イベント後に日本に戻り、その空気の違いに衝撃を受け、新鮮さを感じた。日本の人々は新興企業に興味を持ってはいるものの、依然として、リスクが高く激務が伴うと一般的に認識している。誰も起業に娯楽を期待していない。
日本のスタートアップイベントは、サンフランシスコのものより明らかに地に足がついている。ほとんどが小規模、低予算の催しで、ロック音楽や映画のスターを呼ばずに間に合わせる。
日本の起業家たちと話をすることは、純粋に楽しい。皆、ユーザー基盤や競合、一般的な市場参入戦略などについて自由に、そして(おそらく)正直に話をする。米国人と1番違う点は、まだ解決策が見つからない問題がある場合に、それを認めるのを厭わないことだ。
資金調達の話題は重要とされているが、会話の中心になることはまずない。自らのビジネスの正当性を証明しようと出資者の名前を並べたてる日本人起業家に、私はこれまで会ったことがない。自社の新型モバイルゲームがどのように世界を根本から覆すかについて捲し立てられることがないのは、本当にありがたい。
日本のアニメの資金提供や市場参入を専門とする新興企業の創業者と話をしたときには、日本と米国の起業家のあからさまな違いを十分に認識できた。その企業は素晴らしいチームメンバーを集め、数々の実績を上げ、ビジネスモデルには堅実さが伺えた。
私はその創業者に、自分はアニメ市場の知識がまったくないことを率直に伝えた。彼は明らかに引いた様子で「アニメが嫌い、ということですか?」と尋ねた。私は「いやいや、そういうことではなくて、単に有名なタイトルはいくつか知っているけれど、それ以上は知らない、ということです」と答えた。
とても素晴らしくて重要なものを私が知らなかったことを、この創業者は放っておけなかったらしい。彼は他のお客を無視して、私に好きな映画や本について興奮気味に質問し始めた。そこにはデザインされた精巧な答えなどはなく、彼の情熱や献身は火を見るより明らかで、話の最中に思わず後ずさりしてしまうほどの圧倒的なパワーだった。
気に入るに違いないとお墨付きのアニメタイトル一覧を手渡され、初対面なのに絶対見るよう約束させられ、私は10分後にそのブースを去った。
この会社が成功するかしないかはさておき、このような日本の新興企業は、大半の米国の起業家が失ってしまった重要な何か―― 本物の目的と情熱を持っている。
会社を起業し成長させるのは、人が成し得る最も挑戦的でやりがいのあることのひとつだ。世界中で最高の仕事をしていると思えるような朝もある。信じられないほど面白いときもあれば、まったく楽しめないときもあるものだ。
最も成功する起業家とは、世界に与える付加価値をクリアに見据え、それらを送り出すことに情熱を注げる者だ。
本当に世界を変えてしまうのは、こういう人だ。
Tim Romero(ティム・ロメロ)
プログラマでありながら、もはやプログラミングをする立場ではなくなってしまったプログラマ社長。米国ワシントンDC出身、1990年代初めに来日。20年間に日本で4社を立ち上げ、サンフランシスコを拠点とする数社の新興企業にも関わってきた。現在はPaaSベンダであるEngine Yardの社長として、日本の革新的なベンチャー多数の成功をサポートしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.