WindowsやMicrosoft製品に搭載されている機能や技術、そして製品名は、変更される場合があります。ものによっては、何度も変更されることがあります。名称変更はマーケティング的な理由が多いと思うのですが、トラブル解決を難しくしたり、ユーザーを混乱させたりといった“負の側面”も少なくありません。
WindowsデスクトップOS(Homeエディションを除く)には、リモートデスクトップ接続のサーバ機能、つまり「リモートデスクトップサービス(Remote Desktop Services:RDS)」が搭載されています。これにより、リモートからWindowsのフルデスクトップ環境にログオン(最近では「サインイン」と呼ぶようになりました)して利用することができます。Windows ServerのRDSはマルチユーザーの複数同時セッションをサポートしますが、デスクトップOSは同時接続が1セッションに制限されています。
このRDSのことを、「ターミナルサーバ」や「ターミナルサービス(Terminal Server、Terminal Services、TS)」と呼ぶ人がいます。もともとWindowsにはリモートからデスクトップに接続する機能は存在しませんでした。それが、Windows NT Server 4.0で、新しいエディションとして「Windows NT Server 4.0, Terminal Server Edition(TSE)」が提供されたのが、そもそもの始まりです。MicrosoftのWebサイトは何度かリニューアルされていますが、本稿執筆時点でも、奇跡的にTSEのページは現存しています(画面1)。
その後、Windows 2000で、サーバ側に「サーバーの役割」として「ターミナルサービス」が実装されました。また、TSの機能はWindows XPにも標準で組み込まれ、Windows XP ProfessionalではTSのサーバ機能がサポートされました。ここから「リモートデスクトップ接続」という名前が使われるようになりました。この名前の由来は、TSで使用されてきた「リモートデスクトッププロトコル(Remote Desktop Protocol:RDP)」です。
Windows XP Homeでも、「簡易ユーザーの切り替え(Fast User Switching)」という機能にTSの技術が利用されています。そして、Windows Server 2008において、TSはRDSという名前に変更されました。ターミナルサーバと呼ばれていたマルチセッション用サーバは、現在は「リモートデスクトップセッションホスト(RDセッションホスト)」と呼ばれています。
Windowsに初めて触れたのが、RDSやRDセッションホストという名前になってからだという人には、TSという表現はピンとこないかもしれません。しかし、この機能をトラブルシューティングする場合は、TSという名前だったことを知らないと、苦労することになります。なぜなら、Windowsの内部名やコンポーネントのファイル名、イベントログ、レジストリなどにTSに由来する名前が至るところに残っているからです(画面2)。
例えば、リモートのWindowsへの接続には「リモートデスクトップ接続」という名前のクライアントを使用しますが、Windowsに組み込みのこのクライアントのファイル名は「mstsc.exe」です。これは、「Terminal Serverクライアント」(TSE)や「ターミナルサービスクライアント」(Windows 2000)というクライアント名(ファイル名は「mstsc.exe」)だったときの名残です。
別の例を挙げましょう。Microsoftのシステム運用管理スイート製品である「System Center」に、「System Center Configuration Manager(SCCM)」があります。この製品を「SMS」と呼ぶ人がいます。製品のコンポーネントの中にも、SMSという名前が多数見つかります。これは、もともと「Microsoft Systems Management Server」という製品名だったころ(1990年代のSMS 1.0〜SMS 2003まで)からの名残です(画面3)。
「System Center Operations Manager(SCOM、OpsMgr)」も同様です。この製品を「MOM」と呼ぶ人がいますし、管理エージェントの名前は今でも「MOMAgent」です。この製品の名前は、もともと「Microsoft Operations Manager」でした(実は、それ以前の、Microsoftによる買収前の名前もあります)。
WindowsデスクトップOSのソフトウェアアシュアランス(SA)に対して無償提供(以前は有料)される「Microsoft Desktop Optimization Pack(MDOP)」には、「Microsoft Application Virtualization(App-V)」という製品があります。Microsoft Officeのクイック実行形式(Click-To-Run、C2R)は、このApp-Vの技術をベースに開発されました。
App-Vのバージョン4.xまでは、昔の名前が色濃く残っていました。昔の名前とは、Microsoftが2006年にSoftricity社を買収したときの同社の製品であった「SoftGrid」です。その後、しばらくは「Microsoft SoftGrid」という名前で提供され、バージョン4でApp-Vに改称されました。ただし、App-V 4.xになっても、ファイル名やファイル形式、環境変数(%SFT_SOFTGRIDSERVER%)、サーバ環境、レジストリなどにSoftGrid時代の名残が多くありました。
現在のApp-Vの最新バージョンは5.1であり、技術的に大きな変更が行われたため、「なぜここにSoftGridという名前が?」という疑問に遭遇することはなくなったと思います。ただし、MDOPを通じて提供されるのは、このバージョン5.1が最後になります。Windows 10 Anniversary Update(バージョン1607)からは、App-Vの機能が「User Experience Virtualization(UE-V)」の機能とともに、EnterpriseおよびEducationエディションに組み込まれて提供されるようになりました。
今後は名前の変更ではなく、この提供形態の変更がトラブルシューティングを困難にする理由になるかもしれません。例えば、現在、公式/非公式に利用できるApp-V関連のオンラインドキュメント、書籍、ノウハウは、新旧両方の提供形態のものが混在しています。見るところを間違うと、トラブルが発生している環境と書いている内容の不一致に戸惑うことになるかもしれません。
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