロードや同人誌の発行をされていますね。コミケなどにも積極的に参加されているようですが。
A はい。自分たちの活動内容を表現しています。基本的に情報、表現の自由というものを守りたいと考えていますので、我々Anonymous日本の一部は、東京都の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」には反対です。ただ、今年の夏コミは、反ソニーのAnonymousの影響で、そちらと間違われてトラブルになるかもしれないので心配です。
辻 やはり、昨今の報道の影響で「Anonymous=ハッカー・クラッカー集団」というイメージが強くなっていますか?
A そうですね。それに関する質問のメッセージを受け取ったりもしています。
辻 しかし、あなたはそうではないんですよね?
A はい、もちろん。先ほどもいった通り、反ソニーのAnonymousの影響で、どちらかというと迷惑すらしています。PSNの件は、ソニーに対する抗議行動を行うはずが、PSNのユーザーに迷惑をかけましたし、遺憾です。Anonymousの中にもたくさんのゲーマーがいるはずなのに。
私自身は、合法的に抗議行動を行っています。他の多くのAnonymousもそうです。例えば、「WhyWeProtest」というサイトでは、情報を盗み出す行為はおろか、DDoSなどの違法行為を推奨しないどころか、場違いなものとしています。
辻 2011日4月3日に実施された「Operation Sony」でのDDoS攻撃のあと、まだ真相は不明のままとなっている、PSNの情報漏洩事件がありました。その事件に関する報告の中で、侵入の被害を受けたサーバ内に「We Are Legion.」という文言が含まれた「Anonymous」というファイルが見つかったとのことですが。
A これは個人的な見解ですが、本当に「Operation Sony」に参加していたAnonymousのメンバーが実行したのであれば、何の主張もせずにこっそりとファイルだけ置いておくということは考えにくいことです。
もしかすると、初めから「Operation Sony」に乗じて情報を盗み出すことを企てていた人物がいたのかもしれません。AnonymousのIRCはオープンで誰でも参加できますので、その人物(たち)が紛れ込んでいたということも考えられます。過去にも、AnonymousのフリをしてIRCに潜り込み、Anonymousのことを調査していたセキュリティ専門会社の人間もいましたから。
辻 Anonymousが生まれた頃といまを見比べると、Anonymousにはさまざまな側面が生まれているように思います。影のヒーローのように見られている部分もあれば、悪の組織とも見られているのではないでしょうか。おそらくそれは、文字通り「大群」となり、いろいろな枠を超えてしまったことからの必然だと思います。そのようなことを踏まえて「Anonymousとは一体、何なのか?」を表現するとどうでしょうか。
A 正直言って、適切な言葉は見当たりません。グループでもチームでも、ましてや組織でもありません。お互いのことを知らずとも、共感することがあれば行動します。時にはジョークを言い、時にはケンカもします。その中で違法な行動に出る者もいれば、それを否定し、合法的な活動のみを行う者もいます。
一番近い単語としては「tribe」でしょうか。しかし、これも適切とは言い難いですね。コードを書いて、それが受け入れられればマージされ、必要に応じて有志によるメンテナンスが始まるといったオープンソース的な性質も持つ、ヒューマンネットワークともいえるかもしれません。あえてひと言で表現するならば、「Anonymousは世界的な抗議共同体である」となるのかもしません。
例えば、2ちゃんねるをよく知らない人の中には、テレビなどの事件報道を見て2ちゃんねるを嫌う方もいるでしょう。どんなに恐ろしいところなのだろうと。しかし、実際に自分の目で2ちゃんねるを見るとそうでもない、という場合もあると思います。それを知ってください。
それに、私は日本が大好きです。でも、それでも、皆さんが「Anonymousが嫌いだ」というのであればそれも自由です。
今回は、日本で活動するAnonymousの1人とお話しさせていただいた。実際に会うまでは、一体どんな人なのだろうと若干ソワソワしていたのだが、対面してみると、正直、気さくでどこにでもいる話好きな人という印象だった。
Anonyumousの正体に限らず、私たちは、ある特定のところから発信される情報だけを基に、国や組織、個人に対して固定観念、果ては偏見を持つということを日常的に行っているのかもしれない。今回の取材を通じて、ある事象のみを取り上げ、容易に「○○とは××である」と語ることはできないと、あらためて痛感した。
真実を知ることもあれば、ウソにだまされることもある。だが、どこかから流れてきた情報を机上で駒にして遊ぶのではなく、自身を駒にして、行動し、いろいろなものを得ることにこそ価値がある。それは、自分自身の収穫にもなるのではないだろうか。
そんなことを考えながら「いまから大好きな秋葉原に寄ってから帰ります。今日はありがとうございました」と笑顔で会釈するAnonymousを見送った。
ダークナイト番外編 本当のAnonymousが知りたいの
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日本で活動するあるAnonymousの声
どこで生まれたのか
いつ生まれたのか
トレードマークのマスクの意味は?
Anonymousを構成する人たちとは
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リーダーは存在するのか
普段の活動とは
反ソニー報道による影響は
「Anonymous」を一言で表すと
「百聞は一見にしかず」
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