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■社会、経済
 
インフォコモンズ
●佐々木 俊尚=著
●講談社 2008年7月
●1300円+税 978-4-06-282092-9
「経験知」を伝える技術
 ショッピングサイト・アマゾンでは、「自分と同じ考えを持つ人たち」の痕跡を見いだすことができる。多くの日本人が社会と自分の間に作っていた従来型の中間共同体(マジックミドル)というクッションと違った、新たな共同体の萌芽といえる。本書では、その情報を軸とした新たな中間共同体「情報共有圏」(インフォコモンズ)のありさまを考察する。
情報アクセスをもっと簡単に、個々のユーザーにとって的確に行える方法を模索する中で、新しい構造が生まれようとしている。それは、人がどのような枠組みで情報を収集するのかという「文脈」(コンテクスト)を特定していく考え方で、「情報共有圏」と呼ぶ。なぜ文脈を共有圏という考え方でとらえることができるかといえば、それは人が情報を収集するときに「知識と教養のバックグラウンド」(=エリア)を持っているからだ。
情報共有圏は、利用者の背景や属性、行動履歴などをベースに生成されるものだけに、「プライバシーをシステムに収奪されている」という不安は、情報共有圏に立ちはだかる最大の障壁となる。それを解決するためには、情報が利用者の下に再集約されることと、同じ情報共有圏をともにする他人に対し信頼だけでなく「友情」(フレンドシップ)を導き出せるようになることの2点が必要で、情報共有圏の成り立ちそのものを徹底的に可視化することで実現可能だ、と説く。
近年ネット上をにぎわしていた事件を取り上げながら、「Web 3.0」というような今後のネットの在り方を解説する本書。未来を予測する軽い読み物であり、情報共有圏を精緻に理論化したり、具体的対策を論じたものではないので注意したい。(ライター・生井俊)
 
クリエイティブ・クラスの世紀──新時代の国、都市、人材の条件
●リチャード・フロリダ=著/井口 典夫=訳
●ダイヤモンド社 2007年4月
●2400円+税 978-4-478-00076-2
 世界経済の重要な要素が、商品やサービスまたは資金の流れではなく、いまや人材の獲得競争になってきた。そのことで、若い国アメリカは過去100年でおそらく最大の競争に直面している──。本書はアメリカおよび世界における、グローバルな才能獲得競争とそれがもたらす課題についてまとめる。
 この数十年の経済と社会における一連の段階的な変化は、基本的に新しい働き方や生き方を生み出してきた。これからはクリエイティビティの台頭が私たちの経済を動かし、私たちを前進させる要因となるクリエイティブな時代になる。それは技術や情報ではなく、人間のクリエイティビティをいう。つまり、革新は見えざる手のなせる技ではなく、偉大な進歩は常にアイデアから飛び出してきたように、まさに人間が生み出すものだ。
 クリエイティブ時代に成功し繁栄するために、世界中のあらゆる国と地域は人間に投資し、クリエイティブ資本を蓄積し、開放的で寛容な社会を保ち、工業化社会からクリエイティブ社会へと移行しなければならない。その中で、大学を才能と寛容性を育て引き寄せる磁石にすること、クリエイティブ時代に合わせた教育をすること、都市と競争力との関係を理解することなどを課題として挙げる。
 特にアメリカの、真に開放的で経済的に安全な社会の構築することを目指して書かれた本書。これからのクリエイティビティが持つインパクトの大きさと、その時代を担う人材育成について世界情勢やさまざまなエピソードを交えながら、分りやすく解説している点が好印象。(ライター・生井俊)
 
転ばぬ先の経済学
●デイヴィッド・R・ヘンダーソン、チャールズ・L・フーパー=著/高橋 由紀子=訳
●オープンナレッジ 2006年11月
●1800円+税 4-902444-42-9
 ITプロジェクトに限らず、ビジネスは意志決定の連続である。ビジネスだけではない。人生では小さな判断から大きな決断まで、さまざまな決断に満ちている。本書は邦題には「経済学」とあるが、“明確な思考に基づく意志決定”に関するものである。
 具体的なエピソード(ほとんど失敗談!)を中心に、ものごとを“考える”ときにどのようなアプローチであるべきかを紹介している。登場する失敗談はどれも「そんなバカなことがあるか」といいたくなるようなものばかりだが、実話ばかりだ(日本の東海村JCO臨界事故も登場する)。「バカな」と思う前に、それが起こり得ることであり、その原因──多くは思い込みや思い違い、そして何も考えていなかった!──を知ることが肝要だろう。
 読むうえで、経済学や意志決定理論に関する専門知識は不要。「ディシジョンツリー」「機会コスト」「サンクコスト」など専門用語も出てくるが、それがどんなものであるかを1から説明してあるので、それらに詳しくない方々にこそお勧めである。
 
フラット化する世界──経済の大転換と人間の未来(上)(下)
●トーマス・フリードマン=著/伏見 威蕃=訳
●日本経済新聞社 2006年5月
●1900円+税(上下巻とも) (上)4-532-31279-5/(下)4-532-31280-9
上巻

下巻
 筆者はインドで最も優秀なエンジニアの口から、地球は平らだという意味の言葉を聞かされたことで、いま世界で世界で起きている事柄を解明する枠組みを見つけた。その世界がフラット化した要因を上巻で、フラット化した世界とどう向き合うのかを下巻で紹介する。
 世界は、ベルリンの壁の崩壊やインターネットの普及、オフショアリング、サプライチェーンなど10の要素の集束によってフラット化されたという。ベルリンの壁崩壊により、世界の力の均衡は、民主主義とコンセンサスを大切にする自由市場指向の統治へと大きく傾いた。また、ネットスケープの登場で、5歳の幼児から95歳のお年寄りまで誰でもインターネットにアクセスできるようなったことが引き金となり、あらゆるもののデジタル化が求められ、そして全世界がつながった。(上巻)
 フラットな世界で個人として成功するには、自分を「無敵の民」にする方策を見つけなければならない。無敵の民とは、自分の仕事がアウトソーシング、デジタル化、オートメーション化されることのない人を意味する。この無敵の民は「かけがえのない、もしくは特化した」人々、「地元に密着」して「錨を下ろしている」人々、そして新ミドルクラスの人々の3つに大別される。これからは、新ミドルクラスの仕事をこなすための教育が重要となり、どんなことにも熱意と好奇心を持つことで、現在も将来も大きな強みとなると説く。(下巻)
 上下巻を通して読むべきだが、各章ごとの読み切りとしても楽しめる。これからの世界で何をしていくべきか迷っている方なら特に下巻をオススメしたい。(ライター・生井俊)

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