顧客から信頼されるエンジニアになる4ステップ仕事を楽しめ! エンジニアの不死身力(19)(2/2 ページ)

» 2011年12月20日 00時00分 公開
[竹内義晴特定非営利活動法人しごとのみらい]
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1.顧客が何に困っているのか(現実)を知る

 「顧客が何に困っているのか」――改めて問われると、なかなか思い浮かばないかと思います。このような場合は、考えるヒントとして具体的なシーンを思い浮かべたり、網羅的に考えたりする方法が有効です。

 あなたが最も「ありがとう!」と言われたい人を1人選んでください。そして、その人がつい愚痴ってしまいそうなシーンを思い浮かべます。例えば、デスクで頭を抱えている姿や、会議でいつも言っていそうなこと、顧客が工場のラインで困っている様子、居酒屋で愚痴っているシーンなど、あるシーンを決めてください。もし、顧客となかなか顔を合せる機会がなければ、想像できるシーンで構いません。

 そして、できるだけリアルにそのシーンを想像します。そこで、顧客がどんな表情をしているかを観察します。そのシーンがいつの出来事で、どこで行われていて、周りに誰がいて、何をしているのか、なぜ悩んでいて、どのように困っているのか、何を考えているのか、「5W1H」の観点を使ってできるだけ具体的に想像しましょう。

 さて、ここからが本番です。そのシーンの中で、その人がついぼやきそうな一言、愚痴を言いそうな一言を探してください。「最近、○○なんだよなあ」というような声が聞こえてきましたか? 「顧客が何に困っているのか」については、頭の中で論理的に考えるよりも、具体的なイメージや愚痴っている言葉を想像すると、「本当に困っている姿」が分かりやすくなります。

 イメージしたシーンや顧客の声は、どこかにメモしておきましょう。「つい、ぼやきそうな一言」「愚痴っている一言」は、顧客が本当に困っている可能性が高い事柄です。

 以下は、以前私がシステムエンジニアとして関わっていた、顧客Aさんの一例です。

  • Aさんは30代前半の、システムをまとめる情報システム部員
  • 職場の雰囲気が悪く、ギスギスしている
  • 高圧的な上司と、なかなか動いてくれない部下の間で、いつも「自分はどういう振る舞いをしたらいいか」に悩んでいる
  • デスクに座って、周りの人に気付かれないように、ときどき深いため息をついている
  • Aさんは、プログラミングは少しだけかじったことはあるけれど、システムについて専門で勉強したわけではないし、部下や、パートナー企業のスタッフをまとめるような自信もない
  • けれど、社内にはそこそこ顔が利き、開発要件を聞く際、現場の意見を吸い上げることはできる
  • 現場の仕事は分かるから、パートナー企業のスタッフに業務的な情報は伝えることができるが、ITの知識があまりないため、上手に説明できない
  • Aさんが、つい愚痴ってしまいそうな一言
    • 「毎日プレッシャーばかりでやってられないよ」
    • 「上からも下からも挟まれて、誰も俺の気持ちを分かってくれない」
    • 「もう少し、技術的なことが分かれば、パートナー企業のスタッフにもアドバイスできるんだけどなあ」

 Aさんの現場は、エンジニアの知識や技術だけでは解決できない課題がたくさん盛り込まれています。

2.顧客がどうなったらハッピーなのか(理想)を知る

 続いて、「顧客がどうなったらハッピーなのか」をイメージしてみます。やり方は、先ほどと同様です。

 理想をイメージする際のポイントは、「もし、理想的になったとしたら」という、これから問題を解決するシーンではなく、「もう、すでに理想的になっている姿」をイメージすることです。「問題を解決する」ではなく、「問題はすでに解決している」という状況です。

 多少、妄想が入っても問題ありません。現実可能か否かはさておき、相手がハッピーになっているシーンを具体的にイメージしてみてください。先ほどのAさんを例にしてみましょう。

  • Aさんは、技術に詳しく何でも相談できる強力なパートナーを得ている
  • 社内の現場からAさんが評価され、「Aさんのおかげですごく楽になったよ」と言われている
  • 上司は相変わらずだけれど、他のことで気がまぎれるようになってきた
  • 会議では、情報システム部門の一員として、現場の社員に堂々と説明している
  • Aさんが言っている一言
    • 「最近、仕事が楽しくなってきました」
    • 「○○さん(あなたの名前)のおかげです。○○さんの会社がなければ、うちのシステムは動いていませんよ」
    • 「システムに少し詳しくなってきたので、私ももっと勉強したいと思っています」

3.現実と理想を埋めるために、何ができるかを考える

 これまで、Aさんが困っている現実と理想を具体的にイメージし、具体化してきました。では、現実と理想のギャップを埋めるために、あなたは何ができるでしょうか。

 あなたが今、持っている環境(技術・スキル、コミュニケーションなどのヒューマンリソース)で解決可能なことを考えてみましょう。

  • Aさんが、現場の社員に説明がすぐにできるように、情報収集などのサポートをする
  • 現場との会議で、専門家として意見を述べる
  • 現場からヒアリングした要件を設計・プログラミングする
  • 開発するスキルや楽しさをAさんにも教えてあげる
  • 一緒にランチや飲みに行き、Aさんが困っていることを聞く

 このようなことができそうです。

4.小さな第1歩を決める

 自分ができそうなことのうち、少し頑張ればすぐにできそうなことから始めてみましょう。一緒にランチに行って困っていることを聞くなら、すぐにできそうです。そして、だんだん他のことにまで実行範囲を広げていきます。

 「こんなの、エンジニアの仕事じゃないよ。なんでエンジニアの自分が、技術以外のことをしなければならないんだ」と思う人がいるかもしれません。確かに、「ITの専門知識を持ち、システムを設計・開発・製造・運用する」のがエンジニアだとしたら、上記のことはエンジニアの仕事を逸脱しています。

 しかし、現実にはこのような現場がたくさんあり、顧客はこのようなことに困っているのです。「顧客が困っていることを解決する」――顧客をサポートするエンジニアとして、私たちに何ができるでしょうか。

 今回紹介したAさんはあくまでも一例ですが、実際にAさんは困っており、私はこのような現場でエンジニアとして働いていました。「エンジニアは知識・技術があればよい」と思っていた当時の私は、なかなか評価されませんでした。しかし、Aさんが困っていることを解決しようと技術以外のことも取り組んだ結果、「うちのシステムは御社のおかげで動いています」という言葉をいただけました。心からうれしく、エンジニア冥利につきる体験でした。

 顧客が困っていることを解決するために必要なのは、必ずしもIT以外の業務スキルやコミュニケーションスキルだけに留まりません。顧客が困っていることは何かを考え、解決するように行動すれば、顧客から信頼され、「また○○さんと一緒に仕事がしたい」と言われるエンジニアになれるでしょう。


 来年も、信頼されるエンジニアでいたいなら、顧客や周りの方々からの信用は不可欠です。

 以前、私の知人は、こんな風に言っていました。

 「自分の楽しさだけを考え、エンジニアの仕事をしたいというのなら、自分のお金を使って、趣味でやれと私は言いたい。私たちはプロフェッショナルとして、給料をもらっています。お金を支払うのは会社ではありません。顧客です。顧客が困っていることが何かを考え、それを解決すること。その手段としてエンジニアリングがあることを忘れてはいけないんです。技術・スキルを高めることも楽しいけれど、それ以上に、顧客から評価され、『ありがとう』という言葉を聞いたとき、最高に楽しいことを、私は伝えたいと思っています」

 技術・スキルに加え、顧客や周りの方々が困っていることにも目を向けてみてください。「○○さんありがとう!」「来年も○○さんと一緒に仕事がしたい!」と顧客や周りの方々が言ってくれたら、これからもエンジニアとして活躍できる可能性が高まるはずです。

著者紹介

竹内義晴

特定非営利活動法人しごとのみらい理事長。ビジネスコーチ、人財育成コンサルタント。自動車メーカー勤務、ソフトウェア開発エンジニア、同管理職を経て、現職。エンジニア時代に仕事の過大なプレッシャーを受け、仕事や自分の在り方を模索し始める。管理職となり、自分がつらかった経験から「どうしたら、ワクワク働ける職場がつくれるのか?」と悩んだ末、コーチングや心理学を学ぶ。ちょっとした会話の工夫によって、周りの仲間が明るくなり、自分自身も変わっていくことを実感。その体験を基に、Webや新聞などで幅広い執筆活動を行っている。ITmedia オルタナティブ・ブログの「竹内義晴の、しごとのみらい」で、組織づくりやコミュニケーション、個人のライフワークについて執筆中。著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。Twitterのアカウントは「@takewave」。



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