AWSは同社クラウドへの移行戦略に、「VMware Cloud on AWS(VMC on AWS)」を組み込んで顧客に提案してきた。だがこのサービスをAWSが販売しなくなったことにより、移行の選択肢として提案するインセンティブがなくなったのではないか。AWSジャパンに聞いた。
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「VMware Cloud on AWS」(VMC on AWS)のAmazon Web Services(AWS)による販売が終了した。これについて、AWSの日本法人であるアマゾンウェブサービスジャパン(以下、AWSジャパン)の説明を聞いた。
Broadcom、AWSによる「VMware Cloud on AWS」の販売が終了したと発表 「サービスはなくならない」
あらためて整理すると、VMC on AWSは当初からあくまでもVMwareのプロダクト。だがVMwareとAWSが技術的な面を含めて共同開発を続けてきたものだ。そしてAWSと同社の販売パートナーは、再販できることになっていた。
AWSは、クラウドへの移行における7つの道筋として「7R」を定義し、顧客との対話に生かしてきた。VMC on AWSはこの7Rのうち「リロケート(Relocate)」を担うものとして組み込まれている。これを踏まえ、AWSジャパンは必要に応じてヴイエムウェアと協力した上で、各顧客に適した移行戦略を提案してきた。
だが、AWSによるVMC on AWSの再販終了により、7RからVMC on AWSは消えるのではないか。少なくとも、AWSがクラウド移行における選択肢の一つとしてVMC on AWSを提案するインセンティブは大きく低下するのではないか。
AWSジャパンによるVMC on AWSの再販は、日本においても、グローバルでのBroadcomによる発表と同日(2024年5月6日)に終了した。AWSおよびAWSパートナーから購入してVMC on AWSを利用している顧客は、これまでと変わらないサポートを受けられるとAWSジャパンの担当者は答える。
顧客がAWS側から購入した複数年あるいは単年のサブスクリプション契約が無効になるということもない。期間終了まで従来通り利用できる。
「期限が迫ってきた場合に個々の顧客がどう判断するかは別だが、現時点で直ちに影響はない」(AWSジャパンの担当者、以下同)
では、VMC on AWSの大きな特徴であった技術的な共同開発についてはどうなったのだろうか。
「本社の開発チーム同士の連携は継続している。VMCとAWSの機能インテグレーションは引き続き進められている。最近でも新機能のアナウンスが出ている。2社の技術チームは、顧客からの要望やフィードバックを受けて機能改善を行い、顧客にとって良い選択肢であり続けようとしている」
VMC on AWSのリリースノートでは、執筆時点で2024年4月22日が最新リリースとなっている。
また、サービス開始当初から公開されているVMC on AWSの機能開発ロードマップページには、執筆時点でもアクセスできる。
これらはあくまでもVMC on AWSの機能としてBroadcomが示している情報であり、どれがどこまで「共同開発」なのかは分からない。
AWSジャパンの担当者は、VMC on AWSの販売終了後も、7Rからこのサービスが消えることはないという。
「VMC on AWSの提供は続く。AWSから直接の販売はできなくなったというだけ。コスト削減、アジリティ、短期間での実施など、クラウドへの移行で顧客が優先したいことに合わせ、もしVMC on AWSが最適であるという選択がなされた場合にはヴイエムウェアを紹介する」
そもそも、7RはAWSが提供するサービスに限ったものではないと、担当者は話す。例えば「リパーチェス」はAWS以外の企業が提供するSaaSやソフトウェアパッケージを指している。
とはいえ、クラウド移行における包括的なパートナーとして動きにくくなることは確かだと担当者は認める。だが、今回の件のインパクトを最小化すべく、日本側では努力しているという。
AWSジャパンはこれまで、ヴイエムウェアと特任チームを組んで情報連携を行い、案件サポートを共同で行ってきた。今後もこの体制は変わることなく、2社で顧客を支援していく、と担当者は話す。
「フィールドにおける顧客支援では、例えば最適なネットワーク構成や、 どこでAWSネイティブサービスと連携し、どこでVMwareの機能を使うといいかなど、アーキテクチャ的な深堀りポイントがある。これまで、日本法人同士でバーチャルチームを作り、それぞれのナレッジを持ち寄って対応してきたが、こうした連携は今後も変わらない」
担当者は、VMC on AWSと7Rの関係を、次のようにも表現している。
「VMC on AWSによるリロケートという選択肢は、アプリケーションに手を入れずに、従来の運用体制を保ったまま短期間で移行できるというメリットがある。一方で、使いたい機能をすぐに構築する、従量課金でコスト効率を上げていくなどのクラウドの良さは生かせない。以前から、『将来的にどういった姿を目指すのかも含めて移行パスを検討していきましょう』というアプローチをしている。その中で、検討材料の一つとしてBroadcomの状況を顧客に伝え、判断していただいているということはある」
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