「締切厳守」と「割り切り」の気になる関係:経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」(4)(2/2 ページ)
締め切り前日の80点と、締め切り翌日の100点。上司に評価されるのはどちらだろうか?
ある有能な若者の話
かつて、ある会社に勤めていた時に、筆者の部下に、大変有能な若者がいた。彼に仕事のテーマを投げ掛けると、要求を120点くらい満たす構想を述べて、締め切りまでが1カ月なら1週間後には85点くらいの「試作品」(データを処理する作業が多かった)を作って持って来るのだ。
ところが彼には難点もあった。いつまでたっても自分の仕事を完成と定められないのだ。放っておくと、期限を何日も越えても「完成品」が一向に納入されないのだ。
率直に言って、この部下にはかなり戸惑った。そこで筆者は、試作品の段階でアウトプットを引き取り、それでいいと割り切るか、自分で手を加えるか、誰かに必要な改善を指示することにした。この若者の仕事上の貢献は大変大きいので、人事評価はもちろん高いポイントを付けた。
しかし、もし彼が、「完成品」を待つ上司の下で働いていたら、十分な評価を受けられなかった公算が大きい。
決して筆者が有能なマネージャーだったから、彼をうまく使えたわけではない。筆者は、たまたまこの若者に対して好感を持ったので、彼をこのように使えただけだ。人事の巡り合わせによっては、彼は「使えない人物」というレッテルを貼られていた可能性がある。
制約があるからこそ
ところで、仕事の「完成度」をどう評価するか、というのは本人にとっても、評価する側にとっても、難しい問題だ。
仕事を高いレベルで完成させるためには、時間が必要だし、予算も必要だ。完成度にこだわるなら、どちらも無限にたくさん必要だともいえる。
例えば、世界の映画史に残る日本人映画監督である故・黒沢明氏は、映像において妥協しないことで有名だった。望む効果を得るために、光や風が気に入らなければ何日も撮影を中止して天気の変化を待ったという。俳優やスタッフも全て待たされた。1回の炎上シーンのために、多額のコストを掛けてお城のセットを組み上げるような撮影をしばしば行った。
しかし、黒沢監督といえども、生涯に数十本の映画を発表している。察するに、全ての作品に「完全だ」と満足して世に送り出したわけではなかったのではないか。完全主義で名高かった黒沢監督がどこかで妥協したからこそ、多くの作品が世に出たはずである。
現実の仕事にあっては、時間の制約があるし、予算の制約もある。しかし、その中で顧客に価値を認めてもらえるような何かを提供することが必要なのであり、それこそがプロフェッショナルである、ということの中味だろう。
仕事をする場合には、常に締め切りを意識しなければならない。そして、締め切りの設定によって、仕事の内容を変えなければならない場合もある。ケースによって、締め切りと、仕事の内用と、変えやすいのはどちらかを、常に考えてバランスを取らなければならない。
プロフェッショナリズムは、「締め切りの厳守」と、「それでも他人に差を付けるスキル」と、「結果に対する割り切り」の3つによって成り立っている。
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筆者プロフィール
山崎 元
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役、獨協大学経済学部特任教授。
2014年4月より、株式会社VSNのエンジニア採用Webサイトで『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を連載中。
※この連載はWebサイト『経済評論家・山崎元の「エンジニアの生きる道」』を、筆者、およびサイト運営会社の許可の下、転載するものです。
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