エンジニアがエンジニアとして生き残るためには、ビジネス的な観点が必要だ。ビジネスのプロである経済評論家の山崎元さんがエンジニアに必要な考え方をアドバイスする本連載。今回は意思決定に役立つ二つの経済学概念を紹介する。
エンジニアが社会で生き抜くための考え方やノウハウを伝授する本連載。今回は意思決定時に役立つ「機会コスト」と「サンクコスト」の概念を、実例を交えて紹介する。
何事によらず意思決定は難しい。しかし、人生は意思決定の連続だ。
エンジニアは合理的だと一般には思われているが、物事を考える際に「こだわり」を持ちやすくもある。普通の人よりも正しい意思決定ができるかと問われると、筆者は素直にうなずけない。
今回は、意思決定を正しく行うための二つの「コスト」概念を紹介する。経済学の世界でしばしば取り上げられるこれらのコスト概念を、現実の意思決定で上手に使うと、端的に言って「得」をする。ぜひマスターして使いこなしていただきたい。
第一の概念は「機会コスト」だ。機会コストとは「ある選択肢を採用したときに、他の選択肢を採用しなかったことによって失われる潜在的利益のうち、最大のもの」のことだ。
例えば、ある大学生が、家庭教師のアルバイトをすると日給5000円稼げる日に、1500円出して映画を見に行くとしよう。映画を見るための費用は、直接支払う1500円の他に、アルバイトで稼げるはずの5000円を加えた6500円として計算しなければならない。
ただし、彼/彼女が家庭教師のアルバイトに苦痛を感じているのなら、5000円からその苦痛の代金を差し引いたものが「潜在的利益」となる。授業が2時間で、1時間当たり1000円相当の苦痛を感じるという場合、映画を見る実質的な総費用は、直接払う1500円と獲得を諦める潜在的利益3000円を足した4500円ということになる。
なかなかの金額になるので、家庭教師の予定がない日に映画を見に行く人が多いだろうが、1日だけ上映されている作品のようなケースでは、「4500円払ってでも見たい」とシアターに駆け付ける映画ファンがいてもおかしくはない。
では、次の問題はどうだろうか。
あなたはAKB48のコンサートチケットを、転売はできないという条件付きでタダで入手した。同日同時刻にEXILEのコンサートもあり、チケットは4000円だ。あなたは、EXILEのコンサートなら5000円まで払ってもいいと考えている。あなたがAKB48のコンサートに行く場合の機会コストはいくらか?
(1)0円/(2)1000円/(3)4000円/(4)5000円
※この問題は、ロバート・H・フランクの「日常生活を経済学で考える」でエリック・クラプトンとボブ・ディランの設例で出題されていた問題をアレンジしたものだ
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