2021年以降にIT部門やユーザーに影響を与える10の動向、Gartnerが予測仮想エクスペリエンスの台頭から新しいコンピューティングの登場まで

Gartnerは2021〜2025年にIT部門やユーザーに大きな影響を与える10の動向について予測を発表した。世界はこれまで以上に速いペースで動いており、今後10年間に従来なかった技術アプローチによって、抜本的なイノベーションが起こるという見通しを示した。

» 2020年10月30日 13時00分 公開
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 Gartnerは2020年10月21日(米国時間)、2021〜2025年にIT部門やユーザーに大きな影響を与える10の動向について予測を発表した。

 Gartnerのディスティングイッシュトリサーチバイスプレジデント兼フェローのダリル・プラマー氏は、現状認識と今後の展望を次のように要約している。「従来の技術は限界に達しつつあり、コンピューティングは壁にぶつかっている。世界の動きはかつてないほど速くなっており、デジタルイノベーションニーズに技術とプロセスが対応していくことが極めて重要になる。今後10年間、従来にない技術アプローチによって抜本的なイノベーションが起こることをCIO(最高情報責任者)は期待できる」

 「“全てのもののリセット”につながる将来の技術には、3つの共通点がある。『企業におけるイノベーションの拡大や効率向上を促進する』『代替技術よりも効果的である』『社会を変えるインパクトを与える』ことだ」(プラマー氏)

 10の予測の概要は次の通り。

(1)2024年までに従来型の大企業に属するCIOの25%が、デジタルビジネスの業績に責任を持ち、デジタルビジネスのCOO代理を実質的に務めることになる

 生粋のデジタル企業では、COO(最高執行責任者)がより目覚ましい役割を果たすようになっている。COOはデジタルビジネスの成功に不可欠な存在だ。ビジネスだけではなくビジネスを取り巻くエコシステムも理解しているからだ。技術のビジネス効果を促進する深い技術知識を持つCIOは、COOの役割の一部を引き受け、ビジネス目標に技術を融合させることで、企業の成果を高めることができる。

(2)2025年までに仕事上の会話の75%が記録、分析されて、組織の付加価値やリスクを見つけるために用いられる

 リアルタイムの対面コミュニケーションから、クラウドベースの会議ソリューションやメッセージングプラットフォーム、仮想アシスタントを利用したものに仕事上の会話がシフトしている。大抵の場合、こうしたツールは会話のデジタル記録が可能だ。職場での会話の分析が法令順守に加えて、将来の業績や行動の予測にも利用されるようになる。こうしたデジタル監視技術の利用拡大に伴い、プライバシー権を前面に押し出す倫理的な議論や活動が重要になる。

(3)2025年までに従来のコンピューティング技術が壁にぶつかり、ニューロモーフィックコンピューティングのような新しいパラダイムへのシフトを迫られる

 現在のコンピューティング技術のままでは、重要なデジタルプロジェクトを成功に導くことができなくなる。大量のコンピューティングパワーを要求するAI(人工知能)やコンピュータビジョン、音声認識といった技術が広く使われるようになり、汎用(はんよう)プロセッサは、これらの技術によるデジタルイノベーションに適さなくなる。

 「近い将来に台頭する先進的コンピューティング技術として、エクストリーム並列処理やDNN(ディープニューラルネットワーク)オンチップ、ニューロモーフィックコンピューティングなどが挙げられる。長い目で見ると、プリンテッドエレクトロニクスやDNAストレージ、化学コンピューティングといった技術が、幅広いイノベーションの機会を生み出すだろう」(プラマー氏)

(4)2024年までにデジタル企業の30%は、データ量の急激な増加に既存ストレージ技術が追い付かなくなるという危機感に駆られて、DNAストレージの試験運用に乗り出す

 コンピューティングニーズの進化を背景に、複雑で過酷な環境における根本的な適応力や復元力を持つ高度なストレージシステムが必要になる。DNAは本質的に復元力があり、エラーチェックや自己修復が可能であるため、そうしたシステムで使われる幅広いアプリケーションに最適なストレージプラットフォームやコンピューティングプラットフォームになる。

(5)2025年までに物理的なエクスペリエンスをベースとした企業の40%は、仮想エクスペリエンス販売への進出を通じて業績を高め、競合他社をリードするようになる

 IoTやデジタルツイン、VR/AR(仮想現実/拡張現実)の機能が向上するに従い、没入型エクスペリエンスが消費者にとってより魅力的なものになり、コストも手ごろな水準に落ち着く。このトレンドは加速していく。なぜなら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)の影響により、リモートでの仮想的なやりとりに対する人々の姿勢が肯定的に変化しているからだ。物理的なエクスペリエンスをベースとした企業は、没入型の仮想エクスペリエンスの創造や提供、サポートに関連する分野のスキル獲得や向上に取り組み始める必要がある。

(6)2025年までに世界の商品や作物の20%以上が、顧客が手に取るまで一切人手を介さなくなる

 新技術を用いた作業の自動化というトレンドは、パンデミックで一段と拍車が掛かっている。この流れは商品設計や材料の使用、プラントの立地、リソースの使用を見直す新しい機会をもたらしている。自動化が新たな必須の命題となり、生産や流通過程を経て顧客が手に取るまで、一切の人手を介さない商品や農作物が増えていく。

(7)2025年までに、顧客がフリーランスの顧客サービスエキスパートに料金を支払う動きが広がり、顧客サービスニーズの75%を担うようになる

 企業が自ら手掛ける顧客サービスは、顧客にとって利便性が低かった。企業の正規チャネル以外からサービスを受けて問題を解決する方がより効果的で、より良いエクスペリエンスを得られる場合が多い。顧客は企業と直接サービス契約を結ぶよりも、自分が手助けを求めている技術を専門とするフリーランスの顧客サービスエキスパートを頼るようになる。CIOはこうしたフリーランスエキスパートと早期にパートナーシップを組み、サードパーティーの顧客サービス会社を通じた顧客エクスペリエンスやブランド、収益化のリスク軽減を図る必要がある。

(8)2024年までに大企業の30%が新しい“ボイスオブソサエティー”指標を使うようになる。社会的問題への対応やそうした対応が業績に与える影響をこの指標で測定する

 “ボイスオブソサエティー”(社会の声)は、倫理的価値観を体現しようという意欲や、広く受け入れられる結果につながるように倫理的価値観を変化させようという意欲を駆り立てるコミュニティー内の人々の共通見解を指す。社会の声などの意見に基づく指標も、クリックスルー率のような定量的指標と同様に用いられるようになり、ビジネスの測定指標が増えていく。こうした定性的指標はCxO(最高責任者)にとって、社会の変化に迅速に対応できるビジネスを構築する上で必須となる。

(9)2023年までに大企業はオフィススペースの一部を保育施設や教育施設に転用することで、従業員の定着率を20%以上向上させる

 世界中で従業員は育児支援を求めているものの、要望は満たされていない。この問題はパンデミックを受けて一段と深刻化しそうだ。Gartnerによると2021年初めまでに、民間保育施設の20%が完全に閉鎖される見通しだからだ。大企業はこうした状況に対応し、オフィスの空きスペースを活用して、保育や教育といった社会的価値を持つサービスの提供施設を併設し始める。この動きは従業員、特に女性の満足度や生産性、定着率の大幅な向上につながると予想される。

(10)2024年までにユーザー生成コンテンツのモデレーションサービスの調査が、大企業の30%でCEOの優先課題になる

 2020年時点では社会的不安を背景に、ソーシャルメディアで発信されたコンテンツが物議を醸したり、炎上したりする事例が増加している。ブランドマーケッターや広告主の観点から見て、こうした状況はブランドの安全性に関する懸念や関連する問題を引き起こす。企業が自社サイト上のコンテンツの実態を理解するには、コンテンツモデレーションやポリシー強制、レポーティングサービスへの投資が極めて重要になる。

 「多くの場合、ユーザー生成コンテンツプラットフォームでは、適切な秩序維持策が講じられなければ、ブランドの評判は悪くなる一方だ。サイトやアプリケーションのパブリッシャーはポリシー強制によって安全な環境を提供することと、検閲しているとして批判されることの間で、バランスを取らなければならない。ブランド広告主はコンテンツの偏りの抑制に責任を持つようになる。コンテンツモデレーションの業界標準が登場するだろう」(プラマー氏)

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