成果物も作業範囲も“未定”です――限りなく曖昧に近いディールコンサルは見た! AIシステム発注に仕組まれたイカサマ(2)(2/2 ページ)

» 2018年01月16日 05時00分 公開
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hidaka

 「これはウカウカしていられない」と日高は思った。

 AI開発には何といっても現場の経験が重要だ。広告分野で使用できるAIを作るなら、北上のような広告代理店と共に開発を進めなければ、マッキンリーだけでまともなものは作れない。そして、それによって得た方法論は、必ず他の広告業でも役に立つ。

 逆に、この話を他社に持っていかれたら、そうしたノウハウは他社のものになり、広告業界のAI分野におけるマッキンリーの立場は苦しくなる。

 (やってみる価値はある。いや、やらなければならないのではないか)

 そう思った日高はその日、会社に戻るとすぐに関係者の説得に歩いた。当然のことながら契約前作業に否定的な意見が多かったが、「広告業界のシェアを獲得できるかどうかの瀬戸際だ」と必死に説得する日高の声に押され、最終的には、社内で承認された。

契約前作業に足りなかったもの

misaki

 「そうやって、作業が始まったってわけね」

 江里口美咲はテーブルに広げられた資料をめくりながら言った。

 「え……ええ」

 「『作業範囲』や『成果物の定義』は?」

 「当初は最低限のパラメータを入れてチラシ広告を1枚作る程度ということで……」

 「程度?! 具体的なシナリオは? 画面数は? 広告の種類は?」

 美咲が顔を上げて日高を見据えた。その厳しい言葉に日高は息がつまった。

 「い、いや、それは……」

 「あっきれた! 自分たちが何を作るのか、文書もなければ口約束すらしていないのね」

 「や、やっぱり、そこがまずかったんでしょうか」

 「当り前じゃない。『どんな』パラメータを入れて『何が』出れば実験が終わるのかを決めずに作業するなんて、正気の沙汰じゃないわ。『無償契約』を結ぶって手だってあったはずよ」

 「無償契約?」

 「お金はもらわないけれど『作業内容』と『期間』についてはきちんと決めておくっていうタイプの契約書だって、世の中にはちゃんとあるの。それを作って双方が合意しておけば、こんなことにはならなかったのに」

 「しかし、セールスのための作業にわざわざ契約書なんて……」

 日高の言葉に、元から大きな美咲の目がさらに広がった。

 「その結果が、このザマなんでしょ?」




書籍

システムを「外注」するときに読む本

細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)

システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。

※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる


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