PFN(Preferred Networks)のDeep Learningライブラリ「Chainer」とクラウド「Azure」の協業関係の具体的な内容について、PFN社のCEO自らが日本マイクロソフトのパートナー向けカンファレンスで説明した。
ご注意:本記事は、@IT/Deep Insider編集部(デジタルアドバンテージ社)が「deepinsider.jp」というサイトから、内容を改変することなく、そのまま「@IT」へと転載したものです。このため用字用語の統一ルールなどは@ITのそれとは一致しません。あらかじめご了承ください。
日本マイクロソフト主催のイベント「Japan Partner Conference 2017 Tokyo」(以下、JPC 2017)が9月1日に開催された。
その基調講演では、特に注力していく最先端テクノロジの分野の一つとしてAI(人工知能)が取り上げられ、その代表的なパートナー事例の一つとして、ニューラルネットワーク用ライブラリのChainerを開発・提供しているPreferred Networks(プリファードネットワークス、以下PFN)社のCEO「西川 徹(にしかわ とおる)」氏が登壇し(図1)、ChainerとAzureの協業関係について具体的な事例を交えながら説明した。
「MicrosoftとPFNの協業」については、2017年5月23日にマイクロソフトが開催した開発者向けカンファレンス「de:code 2017」のタイミングで発表され、それからの3カ月間、後述する3つの軸でさまざまな連携が進められてきたという。
西川氏は、PFNとChainerの紹介から始め、テクノロジの活用事例や、この協業関係の現状について紹介した。この記事では、西川氏のプレゼン内容をまとめる。
PFNは、ディープラーニング(深層学習)技術を、実世界における重要な問題の解決手段として活用するため、その実用化を目指すための取り組みを行っている。
重点的に取り込んでいることの一つが産業用ロボットである。昨年(2016年)は、AI技術を活用した産業用ロボットを開発し、ドイツのライプツィヒで開催されたAmazon Picking Challenge 2016に参加した。Amazon Picking ChallengeのPick Task部門は、ロボットで倉庫内の棚からモノをつかむことを競うコンテストである(次の動画は、そのときの様子が分かるビデオ映像)。
ロボットにとってモノをつかむ作業は「最も難しいタスク」と言われている。このタスクを実現するには、棚の中にあるさまざまなモノを、たとえそれが一部隠れていたとしても正確に認識しなければならない。しかもそのうえで、モノがしっかりと持ち上がる位置をロボットアームで的確につかまなれけばらない。
こういった2つの難しい課題に対して、ディープラーニングは非常に有効に働く。実際にPFNは、そのPick Task部門で第2位(1位と同点)を獲得した。
ディープラーニングの特に重要な性質の一つが、自動的にさまざまな環境に柔軟に対応できるというローバストネス、つまり一般化する性能があることだ。従来のプログラミングでは事細かにルールで条件分岐することで挙動をチューニングしなければならなかったが、ディープラーニングを使えば自動的に柔軟に対応できるようになる。
これからの世界では多種多様なIoTデバイスが存在するようになっていくだろう。ディープラーニングは、そういった世界に柔軟に対応するための“本質的な技術”となるのではないかと考えている。
このような事業を展開しているPFNでは、実世界へのディープラーニング技術の応用をさらに強力に加速していくために、マイクロソフトとパートナーシップを結んでいる(※3カ月前の2017年5月に発表)。その3つの軸として、
を掲げている(図2)。
それぞれについて詳しく説明していこう。
Deep Learning Lab(ディープラーニング・ラボ、https://dllab.connpass.com/)は、ディープラーニングの開発事例や最新技術動向を情報発信するビジネスコミュニティである。パートナーとなる企業や開発者と一緒にコミュニティをどんどん拡大していくことで、より多くの応用事例を生み出し、さらなるビジネス拡大につながる機会を共有していくことを目的としている。登壇時点までの3カ月間で、すでに900名を超えており、さらに今後は福岡・大阪・名古屋・札幌と全国に展開していく(図3)。
ディープラーニングを活用できるエキスパート人材を3年間で5万人まで増やすことを目標に、両社による認定トレーニングを実施している。
マイクロソフトの技術プラットフォームと、PFNの技術プラットフォームを掛け合わせることで、より高性能なディープラーニングをより素早く開発できる。そのための環境を提供している。具体的には、Microsoft Azure上で、PFNのディープラーニングソリューション(Chainer/PaintsChainer/DIMo、詳細後述)を簡単に活用できるようにしている。
Chainer on Azure
PFNは、2015年から「Chainer」(チェイナー)というオープンソースのディープラーニングフレームワークを提供しており、このChainerがAzure上で簡単に使えるようになっている。
代表的な活用事例としては、PFNのパートナーであり、Deep Learning Labの幹事会社でもあるRidge-iが開発した「ディープラーニングにより白黒映像をカラー化するAIソリューション」がある。ぜひ次の動画を見てみてほしいが、このようなことがディープラーニングで実現でき、さらにこの技術をスケールさせるためのAzure並列GPU環境での分散処理も実証されている。商用や実世界でのこういった事例はますます増えていくと考えている。
PaintsChainer on Azure
「PaintsChainer」(ペインツチェイナー)という線画に自動着色するPFN独自サービスをAzure上で運営している。
スケールするAzureクラウド環境上にこのサービスを乗せたことで、新機能リリースにより負荷が高まった時も安定的に稼働できるようになった。しかもマイクロソフトの技術サポートもあったので非常に短期間で移行できた。それだけでなく、自動スケールの効果により運用コストが1/4にまで大幅に低減できた。
DIMo on Azure
PFNの研究成果をより多くのビジネスで活用できるように、その成果を「DIMo」(Deep Intelligence In Motion、ダイモ)という商用プロダクトにパッケージ化している。Azure上で提供している構築済みDIMo環境を使うことで、DIMoが提供する、
といった機能を今すぐに利用できる。
Chainer MNとは? バージョン1.0.0のリリース
非常に大規模な環境でディープラーニングをスケールさせるための技術「Chainer MN」(チェイナー・エム・エヌ)を今年の頭(2017年2月)に発表している。このChainer MNが、Azureを使うことで瞬時に利用できるようになる予定だ。具体的には、XTREME DESIGN社と連携して、即座にChainer MNが使える環境を2017年10月から提供する予定である(図8)。
ディープラーニングの世界ではデータを集めれば集めるほど、学習すれば学習するほど、精度が上がっていく。従って、いかにたくさんのデータを学習させたかが、ビジネスにおいての差別化の要素になる。そのため、並列化の技術で効率的に学習することは重要になってきているが、Chainer MN×Azureによりこれが簡単に実現できるようになる。
また、登壇日の9月1日にChainer MNのバージョン1.0.0をリリースした。主な新機能は図9に示すとおりだ。
以上、こういった活動を通して、ディープラーニングをより多くの人に広めていきたいと考えている。
基調講演の動画やスライドもすでに公開されているので、より詳しくはこちらも参照してほしい。
https://www.slideshare.net/slideshow/embed_code/key/aIErfYno3cp7bG?startSlide=64
Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.