「長所は」「特徴は」「役割は」などの属性(人や物の性質)を言うときは、「こと」で受ける必要があります。「理想は」「理由は」なども同じです。
「エンジニアのための文章力養成講座」は、書籍「文章力を伸ばす 書くことが、これでとても楽になる81のポイント」(阿部紘久著 日本実業出版社)を基に、出版社と筆者の許可を得て、@IT読者向けに再構成したものです
「要件定義書」「提案依頼書」「テスト仕様書」――エンジニアは業務でさまざまな文章を書きます。しかし、文章力が足りないと、無駄なことをたくさん書いてしまったり、考えているのとは違うことを書いてしまったり、頭の中にあった大事なことを書きもらしてしまったりしがちです。
連載「エンジニアのための文章力養成講座」、最終回は「ことだ」で終わる文章の使い方を鍛えます。文章力を身に付けて、より良いエンジニアライフを送りましょう。
彼女の長所は、UXデザインもコーディングもできる。
彼女の長所は、UXデザインもコーディングもできることだ。
彼女は、UXデザインもコーディングもできる。
「(主語)長所は、(述語)できる」ではなく、「(主語)できることが、(述語)長所」なのです。
彼の欠点は汚いコードを書く。
彼の欠点は汚いコードを書くことだ。
彼が書くコードは汚い。
「(主語)欠点は、(述語)書く」ではありません。「(主語)書くことが、(述語)欠点」なのです。
10年後の理想は、シリコンバレーでエンジニアとしてバリバリ働いていることが望ましい。
10年後の理想は、シリコンバレーでエンジニアとしてバリバリ働いていることだ。
ここでは「理想」と「望ましい」の意味が重複していましたので、改善案は「理想」だけにしました。
S社のいいところは、貸与PCのメモリが多い。
S社のいいところは、貸与PCのメモリが多いことだ。
S社の貸与PCは、メモリが多い(のがいいところだ)。
そのコワーキングスペースが好きな理由として、静かで席がゆったりしているからだ。
そのコワーキングスペースが好きな理由は、静かで席がゆったりしていることだ。
そのコワーキングスペースが好きなのは、静かで席がゆったりしているからだ。
「理由は」という主語なら、「……ことだ」でかみ合います。「(主語)好きなのは、(述語)からだ」も適切です。
驚いたのは、満員電車の中でコーディングするエンジニアがいた。
驚いたのは、満員電車の中でコーディングするエンジニアがいたことだ。
驚いたことに、満員電車の中でコーディングするエンジニアがいた。
「(主語)驚いたのは」は、「(述語)いたことだ」と名詞で受けます。「驚いたことに」と始めれば、「(述語)いた」でかみ合います。
文章を書き終えた後、「主語+述語」「目的語+述語」の組み合わせを確認する習慣を付けると、言いたいことが明快に伝わるようになります。
近著「文章力を伸ばす」の第2章を素材にした7回の連載をお読みいただき、ありがとうございました。かつて日本にある米国系のIT関連企業のCEOを務めましたので、その内容に親近感を抱いていました。
「文章を書くのは苦手だ、苦痛だ」と思っている人がたくさんいますが、文章を書くことには、「表現する喜び」「理解と共感を得る喜び」「相手や組織や、ときには自分自身にも変化をもたらす喜び」があります。ですから明快な文章は、読む人に歓迎されるばかりでなく、書く人にとっても快いものなのです。
自分の語彙や文才などについて心配する前に、もっともっと基本的な稽古を重ねると、上の3つの喜びを味わえるようになります。皆さまのご健闘を祈ります(阿部紘久)。
文章力を伸ばす
書くことが、これでとても楽になる81のポイント
阿部紘久著 日本実業出版社 1404円(税込み)
文章力を磨くとは、考える力を磨くこと。「書く力は、考える力そのもの」「受け手発想で書く」「意味の狭い言葉を使う」「長文を書くポイント」など、文章を書くときに大事なことだけれど、なかなか教わることがない81のポイントを、多くの文例と共に分かりやすく解説する。
阿部紘久
エッセイスト(元国際ビジネスマン)
帝人、米国系企業CEOを経て、2005年から昭和女子大学ライティング・サポートセンターで文章指導を行う。社会人も指導している。
主な著書に『文章力の基本』(日本実業出版社)、『文章力の基本100題』(光文社)、『シンプルに書く! 伝わる文章術』(飛鳥新社)などがある。
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