データベースから「データ」へ データベースウォッチャーが振り返る2016年、2017年に注目すべき技術:Database Watch(2016年総集編)(4/4 ページ)
データベースの最新事情を追う連載「Database Watch」から、2016年の動向を振り返りながら、技術者に向けた「2017年にチェックしておくべきトレンド」を先読みします。
商用データベースベンダーはそれぞれ独自の大テーマを掲げ、クラウドファーストで進む
最後に商用RDBを振り返ります。2016年は商用RDBでも新バージョンの発表が続きました。しかし、ベンダー各社それぞれにビジネス躍進を目的とした大きなテーマを掲げていたことから、製品単体の機能面においては話題にしにくかった印象があります。ここからも、ITに求められる役割が既に急速に変革していることがうかがえるといえます。
米オラクルは、2016年9月に主力データベース製品の「Oracle Database 12c R2」を発表しました。特にクラウド利用時の大幅な機能強化や、クラウドベースで展開する「DBaaS(Database as a Service)」としてのプッシュが目立ちました。この機能強化からも分かるように、オラクルが今、最も力を入れているのは「Oracle Cloud」です。2017年9月に開催された同社の年次イベント「Oracle OpenWorld」では、「Amazon Web Service(AWS)」がライバルとして名指しされました。
オラクル創業者であり、現CTO(最高技術責任者)であるラリー・エリソン氏が、Oracle OpenWorldなどで、どこかの企業をライバル視するのを見たときは、筆者は決闘を挑むかのような熱さを感じて思わずぎょっとしたものです。もちろん嫌悪した敵意ではなく、彼なりの敬意の表し方なのでしょう。オラクルは2016年までにビジネスとして成長しつつあるSaaS(Software as a Service)に続き、PaaS(Platform as a Service)、そして満を持してIaaS(Infrastructure as a Service)分野とクラウド全方位で注力する意向を示しています。この方向に同調するようにOracle Databaseは進化していくことになりそうです。
2016年の注目記事
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- 松岡功の「ITニュースの真相、キーワードの裏側」:オラクルは、なぜ「Oracle Cloud Machine」を投入したのか
米マイクロソフトは、2016年6月に「Microsoft SQL Server 2016(以下、SQL Server 2016)」をリリースしました。2016年4月版『「SQL Server 2016」に搭載される新たなセキュリティ対策を追う』では、SQL Server 2016のインメモリ化による性能強化、セキュリティ対策、高度な分析機能を取り上げました。
なお、SQL Server 2016はもう次期バージョンとなる「SQL Server v.NEXT」が2016年11月からパブリックプレビューとして公開されています。これは「R2」などのマイナーバージョンではなくメジャーバージョン扱いのようで、2017年中には一般提供される見込みです。
マイクロソフトの3代目CEOにサティア・ナデラ氏が就任してから、過去に固執せずに、マルチプラットフォーム対応やオープンソースコミュニティーに歩み寄り、協調していく姿勢が実を結んできていることが背景にあります。2016年11月には、ついにLinux上で動く「SQL Server on Linux」のパブリックプレビュー版もリリースされました。
さて、Linux版の開発はかなり苦労するのでは? と思えるかもしれませんが、実はそうでもないようです。SQL Serverには、OSとSQL Serverのストレージエンジンの間に「SQL OS」と呼ばれる層(abstraction layer)があります。基本的にはこの部分をLinuxに対応させることで「SQL Server on Linux」は実現するとされています。SQL ServerはSQL OSがあるおかげで、OSにあまり依存しない仕組みになっています。なお、このSQL OSの実体は2つのDLL(ダイナミックリンクライブラリ)で、とてもコンパクトにできているそうです。
2016年の注目記事
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- 「SQL Server 2016」に搭載される新たなセキュリティ対策を追う
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- マイクロソフト、Linux版「SQL Server」を2017年半ばにリリースへ
- マイクロソフト、「SQL Server 2016」正式版を2016年6月1日リリース
- 「Oracle Database」から「SQL Server」へ、マイクロソフトが無料乗り換えプログラム
- マイクロソフト、Azure SQL Databaseの新機能「Performance Dashboard」「Database Advisor」を披露
IBMは、マイクロソフトとほぼ時と同じくして、2016年6月にインメモリ関連機能やセキュリティ機能を強化した「IBM DB2 11.1」をリリースしました。同社が見据えているのは、最近はテレビCMや鉄道広告などマス広告でもよく目にするようなった「ワトソン」を中心としたコグニティブ技術と、それを活用した将来の社会システムの実現です。
具体的には、技術だけではなく、技術とデータをトータルに提供する「Open for Data戦略」を基に、膨大なデータを読み込み、独自にモデル化して分析し、自然言語を理解するという強みを生かし、各方面での実用化を進めています。例えば最近では、膨大な医療文献を読み込んで解析することで、がん治療に役立てるといった医療分野での成果も報告されています。ワトソンが時代の変化を早めていきそうで、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を踏まえたこの分野の技術者の需要は急増すると言われています。
2016年の注目記事
- データベースから「データ」に目を向け始めたIBM
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- IBM、Watson技術を使うデータ分析プラットフォーム「Watson Data Platform」を発表
- IBM、「Watson」ベースのデータ統合/分析プラットフォーム「Project DataWorks」を発表
- マイクロソフト、Azure SQL Databaseの新機能「Performance Dashboard」「Database Advisor」を披露
SAPは2016年12月にインメモリデータベースの次期版となる「SAP HANA 2」リリースしました。SAP HANA 2はデジタルトランスフォーメーションと呼ばれる、次世代型のアプリケーションプラットフォームを想定しています。一方これまでのSAP HANAはSPS12で進化を止め、新機能は「SAP HANA 2」に盛り込んでいきます。
2016年の注目記事
- SAPジャパン、インメモリDBの最新版「SAP HANA SPS12」を発表
- SAP、インメモリデータプラットフォームの最新版「SAP HANA 2」をリリース
- 日立、「SAP HANA」のマネージドクラウドサービスを開始
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- SAP、クラウド対応の次世代DWHアプリケーション「SAP BW/4HANA」を発表
- SAP HANA on vSphereの運用性能を検証、ベストプラクティスを“確立”
- GEデジタルとSAP、産業IoT(IIoT)分野で提携
2017年、「データ」をめぐるシステムやビジネスはどう展開していくでしょうか。
2016年「Database Expert」フォーラム Facebookシェア数トップ20
2016年「Database Expertフォーラム」の総合ランキングは以下の通りです。Database Watchでのランキングと同様に、Facebookシェア+コメント数のランキングを集計しました。
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