OSSライセンスの採用傾向に「変化」ありOSS界のちょっと気になる話(4)(2/2 ページ)

» 2012年05月21日 00時00分 公開
[後藤大地オングス]
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451 CAOS Theoryの原因分析

 「On the continuing decline of the GPL」を報告した451 CAOS Theoryはこの変動の原因の1つとして、OSSプロジェクトを取り巻く企業の関与状況やコミュニティの立場の変化などがあるのではないかと分析している。

 説明によれば、GPLが大きくシェアを伸ばした当初は、1企業が1OSSプロジェクトを支援するといったスタイルが取られていたという。このような状況では、ソースコードの隠ぺいを防ぐことができるGPLは扱いやすいライセンスと言える。

 しかし最近では、1つのOSSプロジェクトを単一の企業が支援するという状況ではなく、1つのOSSプロジェクトを複数の企業が支援するといった状況に変化しつつある。また、従来よりもコミュニティが主導的な役割を担うプロジェクトが増えているという。こうした状況では、コピーレフト型ライセンスよりも、規制が緩いパーミッシブライセンスの方が採用しやすいのではないか——これが451 CAOS Theoryの分析だ。

GitHubでのライセンス状況

 こうした451 CAOS Theoryの報告と同様の傾向を示す興味深い例として、例えばOStaticに掲載された「The Top Licenses on Github」を挙げることができる。これはGitHubでホスティングされているプロジェクトのうち、特に開発が活発で高い関心度を持っているプロジェクトのライセンスを比較するという内容の記事だが、この分析ではMIT/BSD/Apacheといったパーミッシブライセンスが高いシェアを持っており、逆にGPLファミリーは低い値に留まっている。

図2 GitHubでホスティングされているプロジェクトで採用されているライセンスの比較。「The Top Licenses on Github」より。 図2 GitHubでホスティングされているプロジェクトで採用されているライセンスの比較。「The Top Licenses on Github」より。

注: ただしこれはプロジェクトの数での計算。ソースコードの量まで含めると、Linuxカーネルが圧倒的な量を誇っており、ソースコードの量から見ればGPL系が圧倒的ということになる。

 GitHubは最近特に人気のあるオープンソースソフトウェアプロジェクトのホスティングサービス。手軽に始めることができ、WebのUIもすっきりしていて扱いやすい。いわゆる“勢いのある”サービスで、こうしたサービスにおいてアクティブに採用されているライセンスがパーミッシブライセンスであるというのは、1つの傾向を示す資料として興味深い。

開発者の発言と「本音」

 ライセンスを巡る意見は立場や状況によって左右されるため、一概に判断することが難しい面がある。同じ立場であっても、顧客の要望やビジネス上の状況の変化などに伴って、必要となるライセンスが変わることもある。実際には複数の要因があった上での、全体としての傾向が現れるのだろう。

 このため、どれだけ影響力のあるかは定かではないが、ライセンスに関して興味深い経験をしたことが一度ではなく何度もあるので、そのことも紹介しておきたいと思う。

 開発者だけが集まったり、開発者とベンダ関係者のみが集まって会議が開催されることは珍しくない。こうした場面で、ライセンスに関する議論が持ち上がることがある。例えば、「aという機能が必要になるためAというソフトウェアを取り込みたい」といった議題に対し、「そのaが採用しているA Licenseは、既存のB Licenseと衝突するのではないか」といった議論だ。

 このような話題はしばしば出るが、こうしたシーンではたいてい、「私は開発者であり法律家ではないのでよく分からない」「多分大丈夫ではないか」「法律家に相談する必要がある」といった会話が交わされることが多い。開発者の視点からすれば、機能であったり実装であったり、実際にどのように作業するのかといった点が問題であって、ライセンスの話には振り回されたくないというのが「現状」であり「本音」ということなのだろう。

 この点、パーミッシブ型ライセンスは分かりやすい。何せライセンス条文が短い。意味も明快だ。MITライセンスはその最たるものだ。

 これに比べるとコピーレフト型や準コピーレフト型のライセンスは条文が長く、正しく理解するのは何かと大変だ。「ライセンスの絡みとか調べるのが面倒だから、MITライセンスにしよう」とか「MITライセンスやBSDライセンスで提供されているソフトウェアだけを採用しよう」という気持ちになるのも、開発者的には自然な選択肢と言えるのかもしれない。

OSSが生活必需品になった裏返し?

 ソフトウェア開発においてOSSが必需品であるという認識は、すでに全世界が持っている共通認識と言えるように思う。こうした状況になったことから、普及期に必要とされた“GPL的な強さ”の必要性が、徐々に薄れつつあるといったことが起こっているのかもしれない。

 何度も繰り返すが、必要とされるライセンスは立場や状況によって千差万別であり、適材適所で選択するものだと思う。このため一概にどのライセンスがよい、といったことは言えないと思う。

 しかしながら、OSSプロジェクトで採用されるライセンスの傾向が変わりつつあることは1つの事実として存在しており、大枠としての状況が変化しているのは間違いのないところなのだろう。

 こうした世界的な採用ライセンスの変化傾向は、例えば企業ベースでOSSプロジェクトを発足する場合や、ユーザーが自分のOSSプロジェクトで採用するライセンスを検討する場合の1つの資料になるといえる。必ずしも他人や他社の行いをまねする必要はないが、1つの判断材料としては知っておいた方が有利だろう。

著者紹介

オングス代表取締役。

後藤大地

@ITへの寄稿、MYCOMジャーナルにおけるニュース執筆のほか、アプリケーション開発やシステム構築、『改訂第二版 FreeBSDビギナーズバイブル』『D言語パーフェクトガイド』『UNIX本格マスター 基礎編〜Linux&FreeBSDを使いこなすための第一歩〜』など著書多数。



 

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