本連載第66回、第67回では、Chromiumベースの新しい「Microsoft Edge」を企業内クライアントに展開するためには、「Microsoft Endpoint Configuration Manager Current Branch」、または「Microsoft Intune」、もしくは「その他のソフトウェア配布ツール」が必要と説明しました。本稿では、Windows ServerおよびWindowsの標準機能だけでChromiumベースの新しいMicrosoft Edgeを企業内クライアントに自動配布する方法について解説します。
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本連載の第66回、第67回では、2020年1月に安定版(Stable)バージョンが一般公開されたChromiumベースの新しい「Microsoft Edge」(以下、Microsoft Edge《Chromiumベース》)が、「Windows 10」のHome/Proエディション向けにWindows Updateでロールアウトされ、Windows 10標準の従来のMicrosoft Edge(EdgeHTMLベース)を置き換えられていくこと、企業向けにはWindows UpdateやWindows Server Update Services(WSUS)による自動配布は現状行われないことを説明しました。
そして、企業内でクライアントに配布するためには、現時点では「Microsoft Endpoint Configuration Manager Current Branch」または「Microsoft Intune」または「その他のソフトウェア配布ツール」が必要と説明しました。
今回は、「その他のソフトウェア配布ツール」としてActive Directoryの「グループポリシー」が利用できることを説明します。
以下のビジネス向けのMicrosoft Edge(Chromiumベース)のWindows版ダウンロードファイルの形式は、Windowsインストーラーパッケージ(拡張子「.msi」、以下、MSIパッケージ)です(画面1)。
MSIパッケージには自動インストール方法が定義済みになっており、「Windows 2000 Server」で初めて登場したActive Directoryから利用できる、グループポリシーの「ソフトウェアインストール」機能を利用して、自動配布(割り当て)またはユーザー指示によるネットワークインストール(公開)の形で簡単に展開することができます。
この方法を用いれば、Windows 10だけでなく、Microsoft Edge(Chromiumベース)がサポートする「拡張セキュリティ更新プログラム」(Extended Security Updates、ESU)で継続利用中の「Windows 7」や「Windows Server 2008 R2」、それ以降のWindowsクライアントおよびWindows Serverに対してMicrosoft Edge(Chromiumベース)を自動展開することが可能です。
安定版の最新バージョン、最新ビルドをダウンロードして展開した後は、Microsoft Edge(Chromiumベース)とともにインストールされる「Microsoft Edge Update」コンポーネントによって自動的に最新バージョンに更新されます。なお、Windows 7およびWindows Server 2008 R2のサポートについては、同じくChromiumベースの「Google Chrome」と同様、Windows 7のサポート終了から18カ月後の「2021年7月15日まで」となることに注意してください(※)。
(※)Windows 7およびWindows Server 2008 R上でのGoogle ChromeおよびMicrosoft Edge(Chromiumベース)のサポートは半年間延長され、「2022年1月15日」までに変更されました。
Active Directoryドメインを展開済みであれば、ドメインメンバーのコンピュータに簡単な方法でMSIパッケージを自動展開することができます。それには、展開用のグループポリシーオブジェクト(GPO)を作成し、配布対象のドメインユーザーやコンピュータを含む「組織単位(OU)」や「グループ(グローバルセキュリティグループ)」にリンクします。
Microsoft Edge(Chromiumベース)の対象化の方法はさまざまですが、ここではドメインのレベルにGPO「DeployNewEdgeX64GPO」を作成し、セキュリティフィルターを利用して「NewEdgeX64Target」グループにWindows用の64bit版MSIパッケージ「MicrosoftEdgeEnterpriseX64.msi」を自動展開または公開してみます(画面2)。
なお、セキュリティフィルターから既定の「Authenticated Users」を削除して、ユーザーまたはユーザーを含むグループを追加する場合は、GPOの「委任」タブで「Domain Computers」に対する「読み取り」アクセス許可を追加してください(画面3)。
これは、2016年6月に行われたグループポリシーのセキュリティ強化のための仕様変更に対応するためです。詳しくは、以下のサポート情報を参照してください。
グループポリシーのGPOにある「コンピューターの構成\ポリシー\ソフトウェアの設定\ソフトウェアインストール」や「ユーザーの構成\ポリシー\ソフトウェアの設定\ソフトウェアインストール」では、共有フォルダ上のパスにあるMSIパッケージを登録するだけで簡単に、コンピュータに「割り当て」、またはユーザーに「割り当て」「公開」することができます。
「割り当て」は自動インストールによる展開、「公開」はユーザー指示によるネットワークインストールであり、後者は「コントロールパネル」の「プログラムと機能」からユーザー自身がインストールを開始することができ、その後のインストールは対話なしで自動的に完了します。
コンピュータに自動展開するには、ドメインメンバーが読み取りアクセス権限を持つ共有フォルダ上のパス(\\サーバ名\共有名\……)にMicrosoft Edge(Chromiumベース)のMSIパッケージをコピーし、「コンピューターの構成\ポリシー\ソフトウェアの設定\ソフトウェアインストール」にMSIパッケージを追加して「割り当て」を選択します(画面4)。
また、MSIパッケージの「割り当て」には、同じGPO(別のGPOでも可)の以下のポリシーを有効化します(画面5)。このポリシー設定は、Windows Vista以降で変更されたグループポリシーの処理の仕様変更が、MSIパッケージのインストールを失敗させることがあり、それを回避するために必要になります。
MSIパッケージをユーザーに「公開」し、ユーザー指示によりインストールを開始させるには、「ユーザーの構成\ポリシー\ソフトウェアの設定\ソフトウェアインストール」にMicrosoft Edge(Chromiumベース)のMSIパッケージを追加し、「公開」を選択します(画面6)。
「公開」の場合は、「スタートアップ ポリシー処理時の待機時間を指定する」ポリシーの有効化や待機時間の調整は不要です。なお、「割り当て」と「公開」のどちらも、Windowsにサインインするドメインユーザーは、ローカル管理者の権限(ローカルのビルトインAdministratorsのメンバー)が必要になります。
コンピュータに「割り当て」を行った場合、「Gpupdate」コマンド実行時あるいはポリシー適用時のイベントログ(「GroupPolicy(Microsoft-Windows-GroupPolicy)」のイベントID「1112」)に、以下のようなメッセージが表示されることがありますが、再起動するとMicrosoft Edge(Chromiumベース)が自動インストールされます。
システムのスタートアップまたはユーザーのログオン前に変更を処理する必要があったため、グループポリシーのクライアント拡張機能Software Installationで1つまたは複数の設定を適用できませんでした。次のスタートアップまたはユーザーの次回のログオンの前には、グループポリシーの処理が完了するまで待機します。この結果、スタートアップおよび起動のパフォーマンスが遅くなる場合があります。
このメッセージはMicrosoft Edge(Chromiumベース)に限らず、MSIパッケージの「割り当て」時の正常な挙動です。再起動後も同じメッセージが確認された場合は、「スタートアップ ポリシー処理時の待機時間を指定する」ポリシーの待機時間を長めに調整するとよいようです(画面7)。
Windows 10には標準でMicrosoft Edge(EdgeHTMLベース)が組み込まれていますが、Microsoft Edge(Chromiumベース)が展開されると、これに置き換えられ、デスクトップやタスクバーのアイコンも変更されます。また、初回起動時に、Microsoft Edge(EdgeHTMLベース)からMicrosoft Edge(Chromiumベース)に移行したことが視覚的に示されます(画面8)。
「Windows 8.1」以前やWindows ServerにMicrosoft Edge(Chromiumベース)を展開した場合は、新しいブラウザとして追加されます(画面9)。
Microsoft Edge(Chromiumベース)をユーザーに「公開」した場合は、コントロールパネルの「プログラムと機能」(Appwiz.cpl)から「ネットワークからプログラムをインストールする」を開くと、利用可能なプログラムとして「Microsoft Edge」が表示されるので、ユーザー自身で選択して「インストール」をクリックします。インストールは自動化されており、ユーザーはインストールの開始を指示するだけで、インストーラーと対話(同意やオプションの選択など)する必要はありません(画面10)。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2019-2020)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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