―――海外で働き、何度も海外に足を運ぶことで、逆に「日本のSNS業界、ソーシャルアプリ業界」が相対的に見えてくるのではないかと思います。日本の“外”から見て、日本のSNS業界、ソーシャルアプリ業界やそこで働くエンジニアはどんな感じでしょうか。
荒木氏:まず言えることは、日本のモバイル市場は成熟しており、他の国に比べて大きな利益を生み出しているということです。これには日本の課金制度や仕組みがきちんとしていることや、ユーザー層の特性などが理由として考えられます。北米にも名だたるアプリ開発企業はありますが、日本のように「月1億円規模の利益」を出している企業がたくさんある、という状況とは程遠いです。
この差にはいくつか理由が考えられますが、最も大きい理由の1つとして、日本は携帯電話のユーザー、もっと言えばモバイルでお金を払うユーザーが非常に多いことが挙げられます。この文化は、10年かけて日本のモバイル業界が培ってきたノウハウが生きています。
エンジニアについてですが、海外に出てみるとつくづく日本人エンジニアは優秀だと感じます。日本エンジニアは、特定の分野に閉じこもることなく、幅広く横断的にノウハウを蓄積しているという強みがあります。アメリカのエンジニアは、特定の分野に特化した専門性を持っていることが多く、狭い分野でキャリアを積んでいく傾向があります。アメリカ人のスペシャリストが3人そろいながらこう着していたプロジェクトが、日本人エンジニアが入った途端に解決したことがありました。ちょうど、3人の専門分野以外のところに問題があったわけです。
こういったことを考えると、日本人エンジニアの活躍の場は海外でもたくさんあるのではないでしょうか。国際チームを作る上では、このようにそれぞれのエンジニアの特長・強みを生かしつつ、グローバルプロジェクトを推進するチームを作ることが重要だと思います。
―――最後に、日本のエンジニアに向けてメッセージをいただけますか。
荒木氏:日本人エンジニアは特定分野にこもらないスキルを身に付けているし、大規模開発に従事しているなど、能力面においては世界の最先端を行っている人が多くいると思います。「自分は通用しないのではないか」などと思わず、ぜひグローバルレベルでの活躍に挑戦していってほしいですね。
今後、あらゆる開発のグローバル化が進むにつれ、日本国内専門のSI業界はますますシュリンクしていくと思っています。実際、グリーではSIから転職してきたエンジニアが数多くいます。彼らが転職してくる理由は、「もっとユーザーに使われるサービスを作りたい」「成長路線の分野で働きたい」「ずっと開発に携わりたい」といった理由が多いですね。SIベンダでマネジメント方面に進んで開発ができなくなるのが嫌だからという“開発志向”の人も多くいます。彼らは、「インターネットで世の中を変えられる」「できることはまだまだある」というモチベーションを持って働いています。
世界のトレンドが変わっていくなら、それに見合うスキルを身に付けようという姿勢が重要ではないでしょうか。世界の変化からは、誰も守ってはくれないのですから。
グリーは、極めて自然体でグローバル展開を推進している企業という印象でした。荒木さんいわく、グリーが展開するソーシャル系の世界にはそもそも国境などないとのことでしたが、とはいえ多くの企業が人と組織の面で壁にぶつかる中、スピード感のあるグローバル展開を着実に進めているようです。
スマートフォンへの移行はグローバル競争に身を置くことを意味し、その環境でどう競争に勝っていくかはまさに「生存条件」です。対談中に「適応」「適応力」という言葉がよく出てきました。まさに、これがキーワードではないでしょうか。グローバルなレベルで激しく変化し続ける環境にどう適応していくかが、その能力をどう持つかが会社にとっても個人にとっても強く求められるものであると感じさせられました。
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長
大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。
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