「お前らはセンスを持ち合わせていないのか」「自分がこの部屋から出て行ったら終わりだぞ」。担当プロジェクトが遅延し、ユーザー企業担当者から責められ体調を崩したベンダーのエンジニア。その原因は、ユーザー企業、ベンダー、どちらにあるのか――。
契約したシステム開発がうまくいかないとき、発注者であるユーザー企業も受注者であるITベンダーも苦しいのは同じなのかもしれない。しかし、どちらの立場が優位かといえば、それはお金を払う身であるユーザー企業であり、ベンダーはユーザー企業に謝罪と申し開きを繰り返しながら長時間の作業を強いられるというのが一般によく見られる姿であろう。
ユーザー企業の方もいつまでたっても出来上がらない不具合だらけのシステムに安穏としていられるわけはなく、いら立ちの矛先はベンダーの中心メンバーに向けられる。ユーザー企業の担当者がベンダーのプロジェクトマネジャーを激しく叱責(しっせき)し、時には罵倒する姿を、私も長いシステム開発経験の中で何度も見てきた。
さらには、それが原因でベンダーのメンバーが体調を崩してプロジェクトを離脱することもあるし、悪くするとより深刻な疾病を患ったり、退職にまで追い込まれたりすることもある。
今回は、この問題の参考になる判決を紹介する。あらかじめ申し上げておくと、紹介する事件において、ユーザー企業担当者の叱責とベンダーメンバーの体調不良の因果関係は証明されていない。ただ、判決において裁判官は「仮に」という形で因果関係がある場合も含めて問題を汎化(はんか)して判断しているため、参考になるかと思う。
事件の概要から見ていこう。
ある経営コンサルタント企業(ユーザー企業)がITベンダーに対して税理士事務所向けソフトウェアの機能改善などを依頼した。システムは税理士事務所がクライアント企業の財務諸表などを基に財務分析および財務体質を評価し、企業の格付けやアドバイス機能を有するものだった。
しかし開発は難航し、ユーザー企業の要望する機能が具備されていない箇所が多数あることに加え、スケジュールも半年以上遅延した。その上、開発を担当するベンダーの担当者Aは予定された会議を行わないことやユーザーからの問い合わせにも回答しないなどということがあった。
こうしたこともあり、ユーザー企業担当者はAをはじめとするベンダー担当者を厳しく叱責するようになり、会議では「コストを抑えようとしている、作業をやりたくないのだろう」「お前らはセンスを持ち合わせていないのか」と、Aらの能力を否定するような発言を繰り返し、またユーザー企業代表者からベンダー代表者に対しても「自分がこの部屋から出て行ったら終わりだぞ」と契約解除をほのめかして脅すような言動があった。
その後、ベンダー担当者Aは体調を崩してプロジェクトを離脱することとなり、代替のメンバーによってもプロジェクトは回復の見込みがないことから、ユーザー企業は契約を解除し、既払い金の返還など損害賠償を求めて訴訟を提起した。
これに対してベンダーは、反訴においてユーザー企業側の高圧的な態度を主張した。
出典:Westlaw Japan 文書番号2007WLJPCA12048005
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