田舎の生活は単調で、仕事もつまらないに決まっている?――秋田県五城目町でクリエイティブな仕事や働き方を模索する若者が考える「協働のポイント」とは?
「@IT式 U&Iターンスタイル」は、全国各地のU&Iターンエンジニアたちが、地方での生活の実情や所感などをセキララに伝えていく。ご当地ライターたちのリアルな情報は、U&Iターンに興味のある方々の役に立つだろう。
のどかな自然、緩やかに流れる時間、満員電車とは縁遠い職住近接の暮らし。疲れをいやしてくれる温泉も、神秘的で感動を呼び起こす風景もすぐにアクセスできる。旬の地の物はもちろんおいしい。高級スーパーに並ぶような新鮮な食材が手軽に手に入り、何ならおすそ分けを頂くことだってある。どうだい、田舎暮らしも良いもんだろう?
魅力たっぷりな田舎自慢を聞き、田舎暮らしに憧れたことのある読者は多いことでしょう。しかし冷静に考えると、懸念が湧き起こってきます。
「田舎は出会いが少ないだろうし、新しい刺激もなさそう。そんな場所で暮らし続けたら、日々の退屈さに耐えられなくなるのではないだろうか……」
いえいえ、そうとは限りません。筆者は秋田県五城目(ごじょうめ)町で、多くの出会いに恵まれ、公私ともに刺激に溢れた日々を送っています。東京で暮らしていてもなかなか会えないような方と接する機会も度々ありました。田舎でも出会いがある。いや、田舎だからこそ、田舎らしい縁のつなげ方があるのかもしれません。
五城目町の「つながり」の典型的な例が、BABAME BASE(※)の入居企業13社を中心とした業種を超えたコラボレーションです。単に同じ施設に入居しているという以上の協働を可能にする秘密は、「田舎に位置している」という点にこそあると感じます。
なぜ、田舎の五城目町でこうした協働が可能なのでしょうか。その答えは、田舎が持つ「テーマ性」にあると筆者は思います。
例えば、人口減少の進む五城目町には、「少子化」「高齢化」「一次産業や地場産業の担い手不足」という課題があります。課題だけに注目すると気分が暗くなってしまうかもしれません。しかし、人口減少は単なる事実であって、実はそれ自体が課題ではありません。
「人口減少を踏まえ、次の社会をどう迎えるか」が、五城目町が本当にとり組むべき課題です。この課題に前向きに取り組むことで、社会に前向きなインパクトを出そうと働きかけることは、仕事のやりがいや協働する姿勢につながります。
こうした背景があり、五城目町の一部の町民やBABAME BASE内は、「世界一子どもが育つまち」というテーマを共有しています。
少子化が進み、小学校も中学校も統廃合を経て1校に集約されましたが、五城目町には秋田県が誇る「学力日本一」の教育があります。もちろん、偏差値を前提とした教育の在り方には賛否両論がありますが、ベースとなる教育の「質」が担保されていることは前向きに捉えるべきでしょう。
また、子どもが少ないからこそ、「子どもは宝」「子どもの声が聞こえるだけで活気が出てありがたい」という地域の「寛容さ」や「歓迎ムード」があります。大阪から移住してきたご家族は「子育てのストレスがかなり減った」と話しています。
五城目町でこれからの日本の教育の在り方を考え、できるところから少しずつ自分たちの手で取り掛かるのは、なかなかワクワクするものです。
筆者は五城目町に移住するタイミングでは、具体的な仕事や役割を決めていませんでした。しかし、関西で有名な教育系NPOを運営されていたご夫婦が筆者とほぼ同タイミングで移住されることを知り、直感が働きました。「自分にも何かしら出番があるかもしれない」と。
その直感を信じ仕事も決めず移住した結果、今はそのご夫婦がBABAME BASEで立ち上げた「クリマ!(クリエイティブマーケット)」のお手伝いをしています(筆者は「ウェブインパクト」に所属しつつ、フリーランス的に「クリマ!」のような教育に関わる仕事もしています)。
「クリマ!」は「マーケット」=「朝市」を舞台にした教育事業で、小学生向けの「キッズクリマ!」と中高生向けの「ユースクリマ!」の2種類があります。
メインのプログラムは、520年以上の歴史を誇る五城目町の朝市に子どもたちが出店し、自分で考えた商品やサービスを自分たちの手で販売するものです。値付けも自分たちで設定し、実際の金銭のやりとりも行います。
多様なゲストにヒアリングを行い、そこで出たアイデアをつなぎ合わせて商品やサービス企画につなげます。町内でギャラリーを運営する方をゲストに迎えた回では、紹介されるアート作品に触発された子どもたちが、ほとんど光の入らない空間を朝市の一角に設け、ほのかな明かりの中で会話を楽しむ、という挑戦的なサービスを提供しました。
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