今回紹介するのは、「責任限定条項」について、「そもそもの開発費用が安過ぎたために、損害賠償額も不当に低く抑えられた」ことが問題になった例だ。
事件の概要から見ていこう。
ユーザーとベンダー間で、リース管理システムの開発を委託する契約が結ばれた。契約金額は500万円だった。契約書には、
ベンダーの責に帰すべき事由により、ベンダーの債務を履行できなかった場合には、ユーザーはベンダーに対し、委託金額を上限として損害賠償を請求することができる。ただし、ベンダーは、ユーザーの間接的、派生的な損害については、一切の責任を負わない。
とする条項があった。
しかし、開発は遅れ、結果としてシステムは完成しなかったため、ユーザーはベンダーに損害の賠償を請求した。
本プロジェクトは当初「500万円」で契約されたが、その後ユーザーから要件の追加や変更があり、ベンダーは「8500万円」という見積もりを出し、作業を行っている。
こうした状況の中、ベンダーは責任限定条項を理由に、「損害賠償額は500万円」だと主張し、ユーザーは「実際に作っていたシステムは8500万円相当」だとして、それと同じ額を賠償するように主張した。
また、本件では「ベンダーがユーザーの既存システムのプログラムを消失させる」という事件が別に発生しており、ユーザーがその損害も含めて約3億7000万円を請求している。
形式として整っているのは契約書であり、それには500万円と明記されている。しかし実際に行われた開発規模は8500万円とベンダー自らが見積もっている。
裁判所は、どのような判断をしたのだろうか。
ベンダーが期限までに要求を満たすリース管理システムを構築することができなかった、その主たる原因は、
(1)本件契約締結前に、ベンダーがユーザーの業務内容をよく理解しないまま、本件業務につき安易に考え、ユーザーもユーザーの希望をよく説明しないまま本件契約を締結したことから、ユーザー、ベンダー間で新システムの内容につき共通の認識が形成されていなかったこと
(2)円満な契約関係の維持に重きを置くベンダーは、ベンダーにとっては極めて過大ともいうべきユーザーの追加修正の要望に従わざるを得ず、例えば、追加事項はウィンドウズへの移行後に別途行うとしていったん新システムを早期に完成するといった打開策を強く打ち出せなかったこと
(3)ベンダーがユーザーに対し、検収期間を十分置くよう強く要望しなかったこと
にあるものと思われる。
しかしながら、ベンダーが、あらためてヒアリングを行い、見積もった請負代金が8500万円であることなどや、新システムの最終的不具合の内容に鑑みれば、ユーザーの要求は、元来完成までに長期間を要する内容であったと思われること、(中略)、自らの都合で無理を通そうとしたなど、ユーザーにも原因があると思われることからすれば、本件につき、ベンダーに一方的な背信行為があるとまでいうことはできない。
プロジェクトの失敗原因は、ユーザー、ベンダー共にあり、この点が損害賠償額の決定に直結しないことを述べている。
新システムの開発は、(中略)、ベンダーが新システム開発に関し、人件費として5000万円以上の損失を出していること、新システムについては、あらためてヒアリングをした結果、ベンダーが8500万円の見積もりを出していることからすると、本件契約における契約金額は、低廉に過ぎると思われ、従って、損害賠償の上限を、追加部分さえ含まない本件契約における委託金額の500万円とすることは、信義公平の原則に反するというべきである。
よって、本件特約については、ベンダーが作成しようとしていたシステムの出来高を上限とし、また、ベンダーは、ユーザーの間接的、派生的な損害については、一切の責任を負わないという限度で有効と解すべきである。
裁判所は、契約上の500万円ではなく、後で提示された見積もり金額8500万円をシステムの出来高とみなし、責任限定条項もこれに準ずると判断した。
(これ以外の事情も考慮されたため、賠償金額自体は違ったものになったが、)「形式よりも実態」という裁判所の姿勢が、ここでも見られた。
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