このように、抽象化すると物事の目的や意味、本質を捉えられ、それを行う目的や意味をストーリー立てて分かりやすく説明できるようになります。でも「まだ、難しい」という方のために、もっと簡単な方法をお伝えします。
それは、ある事柄に対して「それによって、どうなる?」という問いを立てて、その答えを考えることです。
ITエンジニアの仕事でやってみましょう。
ITエンジニアが仕事をすると、どうなる?→情報システムができる
情報システムができると、お客さまはどうなる?→業務が便利に、楽になる
お客さまの業務が便利に、楽になると、どうなる?→生産性が高まり、時間が短縮できる
「それによって、どうなる?」を、ステップ・バイ・ステップで繰り返し考えると、抽象化ができ、上位にある目的や意味(つまり、本質)が明確になります。抽象化した内容をストーリー立てて、分かりやすく説明するためには、「それによって、どうなる?」で導いた内容を「で?」でつないでいくだけです。
この情報システムを開発すると、御社の業務を便利に、楽にできるんですよね。で、その結果、生産性が高まり、時間が短縮できるし、社内での情報伝達がスムーズになります。で、そうすると、残業代がカットできるし、今まで以上にチームワークが良くなります。で、……
といった具合です。
ここからは、ちょっとした会話のテクニックです。抽象化することによって、チームの中でよくある「ギクシャクしたコミュニケーション」をうまくやり過ごす方法を紹介します。
仕事をしていると、「AかBか」の選択で議論になる場合があります。メリットとデメリットを洗い出して戦わせても、話が発散するばかりで、なかなか会話が進まない……なんてこと、ありますよね。
そんなときに便利なのは、「大切なのは……AかBではなく、Cなのではないですか?」のように、AやBの上位にある概念Cへと相手の意識を抽象化させる方法です。例えば、これから開発するシステムを、クラウドにするかオンプレミスにするかでもめていたら……。
大切なのはクラウド(A)かオンプレミス(B)かではなく、いかにお客さまが望むシステムを早く、効率的に、安全に作るか?(AとBを統括した、より大きな概念C)ではないですか?
システムを開発する目的や意味、本質に立ち返ることで、どちらが良いのか判断しやすくなるかもしれません。
「そもそも」は、話が細かくなったり、発散したりして収拾がつかなくなって話の原点に戻るときや、物事の発端となった理由や原点を振り返る(つまり、抽象化する)ときに便利な枕ことばです。例えば、印鑑をデジタル化する、しないでもめていたら……。
そもそも、印鑑って何のために必要なんでしたっけ?
抽象化とは、目的や意味を明確にすること。「そもそも……」という質問を使うと、相手の意識を抽象化できます。
抽象化の利点や便利な使い方について見てきました。
繰り返しとなりますが、「抽象的な概念を理解する」とは、物事を「大きな視点で俯瞰的に捉えられる」ことです。また、大きな視点で俯瞰的に捉えることによって、「全体の構造を把握する」ことができます。
私は「そもそも」を考えるのが大好きです。抽象化は、物事の目的や意味、本質を見いだす思考プロセスでもあるので、普段から抽象化思考をしていると、全く関係ないような事柄の共通点を見つけられて、「あー、これはつまり、そういうことか!」と意外な発見をすることがよくあります。それが、とても楽しい。
抽象化という言葉だけ見ると何となくとっつきにくい印象がありますが、紹介した幾つかの方法を使えば簡単です。ぜひ、抽象化思考をしてみてください。プログラミングに限らず、ビジネスにおいても、物事の目的や意味、本質を明確にできるはずです。
「そもそも、自分は何のために……」を見いだせたら、仕事に対する動機付けにもつながるかもしれませんね。
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.