阿部川 素晴らしいですね。PCを最初に使ったのがいつくらいか覚えてらっしゃいますか。
ショエブさん 恐らく15歳のときだったと思います。私たちの学校に「コンピュータラボ」が設立されたのです。確かイガットプリで初めて設立されたコンピュータ関連施設だったと思います。OSは「Windows 98」で、大きなCRTモニターがありました。私の記憶が正しければ10台くらいしかPCがなかったので、1人30分、3人で1つのPCを共有するといった使い方です。
そうなると早いもの勝ちです。1人がペイントツールで絵を描き出せば、他の2人も同じことをやるしかありませんから。確かとてもシンプルなプログラミングの授業もありました。2桁の掛け算とか、2桁の倍数とか。恐らくそれが私が最初に書いたプログラムだと思います。当時はそのようなプログラミングをたくさん習いました。
阿部川 そういった経験をされる中で、将来なりたいもの、それこそエンジニアになりたいと思うことはありましたか。
ショエブさん 子どものころは弁護士に憧れていました。といっても、法律が好きとか法律を勉強するのが好きだったからではありません。家の近くに裁判所があって、立派な黒のコートを着た多くの弁護士が行き交う様子をよく見ていたからです。その姿が何ともかっこ良くて、弁護士になりたいと思っていました。
エンジニアという職業を知ったのは専門学校に行ったときです。インドには政府に後押しされた各種の専門学校が多くあり、学生は就職のための専門的な知識や技術などを学びます。私は通常の学校に加えて、8年生から10年生まで(年齢でいえば14歳から17歳まで)の3年間、この専門学校にも通いました。専門学校での学びはとても楽しくて、家に帰ってからも、ヒューズを取り外したり電化製品を分解したり、実験のようなことをしていました。そのおかげで、今でも家でのちょっとした問題――電球がつかないとか、バルブが壊れたといったトラブルは自分で直せます。
私の話で恐縮ですが、このお話を聞いて、中学校の技術の時間にはんだごてなどを使ってコンセントプラグを作ったことを思い出しました。今思えばあれが技術の世界に進むきっかけでした。自分で手を動かしてその結果が実感できる、というのはすごく楽しいですし、エンジニアという仕事の面白さにつながるものがありますよね。
阿部川 イガットプリではエンジニアになりたい人は多いのでしょうか少ないのでしょうか。
ショエブさん 今は違うと思いますが、当時あまり一般的ではありませんでした。イガットプリはとても美しい街ですが、就職先はそれほど多くありません。もちろん、ムンバイなどの大都市からそれほど離れていないので、職業選択のオプションは幾つもあります。また、街は離れなければなりませんが、エンジニアリングや医療について学ぶこともできます。
エンジニアを目指そうと思ったのは、大学に進学できる見込みができたときです。ただ、一直線にエンジニアリングを目指したのではありません。当時、「3年間の学位プログラム」という制度があり、試験に受かると大学を4年ではなく、3年で卒業できます。先ほどお話ししたように、エンジニアになるためには、上級第2学校卒業後にさらに4年間学ぶ必要がありますが、学位プログラムであれば早く専門的な内容を学べます。私の場合は、第2学校の8年生から10年生までで専門的なことを学びました。
阿部川 プネ大学(Pune Institute of Computer Technology、PICT)では電子工学とテレコミュニケーションを専攻されたのですよね。
ショエブさん はい。電子やデバイス、回路、デジタルエレクトロニクス、アンテナ、マイクロプロセッサ、マイクロエンコーダーといった分野です。「Java」も学びました。そのうち、ハードウェアをいじることよりも、プログラミング言語の方が「できるな」と思うようになりました。2004年のことです。PCを使ってプログラミングして何かを開発することは一種のホビーのような感覚でしたね。
阿部川 そのときには製造系ではなくソフトウェアのエンジニアになろうと思っていましたか。
ショエブさん うーん、結構悩みましたよ。エンジニアリングは好きでしたし成績も良かったので。エレクトロニクスのエンジニアになってインテルやソニーなどで仕事をするか、あるいはソフトウェアの業界に進むか。悩んだ末、PICTで学んだことがあるソフトウェア業界に決めました。
阿部川 あれ、もう弁護士になる夢は忘れたのですね(笑)。
ショエブさん はい。もうずっと前に忘れていました(笑)。
美しい自然に囲まれ、けがをするくらい元気いっぱいで健やかに育ったショエブさん。素晴らしい先生に出会い、勉強の楽しさにも目覚めた同氏はやがてエンジニアを夢見始める。後編は日本企業に入社したきっかけと仕事で大切にしていることについて。
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