「ブロックチェーン技術をVMwareが開発」に関する、さまざまな疑問研究組織責任者、テネンハウス氏に聞いた

VMwareは2018年8月末に開催した「VMworld 2018」で、ブロックチェーンのオープンソースプロジェクト、「Project Concord」を開始したと発表した。「なぜ、VMwareがブロックチェーンなのか」「なぜ、新たなプロジェクトが必要なのか」などを聞いた。

» 2018年09月04日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 VMwareは2018年8月末に開催した「VMworld 2018」で、ブロックチェーンのオープンソースプロジェクト、「Project Concord」を開始したと発表した。「なぜ、VMwareがブロックチェーンなのか」「なぜ、新たなプロジェクトが必要なのか」など、さまざまな「なぜ」について、VMwareシニアバイスプレジデント兼チーフリサーチオフィサー(CRO)で、VMware Research Groupの責任者でもある、デヴィッド・テネンハウス(David Tennenhouse)氏に聞いた。

VMwareはなぜ新たなブロックチェーン技術を持ち出すのか

VMwareシニアバイスプレジデントでチーフリサーチオフィサー(CRO)のデヴィッド・テネンハウス氏

 ConcordでVMwareが対応しようとする、既存のブロックチェーン技術の欠点は、スケーラビリティだ。Concordでは、レプリカの数、スループット、ファイナリティまでの時間短縮の3点で、Hyperledgerをはじめとする既存エンタープライズブロックチェーン技術を上回るスケーラビリティを達成しようとしているという。

 「これまでのエンタープライズブロックチェーン技術では、4、5から10程度の分散台帳コピーを対象とすることしかできない。しかし、(ブロックチェーンを使うような)重要な組織コンソーシアムの規模はそれ以上だ。私たちは100〜200の分散台帳をターゲットとしている。加えて、高いスループットが求められる。単一のブロックチェーンで、毎秒数百から数千のトランザクションを実現しなければならない。また、『Time to Finality(情報の確定までにかかる時間)』も問題になる。例えばBitcoinでは、統計的なファイナリティにより、1時間後にはかなりの確信が持てるが、1日待ちたい場合もある。これでは多くの場合、取引に使うには遅過ぎる」

Concordは、Hyperledgerなどとどう違うのか

 Concordの最大の特徴は、新たなビザンチン・フォールトトレラント(Byzantine Fault Tolerant:BFT)プロトコルによる拡張性にあるという。

 ブロックチェーン技術には、「ビザンチン・フォールトトレランス(Byzantine Fault Tolerance:BFT)」を実現する合意形成アルゴリズムが組み込まれている。BFTは、複数のノード間で障害や偽情報の伝達に対応するアルゴリズム。エンタープライズブロックチェーンのオープンソースソフトウェアとして知名度の高い「Hyperledger」などは、これを実用的にした「PBFT(Practical Byzantine Fault Tolerant)」と呼ばれるプロトコルを使っている。

 PBFTを含む既存のBFTでは、トランザクションが改ざんされていないことを確認するため、多数の通信が発生する。Concordでは、こうした通信をシンプル化した、新たなBFTメカニズムを開発。これに、楽観性の導入による一部トランザクションの高速実行、高速な暗号化アルゴリズムの利用を合わせ、拡張性を高めているという。

なぜVMwareが、ブロックチェーンに取り組むことになったのか

 Concordにつながる伏線は、テネンハウス氏が2014年にVMware Research Group(VRG)を立ち上げた時点で既にあったという。

 テネンハウス氏はVRGで、「次のレベルの分散システム技術を構築しようとしていた。そして、この目的にフィットした技術者たちに来てもらうことができた」という。こうした技術者の中に、その後スケーラブルなBFTプロトコルを開発したダリア・マルキー(Dahlia Malkhi)氏、イッタイ・エイブラハム(Ittai Abraham)氏がいた。

 彼らは当初、データを多数のSSDに分散書き込みし、管理する仕組みを開発した。これに同氏たちは自らが深い知識を有していたPAXOSアルゴリズムを適用したという。

 「ダリアとイッタイは、PAXOSをさまざまな興味深い方法で拡張した。そしてこの技術を基に、組み込みデータベースとも呼べるものを開発した。この技術はCorfuと呼ばれ、約1年前から(ネットワーク仮想化製品の)『VMware NSX』で、ネットワーク構成情報を複数のコントローラーにまたがって管理するために使われている」

 「彼らがCorfuを開発していたころ、『ブロックチェーンは面白い』という話になった。だが、Bitcoinのやり方では、企業が使うのに適した安全性は得られない。そこで新たな設計を考えているうちに、BFTメカニズムを適用し、これに彼らがCorfuの開発で学んだスケーラビリティ確保の手段を組み合わせればいいということになった」

Hyperledgerプロジェクトとの関係は?

 VMwareはHyperledgerプロジェクトにも参加している。これとは独立してConcordを推進する理由について、テネンハウス氏は次のように話している。

 「HyperledgerのベースになっているBFTよりも、はるかにスケーラブルな技術が必要だと考えたからだ。もし、Hyperledgerが現在の合意形成エンジンからConcordに切り替えてくれるなら、とてもうれしい。その可能性がもうないわけではないと思う。だが、HyperledgerとConcordのプロトコルの違いは大きい。そしてHyperledgerプロジェクトは成熟期に向かおうとしている。こうした状況を考えると、(別プロジェクトとしての推進は)自然な選択だと思う」

VMwareは今後どういう活動を展開していくのか

 最近のオープンソースプロジェクトは、当初からある程度の影響力を持つ企業や組織が参加するケースが増えてきた。これに対し、ConcordはVMwareのみが推進するように見える。このプロジェクトをどのように成功させようとしているのだろうか。

 テネンハウス氏は、「プロジェクトの成否を決めるのは最終的には『人』であり、開発の中心となっているのはVMwareという企業とは離れて実績を認められた人たちだ」と話している。

 「Concordの開発のかなりの部分はイスラエルで行われた。同国をはじめとした教育機関とは活発に連携している。今後はHyperledgerプロジェクト内外のパートナーにも働きかけていく。その中には、私たちのコードを採用してくれるところがあるかもしれないし、アイデアを生かしてくれるところもあるかもしれない」

VMwareはどんな用途を想定しているのか

 これは不思議ではないが、VMwareがProject Concordで想定しているのは「エンタープライズブロックチェーン」。不特定多数ではなく特定の組織・参加者間を結ぶもの。

 エンタープライズブロックチェーンでよく取り上げられる用途はサプライチェーン管理だ。テネンハウス氏もこれを例の一つに挙げる。

 「食品に関する情報をブロックチェーンでサプライチェーンを通じ、記録していくことで、健康上の問題などが生じたときに、製造時の温度やその他の情報を振り返れる。改ざんされていないことが保証された情報が得られることが重要だ。このような食品サプライチェーンへの適用は非常に興味深い。食品安全当局者が利用して対応できるからだ。ヘルスケア分野や航空機部品のトラッキングにも適用できる。規制担当者が確実な情報に直接アクセスできることは、誰にとっても望ましい」

 「監査にも同様なことがいえる。私の組織の監査人は、私の組織と別の組織が行った取引の真正性を確認したければ、取引相手の組織に情報の提供を求めなければならない。しかしブロックチェーンを使っていれば、私の記録と取引相手の記録が同一であることが即座に分かる」

 例えば持ち株会社の下に多数の企業が存在する企業グループが、監査プロセスを改善するために、ブロックチェーンをグループ全体に適用することが考えられるという。

 「つまりブロックチェーンは、規制やコンプライアンス、監査のあり方を大きく変える可能性がある」

 既に、Concordのコードを試している組織は複数あるという。

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