遅れたスケジュールを取り戻すために、仕切り直しスケジュールを提示したベンダー。しかしそれは、顧客の業種の特性を無視した自分勝手なものだった――。
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IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、私がこの連載を始めようと考えた動機ともいうべき、「ベンダーとユーザー双方の責任感の欠如が招いた紛争」を取り上げる。
システム開発はベンダーとユーザーの協業であり、双方にはそれぞれ果たさなければならない義務がある。
ベンダーには「プロジェクトを円滑に進めて、約束した納期までに提示された要件を満たすシステムを稼働させる」という「プロジェクト管理義務」がある。この義務の中には、「ユーザーの行動や態度がプロジェクトに対して悪影響を及ぼすと思われるときには、それを説明し、是正する義務」も含まれる。
ユーザーには「開発に必要な情報をベンダーに提供したり、必要な時期までに必要な判断をしたり、社内の意見を集約したり、これをベンダーに伝えたり」する「協力義務」がある。
今回取り上げる紛争は、ベンダーとユーザー双方の「責任」とその裏にある「心の甘さ」が如実に現れたものといえる。おのおのがどれくらい相手の立場に立ってモノを考え、行動しているのかを考えさせられる紛争でもあったので、多少古い判例ではあるが、あえて取り上げることとした。
民法改正まで1年を切ったこの時期、システム開発の契約書を見直さなければならないベンダー、ユーザーは多いと思う。こうした分かりやすい判決などを参考に、双方の責任を明確に表現したものを作ってもらいたいと考える。
事件の概要から見ていこう。
平成2年12月、あるシステム開発ベンダー(以下、ベンダー)と図書教材販売会社(以下、ユーザー企業)が入金照合処理のシステムを売り渡す契約を結んだ。納期は平成3年3月とされた。
しかしベンダーは平成3年3月までにユーザー企業とプログラム開発の打ち合わせをせず、当初スケジュールを変えて平成3年4月に打ち合わせを行い6月末までに開発する旨の提案をしたが、ユーザー企業はこれを拒絶した。
結果として、納品は8月末までずれ込んでしまった。遅延の原因は幾つかあるが、4月に打ち合わせを行えなかったことも大きな原因だった。
ベンダーが提案したスケジュールを、なぜユーザー企業は受け入れなかったのだろうか。3月までの遅延は仕方ないにしても、なぜ次善の策として提案された4月の打ち合わせをユーザー企業は断ったのだろうか。
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