聴く態度と観察
PCの画面に向かってタイピングしながら自分の話を聴いている相手に、真剣な話題をしたいと思う人がいるでしょうか?
人の話を聴くときには、集中して聴くことはもちろん、「集中して聴いているよ」というサインを送ってあげることが必要です。適度にうなづいたり相づちを打ったり、話題によって表情を変えたりといったリアクションが、安心感を与え、相手が考えを深めていくことに通じます。
また、聴くことに集中することで、言葉以外のノンバーバルな情報を収集することもできます。視線や表情、声の調子などは相手の気持ちやコンディションを把握するための重要な情報です。内職しながら聴いていると見落としてしまいがちなこれらの情報を、集中して聴くことでキャッチできるのです。
オンラインならではのポイント
傾聴のスキルは対面で話す場合でもビデオ通話の場合でも同じように重要ですが、オンラインならではのポイントとして「カメラ」があります。
ビデオ通話は基本的にカメラをオフにする機能が付いています。しかしカメラがオフになっていると、相手の表情やしぐさを観察できない。つまり、観察によって得られる情報が減衰してしまうのです。
オンラインミーティングでのカメラオンオフについては、さまざまな意見があります。興味のある方は検索してみてください。さまざまな意見があるということは、「常にオンにしてもらえるとは限らない」かつ「カメラオンを強要するのはよろしくない」と考えておく必要がありそうです。
1on1においては、できればカメラオンにしてほしいのが菌類の本音です。しかし強要はできないので、普段から「カメラをオンにしてもいいかな?」と思える関係性や、大げさにいえば組織文化を育んでおく必要があります。
いきなり文化は育ちませんが、まずは1on1を実施する自分自身がカメラオンにすることを心掛けてみるといいかもしれません。
沈黙を受け入れる
聴く練習を重ねると、相手が順調に話してくれているときは、「集中して聴く」ことはできるようになります。では、相手が黙ってしまったら?
沈黙が不安になってつい口をはさんでしまったり、具体的なアドバイスをしてしまったり、そのまま独演会に突入してしまったり……などなど、沈黙はアンチパターンの入り口になってしまうことがあります。
自分で話している言葉が自分に作用して考えが広がったり深まったりすることを「オートクライン」といいます。相手がオートクラインの状態で黙っているときに声を掛けてしまうと、せっかく考えているところを邪魔することになりかねません。
相手の沈黙を受け入れ、黙って待っている。
結構難しいのですが、意識してやってみてください。「すぐにしゃべらなくても平気だよ」というサインを表情やしぐさで送れると、相手に安心感を与えるのでさらに良いでしょう。
「ペーシング」とは、相手とペースを合わせて会話のキャッチボールを成立させることです。
考えをまとめるために会話の相手になってもらうことを「壁打ち」というのを、聞いたことはないでしょうか。プログラミングの経験がある方だと、「ラバーダックデバッグ」とか「クマちゃんデバッグ」というフレーズになじみがあるかもしれません。どちらも自分が話すことで考えを整理するためのメソッドで、相手からアイデアやアドバイスを期待するものではありません。
アイデアやアドバイスを与えるのが目的ではなくても、会話の相手としてはどーんとそびえ立つ壁よりも、ボールを受け止めて投げ返してくれる方が良いものです。ペーシングは、壁をキャッチボールの相手に進化させるテクニックなのです。
会話の速度や粒度
まず大事なのは、話す速度、口調、話すときの表情など、会話の内容に直接関係しない部分で「歩調を合わせる」ことです。相手が明るい表情で話しているのに沈んだ顔をしているとか、考えながらゆっくりしゃべっているところに早口で返すなどは、キャッチボールの返球としては「暴投」で、その後の会話がスムーズにつながりません。
内容の手前でペースがそろってきたら、内容についても調整できるとよりスムーズなキャッチボールができます。まずは使っている用語や話題の抽象度など、分かりやすいところから意識してみましょう。ビジネスの話題に対して詳細で正確な技術用語はミスマッチかもしれませんが、テストフェーズについての話であればきっと重要になるでしょう。
話しやすくするための刺激
受けたボールをいい感じに返せるようになったら、次はもうちょっと積極的に「話しやすくするための刺激」を与えてみると、考えを広げたり深めたりするサポートになります。
話題の中で重要そうな単語をそのまま繰り返してみるとか、自分の理解で言い換えてみるなどは、それほど難易度は高くないわりに効果的です。
相手の様子を見ながら、「それで?」「もっと詳しく」など、より積極的な刺激を与えることで会話の内容を深めていくというテクニックもあります。ですが、先ほどお話しした「沈黙を受け入れる」ことの方が重要なので、使い所はよく見極めましょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.