内製化のメリット/デメリットと成功のポイントは?ビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説

IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第6回は「内製化」です。ITエンジニアの自学用、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説用にご活用ください。

» 2023年03月08日 05時00分 公開

1 内製化とは

 内製化とは、外部に委託していた業務を自社の社員や設備などで対応する体制に切り替えることです。従来、日本のユーザー企業はシステムの設計や開発、運用などを全てベンダー企業に委託するケースが多く見られました。しかしここ数年、システムに関する業務を外部に委託するのではなく、内製化へ舵(かじ)を切る企業が増えています。

図1 ユーザー企業が社内にITのスキルを蓄積・強化するための内製化状況【従業員規模別】(出典:IPA IT人材白書2020

2 内製化ブームの背景

 現在の日本における内製化ばやりの一因として、経済産業省が「DXレポート」で警告した「2025年の崖」(※1)をきっかけとした、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が挙げられます。

※1 2025年の崖とは、日本企業のDXが推進されない場合、企業の競争力が低下し2025年以降に最大で12兆円もの経済的損失が発生するとした経済産業省のレポート内の言葉。

 DXの推進にはさまざまな課題が存在しますが、システムに関する業務を内製化することにより、それらの課題の一部を解決できる可能性があります。また、クラウドサービスローコード/ノーコードといったトレンドの技術も、内製化を後押しする要因となっています。

3 メリット/デメリット

 システムの内製化には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

3.1 メリット

3.1.1 開発スピードの向上

 自社システムに関する業務を外部に委託していると、委託先との調整に時間がかかり、急速なビジネスの変化への迅速な対応が難しいという課題があります。企業の競争優位性を高める上で、コア事業を担うシステムには迅速な開発や改善が求められます。システム開発を内製化することで、開発スピードを向上し、市場の変化やトレンドの技術に対して迅速に反応することが可能となります。

3.1.2 開発の柔軟性が高い

 上述した開発スピード向上のメリットと重なる点もありますが、システム開発を外部に委託していると、少々の仕様変更においても都度委託先との調整が必要となります。例えば、長い開発期間中に市場に変化が起こった場合、要求仕様を変更しようとすると多額の追加コストが発生します。

 このような理由から、業務部門の要望を柔軟にシステムに反映することが難しい状況があります。その点、システム開発を内製化していると、業務部門とシステム開発者がいずれも社内におり、システム開発が社内で完結する分、業務部門の要望をよりダイレクトにシステムに反映させやすいといえます。

図3 外部委託と内製の比較イメージ

3.1.3 ノウハウを蓄積できる

 自社システムに関する業務を外部に委託していると、システム開発や運用の困りごとを委託先が解決してくれるため、自社システムであるにもかかわらず自社システムに関する知識を社内に蓄積することが難しくなります。内製の体制が機能していると、自社システムに関する実践的な知識を社内に蓄積でき、システムのブラックボックス化を防げます。しかし、特定の人材が長期間同じシステムを担当するなど、結果的に外部委託と同様にノウハウが属人化するリスクはあります。ノウハウを文書化して共有する仕組みなどは必須といえるでしょう。

3.2 デメリット

3.2.1 エンジニア需要の増減に対応しづらい

 自社システムを内製化しようとすると、社内で定常的にIT人材を擁することになります。システム開発を外部に委託している場合は、業務量の増減に応じて委託先のリソースを調整できますが、自社の社員の場合は簡単に減らせません。需要の予測を立て、計画的にIT人材を採用しないと、思わぬコストになる可能性があります。

3.2.2 IT人材の育成や採用が難しい

 そもそも日本のIT人材は不足しており、IT人材の確保自体が難しい状況にあります。また、IT人材の成長には実践的な経験が必要であり、既存の社員を育成する場合は、相当な時間とコストがかかります。せっかく育成した人材も、満足な待遇やキャリアパスを用意しないと離職の可能性があり、専門的なスキルを持った人材の代替要員を採用するには時間がかかります。このように、安定した内製化体制を作ること自体の難易度が高い点に注意が必要です。

3.2.3 品質の担保が難しい

 ベンダー企業には数多くのシステム開発のノウハウや、プロジェクトを完遂する体力(リソース)がありますが、ユーザー企業では体制確保の難しさもあり、品質担保の難易度は高いといえます。限られたリソースの中で、プロジェクト中の予期せぬメンバー離脱などのトラブルにも備える必要があります。

4 内製化の成功に向けて

 自社システムの内製化は、成功するとさまざまなメリットを享受でき、DX推進に大きく寄与するものといえます。しかし、メリットが大きい一方で、特に体制面での課題により成功までのハードルは高いように思います。このような状況下において、昨今はベンダー企業がユーザー企業の内製化を支援するサービスを展開するようになりました。

 今後は従来のユーザー企業(システムを発注する側)とベンダー企業(システムを提供する側)のビジネスモデルに変化が起こることが予想されます。ユーザー企業によるシステム開発をベンダー企業が支援するような、「共創型の内製」が、幅広い企業の内製化を成功させる鍵になるものと思います。

古閑俊廣

BFT インフラエンジニア

主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。

現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。

「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。

実践型ITインフラ研修 BFT道場


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