下請け企業が「スキルが足りないとクレームを付けられたので、メンバーを引き上げた」が、「契約を解除したのは元請け企業の方だ」と主張している点が、私には少し不思議に思える。
判決文にその辺りは詳しく書かれていないが、下請け企業が元請け企業に申し入れを行ったメールには「貴殿のメールの文面や電話のやりとりから、非常に失礼かと思われますので、御社にお世話になっている要員は5月末にて全員撤退させていただきます」といった言葉も見られる。
恐らく両者の間にはかなり厳しい応酬があったと思われる。そしてその中で、下請け企業が「これは事実上の解除通知だ」と感じる言葉もあったのかもしれない。ただ、この点は判決で取り上げられることもなく、本記事の主要な論点ではないので、あくまで想像に留めておく。
顧客企業のメンバーがクレームを入れたというAのスキルとはどのようなものだったのだろうか。判決文には以下の文言がある。
Aさんの現場でのパフォーマンスが著しく低く、プロジェクト推進の障害になっている。具体的には、「Git」や「Rails」(Ruby on Rails)のコマンドが分からず他メンバーにヘルプを求めることで、他メンバーの工数を浪費している。(中略)コマンドレベルから教える筋合いはない。
「まさかその質問をする!?」と、周りのメンバーは度肝を抜かれており、他のタスクを振るのが正直怖いです。
同じ単価で入っている別メンバーBさんとAさんでタスク分量を「6:4」で割り振りました。Bさんはその日中に終わっていますが、Aさんは翌日までかかっております。
「GitやRailsのコマンド」について@ITの読者に説明の必要はないだろう。どちらも今どきのITエンジニアに求める技術としてはごく平易で、顧客企業が当然期待してもいいスキルである。
上記のクレームを元請け企業経由で聞いた下請け企業は、Aのスキル向上に努めたようだ。実際、Aには多少のスキルアップはあったようだ。しかし顧客企業は納得せず、契約解除を元請け企業に申し出た。元請け企業は契約解除を避けるために努力していたが、そのさなかに下請け企業が撤退してしまったということのようだ。
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