「Windows Subsystem for Linux(WSL)」の最新バージョンの正式版がMicrosoft Storeから入手可能になりました。現在サポートされているWindows 10やWindows 11には、WSL(通称、WSL1)とWSL2の正式版が標準搭載されています。今回リリースされたのは何者なのでしょうか?
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「Windows Subsystem for Linux(WSL)」の最初のバージョン(通称、WSL1)は、「Windows 10」のバージョン1607にβ版として提供され、Windows 10 バージョン1709で正式版になりました。WSL1は、Linuxバイナリ(ELF64)に変更を加えることなく、Windows上で実行できるようにする技術です。WSL1の下でLinuxカーネルが動いているわけではありません。
Windows 10 バージョン2004では、“本物のLinuxカーネル”で動くWSL2が正式版として組み込まれ、その後、WSL2はWindows 10 バージョン1903およびバージョン1909にもバックポートされました。
WSL2ではハイパーバイザー上で分離されたLinuxカーネルが動作し、その上でさまざまなLinuxディストリビューションが実行可能になります。WSL2の利点は、WSL1と変わらない高速な起動、ファイルI/Oパフォーマンス、小さなフットプリントに加え、システムコールの完全な互換性を提供でき、「Docker Desktop」のLinuxコンテナ用のバックエンドにも対応しています。また、LinuxカーネルはWindows Updateで保守され、最新のセキュリティパッチとLinuxカーネルの機能強化を利用できます。
現在のWindowsでは、WSL1とWSL2の両方がサポートされ、WSL2が既定のインストールになっています。
そして、Microsoftは2022年11月22日(米国時間)、Microsoft StoreでWSLの最新バージョンの正式版(以下、ストア版WSL)が利用可能になったことを発表しました。提供の対象は、Windows 10 バージョン21H2以降および「Windows 11」です(画面1)。
Microsoftは2021年10月から、次期WSLのプレビュー版をMicrosoft Storeを通じて提供してきました。このプレビューが外れ、正式版(WSLバージョン:1.0.0.0)となったというわけです。
今後は、ストア版WSLが既定のインストールとなります。“今後”とは、Windows 10およびWindows 11に提供される「2022年11月のオプションの累積更新プログラム(Cリリース)」以降です。つまり、Cリリースの内容を含む2022年12月の累積更新プログラム(Bリリース)からは、広く一般提供されるということになります。
正式のストア版WSL(「Linux用Windowsサブシステム」アプリ)のバージョンは「WSLバージョン:1.0.0.0」ですが、WSL1とWSL2の両方に対応しているものであり、WSL1のことではないことに注意してください。コマンドプロンプトまたはPowerShellで「wsl --version」コマンドを実行し、このバージョン情報が表示されれば、最新バージョンを実行していることになります。このコマンドでは、Linuxカーネルのバージョンを確認することもできます(リリース時点では「5.15.74.2」)。
以下の公式ドキュメントを含め、インターネットを検索して見つかるWSL1やWSL2のインストール手順の多くは、内容が古い可能性があります。
「wsl --install」コマンドを実行してインストールするという最も簡単な手順は同じですが、旧版と最新版では、インストール結果や組み込まれるWindowsコンポーネントが違ってきます。また、新しいオプションも幾つか追加されています。
最新のWSL2を新規インストールするには、2022年11月のCリリース以降がインストールされているWindows 10(1904x.2311以降)またはWindows 11(バージョン22H1は22000.1281以降)でコマンドプロンプトまたはPowerShellを管理者として開き、「wsl --install」コマンドを実行して、再起動が求められたら再起動します。
再起動後、既定のディストリビューションである「Ubuntu」のインストールが再開され、セットアップが完了します(画面2、画面3)。
なお、既定では、WSL1をサポートするために必要なWindowsの機能「Linux用Windowsサブシステム」はインストールされません。WSL1のサポートをインストールしたい場合は、インストール時に「wsl --install --enable-wsl1」コマンドを実行するか(その場合も既定はWSL2)、インストール後に「Windowsの機能の有効化または無効化」を開いて手動で有効化します(「--enable-wsl1」オプションはインストール後に利用できなくなります)。
既にWSL1またはWSL2をインストール済みの場合は、2022年11月のCリリース以降がインストールされているWindows 10またはWindows 11で「wsl --update」コマンドを実行します。再起動が要求されることはなく、すぐに最新バージョンに更新されます(画面4、画面5)。
アナウンスにはWindows 11 バージョン22H2についての言及はなく、ストア版WSLのリリース時点ではWindows 11 バージョン22H2向けのCリリースは未提供でしたが、2022年11月のBリリースに更新された状態で「wsl --install」コマンドや「wsl --update」コマンドによるストア版WSLの導入が可能でした。
Microsoft Storeから「Windows Subsystem for Linux」アプリをインストールしても、既存のWSL2を最新バージョンに更新できるようです(前出の画面1)。なお、WSL2における「Linux GUIアプリ(WSLg)」のサポートは、これまでWindows 11(ビルド22000以降)向けに提供されてきましたが、最新のWSLではWindows 10でも利用できるようになっています。
「Windows Server 2022」では、2022年5月のCリリース以降、WSL2がサポートされるようになり、「wsl --install」コマンドによる簡単なインストールも利用可能になっています。ストア版WSLの正式リリースのアナウンスでは言及されていませんが、2022年11月のCリリースがインストールされたWindows Server 2022(ビルド20348.1311以降)の更新された「wsl.exe」は、ストア版WSLに対応したものになっていました。
ただし、「wsl --install」コマンドによるインストールは、再起動後のUbuntuのインストールがエラーとなってしまい、Linuxディストリビューションのインストール部分が完了しませんでした。別のLinuxディストリビューション(例えば、「wsl --install -d kali-linux」)は正常にインストールが完了し、機能しました(画面6)。ちなみに、Windows Server 2022の「Server Core」インストールでは、「wsl.exe」が全く機能せず、インストールすることができませんでした。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2008 to 2023(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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