シタテルの本社は熊本市、東京は支社だ。
拠点で部署や機能を分けることはせず、社員の居住地で通うオフィスが分かれている。同じプロジェクトを熊本と東京のメンバーが一緒に取り組むこともある。
甲斐さんは阿蘇から熊本オフィスまで、1時間ほどかけて車通勤している。出勤前の時間や土日が田んぼの仕事に当てられるのに加えて、シタテルでは週2日は自宅で仕事ができるため、農業との両立がしやすい。また、農閑期には妻のいる東京に戻り、東京オフィスに通っている。東京オフィスでも熊本オフィスにいるときと同じように働けるという。
先述したように、甲斐さんはかつてリモートワークに挑戦し、コミュニケーションの難しさで断念したことがある。シタテルに入社し、東京にいるメンバーとコラボレーションするときに「またコミュニケーションで苦労するのではないか」と心配しなかったのだろうか。
「難しいだろうと思いましたが、意外にもコミュニケーションは大丈夫でした。これにはびっくりしました」
シタテルは、コミュニケーションツールとしてSlackとZOOMを使っている。ちょっとしたやりとりはSlackで、会話が必要になるときはZOOMのビデオ会議を開く。毎朝、進捗(しんちょく)などを会話する機会を設けており、円滑なコミュニケーションができるような雰囲気がある。コミュニケーション手段が充実していることに加え、社内留学制度などのコミュニケーション促進施策が充実している社風もある。
2019年3月現在、シタテルのエンジニアは、熊本に6人、東京に9人。熊本在住エンジニアは、UIターンが甲斐さんを含めて3人、熊本出身(現地採用)が3人だ。
ほとんどのエンジニアが熊本市周辺に住み、電車通勤している。熊本市の家賃相場は独身向けの1LDKなら5万円代、家族向けの3LDKや一戸建てでも10万以内で収まる。
熊本は自然環境が良く、住居費を低く抑えられる。シタテルのようなコミュニケーションが発達した企業であれば、東京とほぼ変わりなく働けそうだ。
熊本でのエンジニアライフについて「強いてデメリットを挙げるとしたら?」と甲斐さんに聞くと、少し迷ってから「勉強会が少ないこと」を挙げた。
「今Kubernetesを評価していますが、東京なら勉強会はたくさん開催されているため、ふらっと参加できます。しかしこちらでは、勉強会ほとんどありません。もしあっても福岡市で開催なので、車で1〜2時間ほど必要です」
そうはいっても情報収集は「致命的ではない」とも言う。多くの情報がインターネットにあり、書籍が欲しければAmazonで入手できるからだ。
熊本に移住した感想をあらためて甲斐さんに聞くと「すごく良かったと思います。熊本に来て3年が過ぎましたが、周囲の景色はどんなに見ても飽きることはありません。阿蘇はカルデラで山の周辺が盆地になっていて、全方向が山に囲まれています。ドライブするとすごく景色がいいんですよ」と熊本と阿蘇をこよなく愛しているのが伝わる答えが返ってきた。
「地方は、都会ではできないことに挑戦できます。それでいてITの仕事との両立も可能です。地方に移住するのは面白いと思います」――米作りを学びながら、アパレル業界をITで便利にしていく仕事に従事する「米作り×アパレル×IT」の男から、UIターンを考えているエンジニアに向けてメッセージだ。
全国各地のU&Iターンエンジニアたちが、地方での生活の実情や所感などをセキララに伝えます。Uターン、Iターン、Jターンに興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
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