ここまでお話しした「DX成功のプロセス」は、私自身も実践している。現在、私は新潟県内のある法人で、デジタル化の支援に関わっている。従業員数が600人ほどの、そこそこ大きな法人だ。
入り口は、知人からの「デジタルツールの見直し」だった。渡された資料には、「紙の手続きが多い」「ツールはあるが、導入しただけで活用できていない」といった課題が示されていた。
ツールの課題から入れなくもない。また、手間がかかっている業務課題の洗い出しもやろうと思えばできる。
だが、急いでツールの話だけを進めても、すぐに挫折してしまうだろう。それは、システムエンジニアとしての経験や、本連載の取材からも明らかだった。そこで、「そもそも、何のためにDXを進めるのか? その必要があるのか?」を議論することから始めた。
議論の中では、仕事や私生活で「ぶっちゃけ、どう思っているのか?」をたずねた。すると、「正直に言うと、私自身楽になりたい」「家族と、当たり前に夕飯を食べたい」「自分を犠牲にするのではなく、本当にやりたい仕事を、じっくり考える時間が欲しい」といった本音が出された。また、業務においても「本当は、紙の運用をやめたい」といった声も聞かれた。
そうしてまとめられた、DXを推進する目的は「新しい『余白』をつくること」。その中身は、「時間の余裕ができたら、いままでやりたくてもできなかったことにじっくり取り組みたい」「お互いのことを分かるようになりたい」「気持ちの余裕が生まれて、相談しあえるようになりたい」といったものだった。
さらには、持病があっても、障害があっても、年をとっても、仕事や人間関係がうまくいかない日があっても「何とかなるね」「何とかなったね」「一人じゃないね」と言い合える職場――そんな優しい言葉であふれていた。
入り口は「ツールの見直し」のはずだったのに、たどり着いた目的には、ツールの名前は1つも出てこない。あるのは、そこで働く人の「しあわせ」への願いだ。
その後、従業員にも困りごとについてアンケートをとった。その結果、勤怠管理から着手することになり、現在、紙の運用からデジタルツールの活用へ移行を始めている。
プロセスで言えば、まだ「巻き込み期」から「試行期」に差し掛かったところかもしれない。それでも、取り組みはいまのところ順調だ。それは、「DXを行う目的」が共有できていることが大きいのではないかと思っている。
本連載の取材を通して、改めて思うことがある。それは「DXの本質は『組織づくり』である」ということだ。デジタルツールは、その中の手段だ。
取材の中で印象に残っているのは、ツールの機能や効果ではなく、人と人との関わりについて語る言葉だった。
岸産業の岸晃広さんは「僕たちが導入した生産管理システムって、実は、コミュニケーションツールなんじゃないか」と話していた。長野テクトロンの倉科裕紀さんも「DXというとデジタルのイメージですが、私はアナログな部分がとても大事だと思っています」と話し、従業員が「ちゃんと見てくれているな」と感じることで動きが出てくると語っていた。デジタル化が進むほど、むしろコミュニケーションや気配りといった、人の関わりの大切さが浮かび上がってくるようだ。
また、DXは推進役一人の力で進むものでもない。府中市の佐々木恭平さんは「私だけが一生懸命勉強すれば実現できる話でもありません」と話し、何が最適なのか「皆が考えられる土壌」を作りたいと語っていた。第一製品流通は、以前は誰も疑問に思わなかった業務を「いったん見直してみよう」と考える人が増え、巴山建設は、現場から次のアイデアが出てくるようになった。
担当者が旗を振るところから始まった取り組みが、やがて会社全体で考え、動くものへ変わっていく。その変化こそが、DXの成果なのかもしれない。AIも同じく手段であり、順番は変わらない。
何のためにDXを推進するのか? 未来に対して何を目指すのか? 会社を、組織をどうしていきたいのか?――その目的を明確にし、周囲と共有する。DXの本質は、そうした「そもそも」のところから始まる。
それを現場に落とし込む時は、できるだけ負担や変化が少ないよう、小さく、いますぐにでもできそうなところから始める。そうした関わり方が大切だ。
大切なことなので繰り返したい。もしあなたが、DXを進める上でさまざまな悩みを抱えているなら、それは、多くのDX実践者が歩んできた「成功のプロセス」の途中にいるのかもしれない。
最初から全てがうまくいくわけではない。だが、いまあなたが置かれている状況を、ここで紹介した「DX成功のプロセス」に照らし合わせてみると、いま経験していることが「必要なプロセス」であることが見えてくるのではないだろうか。
そして、いまできることを続けていけば、小さな変化が少しずつ見え始める。そこから対話が生まれ、「もっと良くしていこうよ」という機運が生まれる。その結果として、いいチーム、いい会社になっていく――。
それが、DXの本質なのではないかと思う。
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しごとのみらい理事長 竹内義晴
「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。「ストレスをかけるマネジメント」により心が折れかかった経験から、「コミュニケーションの質と量」の重要性を痛感。自身の経験に基づいた組織作りやコミュニケーションの企業研修、講演に従事している。
2017年よりサイボウズにて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事の在り方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、ワーケーションをはじめ、地域活性化の事業開発にも携わる。
元は技術肌のプログラマー。ギスギスした人間関係の職場でストレスを抱え、心身共に疲弊。そのような中、管理職を任され「楽しく仕事ができるチームを創りたい!」と、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。ITと人の心理に詳しいという異色の経歴を持つ。
著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。
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