他の部署への異動を希望している社員がいて、その人に新型うつ傾向が疑われる場合には、どう対応したら良いのでしょうか。
最初に見極めるべきは、希望の理由です。「上司が嫌だ」「職場の人間関係がうまくいかない」「仕事が合っていない」などの不満を抱き、何の根拠も無く「違う部署では自分を生かせるのではないか」と思っている場合を、パターンAとしましょう。
このパターンの人には、今の仕事に情熱を抱けず、職場の人間関係もうまくいっておらず、その環境から「逃げたい」という心理が背景にあることが少なくありません。異動を行っても、新部署で同じように仕事への情熱が得られなかったり、人間関係をうまく構築できなかったりすれば、また「違う職場であれば、自分がより良く働けるはず」と、異動希望を繰り返します。
パターンAの人には、「なぜ今の仕事に情熱が持てないのか」「自分は技術を高める努力が足りないのだろうか」などの、問題を真正面から見つめていく作業が必要です。同様に「人間関係がうまく構築できないのは、何が原因なのか」「自分のコミュニケーションスキルが低いからだろうか」「好意的でない人を避けているからだろうか」などの人間関係についての問題についても、原因を探り、そこに向けた努力をしていかなければ、根本的な解決はありません。嫌なものをすぐに避けてしまう意識にこそ、アプローチする必要があるのです。異動の希望をすぐにかなえてあげるのではなく、本人が問題と向き合うのをサポートするのが、周囲の役目です。
パターンBは、異動を希望する理由が「仕事に対する前向きなもの」であり、やりたい仕事のイメージを明確に持っていて、情熱がある場合です。情熱があるか否かは、「仕事をしっかりと理解している」「必要とされる知識や技術が、明確になっている」「その仕事を通してのキャリアデザインを描いている」「そのための準備や勉強を始めている」などで、おおよそ判断がつきます。
このパターンは新型うつではありません。異動後の成長や成果が出やすいでしょう。
新型うつ傾向のある社員が、一定の休職期間を経て職場復帰する際に、直前に「体調が悪くなった」と復帰日を延ばす事例が後を絶ちません。
これは「困難なものから逃避・回避しやすい」という、新型うつの特徴から見れば、ある意味当然の成り行きです。もちろん、本当に「寛解(症状が無くなっている状態)に至っていない」というケースもあり得ますが、困難を避けるという逃避・回避傾向が背景要因となって、復帰日を延ばしていることの方が多いように感じます。
この現象に対する本質論としての対応として考えられるアプローチを挙げてみます。
しかし「気付かせる」のは、とても難しいハードルです。自分で問題に気付くことは容易ではありませんし、他者が指摘をしても、受け入れることはほぼあり得ません。
性格についてのネガティブな事柄であればあるほど、人は認めることや受け入れることが困難になります。指摘した人に対して反感や反発の気持ちが生じたり、その人への攻撃性が高まることもあり得ます。
そのような問題を扱う場として、カウンセリングやさまざまなセラピーが存在します。熟練したカウンセラーやセラピストが対応することで、該当社員が気付きを得て行動変容が期待できます。
新型うつ傾向の社員への対応法を見てきました。「企業でそこまでやらなければならないのか?」という疑問を持たれた方も多いのではないかと思います。しかし近年、新型うつの特徴を有する社員が確実に増えており、何も手を打たなければ、労働力の損失や生産性の低下、職場の士気低下など、経営に対して影響を与えることとなります。
今まで挙げてきた対応は、もちろん必須事項ではありません。経営判断や職場の判断でどこまでやるのかを決めていくことになります。
次回は、新型うつを予防するために企業が実際に行っているさまざまな取り組みを、具体的に紹介します。
エディフィストラーニング マネジメント/ビジネススキル トレーニング担当講師。
外資系コンピュータメーカーなどを経て、1998年に野村総合研究所入社。メンタルヘルス研修の他、カウンセリングや職場復帰支援、カウンセラー養成の実技指導、海外でのメンタルヘルス活動など、多岐にわたる活動を行っている。
日本産業ストレス学会正会員、日本産業カウンセリング学会正会員、日本産業カウンセラー協会正会員(シニア産業カウンセラー、キャリアコンサルタント)他。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.