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■IT戦略、ITマネジメント
 
クラウドの衝撃――IT史上最大の創造的破壊が始まった
●城田 真琴=著
●東洋経済新報社 2009年2月
●1500円+税 978-4-492-58082-0
拡張性に優れ、抽象化された巨大なITリソースを、インターネットを通じてサービスとして提供(利用)するコンピュータの形態「クラウド・コンピューティング」。これは、2006年に米グーグルCEOのエリック・シュミット氏が提唱した概念で、2008年のIT業界最大のバズワード(はやり言葉)となった。本書では、この「クラウド」が切り開く新しい世界を解説する。
クラウドについて、「雲の向こうから圧倒的なスケールのコンピューティング・パワーを提供する」という説明を聞くと、どれほど巨大なコンピュータを使っているのかと疑問に思うかもしれないが、能力的には家庭用のPCと大差がないような汎用的なコンピュータなのだという。コンピュータ個々の障害発生は当然と受け止められ、運用管理ソフトウェアでシステム全体の迅速なエラー検出、障害の自動復旧機能などの仕組みを備えることで、高い信頼性を実現している。こうして高信頼・低コストの環境を提供しているのだ。
この変化により、新たなコンピューティングの担い手は、ハードメーカーからネット企業へシフトしてきている。クラウドを代表する企業は、グーグル、アマゾン、セールスフォース・ドットコムだ。グーグルやアマゾンが切り開いた一般消費者向けサービスをヒントに、企業向け業務アプリケーションを「サービス」として提供することを思いついたセールスフォースが急成長を遂げた。同社はこれまでの「SaaS」から、これからの10年はプラットフォームや開発環境全般に拡張させた「PaaS」に注力していく姿勢を明確にしている、という。
クラウド・コンピューティング全般の説明から、グーグル、アマゾンなどのリーディングカンパニーの分析、これからの時代に合わせたIT戦略などをまとめており、IT業界の大きな流れをつかむことができそうだ。(ライター・生井俊)
 
Web2.0ストラテジー ――ウェブがビジネスにもたらす意味
●エミー・シュエン=著/上原 裕美子=訳
●オライリー・ジャパン 2008年11月
●2000円+税 978-4-87311-350-0
Web 2.0という言葉は、Googleマップやマッシュアップ、Ajaxの登場と重なる絶妙なタイミングで登場し、高い関心を集めた。そのWeb 2.0とは突き詰めれば、ネットワーク効果とユーザーの集合的知性を生かし、ユーザーが増加するにつれて進歩するアプリケーションを構築することだ。本書は、プラットフォームとしてのWebがビジネスにもたらす意味を具体的なサービスを挙げて解説する。
現在の「Flicker」は、Web 2.0の申し子といえる。シンプルに写真が並んだ画面を入り口として、ユーザーは気軽に写真を共有できるほか、好きなように手を加えるための多様な機能を持ち、写真を地図と結び付けるツールや多彩な印刷オプションなどもある。楽しげで使い安いWebインターフェイスと、無料の写真管理およびストレージシステムは、Web 2.0の「フリーミアム」ビジネスモデルの素晴らしい例で、集合的ユーザー価値と正のネットワーク効果、そしてコミュニティシェアリングを活用すべく調整されている。
また、YouTube、Skype、Flickerなどを見ると、Web 2.0型企業のビジネスや財務評価はユーザー数に左右される。数だけでなく、ユーザーによる新しいオンラインサービスの受け入れ、採用(導入)、そして正のネットワークをもたらすスピードも影響する。社会ネットワークと、それに対する広告プラットフォームでは、こうしたユーザが、広告および「n面的市場」のスポンサーシップを通じて即座に貨幣価値となる。しかも、Web解析によりクリックストリーム、ユーザーごとの平均収益(ARUP)、個々の顧客の収益性、広告投資回収率(ROI)が追跡可能だ、と説明する。
企業コンピタンスやノウハウ、プロセスも、デジタル形式に埋め込み取りまとめることができるという。本書は、そうした貴重なサービスを低コストで「配信」も「利用」もできる時代になったことを再認識し、コンピタンスシンジケーションを有効活用する参考になる。(ライター・生井俊)
 
強いIT戦略――攻めの経営に向けたIT活用の新機軸
●アクセンチュア テクノロジーコンサルティング=著
●東洋経済新報社 2008年12月
●2200円+税 978-4-492-55626-9
現在、ITは技術面・活用環境面ともに大きな変化の潮目にある。それだけに、IT戦略について、新たな方向性の構築に向けて、経営トップとCIO/IT部門が理解を共有すべきタイミングといえる。本書では、対話のベースとして「5つのI」(Innovation、Information、Integration、Infrastructure、Industrialization)をテーマに掲げ、両者の共通理解と青写真作りのフレームワークを詳述する。
「攻めの経営」の再構築に際して有効な武器になるのは、まさにITだ。IT部門と経営トップ、業務部門が共通認識を持ち、IT活用を加速させるためには、IT投資と経営目標(課題)との整合性を確保したITグランドデザインの策定が必要となる。その過程において、3者間で活発な意見交流の機会を持つ「対話の積み重ね」が重要で、ここに投入されるエネルギーの差がITの評価に関する差につながる。
ITによる経営への貢献をより高めるためには、ITからのアプローチを強化することも重要だ。そのために、IT部門の姿勢を受け身から変革の推進者へと変えなくてはならない。同時に、IT部門はテクノロジの目利きのセンスを磨くことが求められる。ITからのアプローチが強化されれば、IT部門と経営、業務部門それぞれが変革の推進者となり、相互の対話の中で経営からの要請とITの可能性が一致したとき、飛躍的な生産性の向上をもたらすイノベーションを実現できる、と説く。
ほかにSOAの本質やその効果など、ハイスピード・ローコストのインテグレーションについても言及する。フレームワークだけでなく、ITトレンドも学べる1冊。(ライター・生井俊)
 
IT一番戦略の実践と理論
●長島 淳治=著/日経ソリューションビジネス=編
●日経BP社 2008年9月
●1500円+税 978-4-8222-1580-4
B to Bのマーケットで、ユーザーの要求を基にシステム開発を行う中堅・中小SIerとソフト会社には、「明日が見えない」と嘆く経営者がいる一方で、好業績を挙げている企業もある。多くの技術者を抱えることがマーケットに対して優位性を確保する時代から、時流に応じた新たな戦略の構築が必要な時代になってきた。本書はそのノウハウを紹介しながら、自社の力で一番になれるマーケットの見つけ方をまとめる。
自社の力相応で一番マーケットを構築する方法としては、「時流適応型一番マーケット構築法」を使う。これは、時流に適応するために、時流を把握しながら「Area」「Strong Point」「Structure」「Marketing」「Sales」の5要素を分析し、一番になれるマーケットを決定するもの。「一番」とは具体的に「相対シェア」といわれる42%、もしくは「トップシェア」といわれる26%のシェア獲得を目指すことだ。
「強み」というと、「他社との差異化」を考えることが多いが、純粋に「自社の強い部分」であり、現時点での業務内容にある「かたより」を意味する。競合他社との比較で強みを考えることなく、強みは受け取る相手に最適化されている必要がある。強みを発見するためには「なぜ?」と繰り返し問うことで、3つくらいに集約することができると説く。
文章化による強みの検証やそれを維持するための仕組み、そしてマーケティングやセールスにより現場を動かす手法にも言及する。IT業界に限らず、マーケティングが苦手なビジネスパーソン全般に適用できる内容だ。(ライター・生井俊)
 
ITリスクの考え方
●佐々木 良一=著
●岩波書店 2008年8月
●740円+税 978-4-00-431147-8
 ITが、電気・ガス・水道などと同様に社会を支える“インフラ”になった現在、ITリスクへの対応の重要度が高まっている。このリスクは、意図的な不正とヒューマンエラーのような偶発的な障害を対象とし、セキュリティやプライバシー、信頼性リスクなど安全性に関する種々のリスクを含む。本書ではそのITリスクに適切に対応できるよう、「ITリスク学」のあるべき姿を提示する。
ITリスクとは、インターネットを含めた「ITシステムに直接関連するリスク」のこと。ほかのリスク分野と共通している特徴としては「ゼロリスクはない」「定量的リスク評価が必要」「多くの関与者とのリスクコミュニケーションが大切」の3点があるという。ITリスク対応には1つの対策だけでは困難で、いろいろな組合せが不可欠だ。
今後増大が予想されるITリスク問題に対して、いろいろなアプローチ方法を体系化し、「ITリスク学」を確立、解決していくことが期待されている。ITリスク学の構成例として、「情報工学・ソフトウェア工学」「情報セキュリティ技術」「信頼性工学・安全性工学」「心理学・社会学・経済学・法学」「リスク学」「安全学」の6つの分野が必要だろう、と説く。
ITリスクに適切に対処するためには、ガイドラインやシミュレータのような支援ツールが必要になるが、学問としての全体像や要素技術についてはまだまだ検討レベルの段階。今後、ITリスク学が広がる可能性を感じる新書だ。(ライター・生井俊)
 
CIOの新しい役割
●岩崎 尚子=著
●かんき出版 2008年4月
●1800円+税 978-4-7612-6508-3
 2008年4月のJ-SOX法(金融商品取引法)適用開始により、日本においても数万人のCIO(最高情報責任者)やCIOに相当する職務の設置が必要不可欠になった。本書では、企業の生命線としての情報化や電子政府・電子自治体の推進を担うCIOの重要性と必要性について、理論と実践の両面から解説する。
1980年代の終わりから1990年代の初めにかけてのCIOの役割は戦術的であり、純粋な技術的スキルが重視されていた。その後、技術的スキルからビジネス戦略の重視へ進化し、IT戦略や業務革新などがCIOの任務課題になっている。また、CIOは大規模なシステム開発のためのコミュニケーション強化やリーダーシップの発揮が求められ、最近では「ITガバナンスの発揮」と「イノベーション」がキーワードになってきている。
日本のネットワークインフラは世界最先端レベルにあるが、その一方で国際競争力の低下が懸念されている。競争力強化のためにも、ITの専門的知識や技術のみならず、政治・政策、経済、経営などの多領域にわたる「CIO学」の確立が急がれる。それを通じて、CIOをはじめとする高度ICT人材を育成し、外部資源を有効活用したオープン・イノベーションを推進することが重要だ、と説く。
ほかに、トヨタ自動車、東京証券取引所、損保ジャパンなど先端企業7社のCIOへのインタビューや、CIOに必要なコア・コンピタンスが分かるチェックシートを掲載している。(ライター・生井俊)
 
CIOのITマネジメント
●NTTデータ経営研究所=編
●NTT出版 2007年12月
●2200円+税 978-4-7571-2209-3
 情報システムの重要性が高まるにつれて、経営とシンクロしたIT戦略を立案するCIOは憧れをもって語られることが増えてきた。だがその一方、より短時間でのシステム開発・仕様変更に対応しつつ、QCD(クオリティ・コスト・デリバリ)にも高いレベルで配慮しなけれぱならないなど、CIOへの要求は年々高度化している。CIOはいま、「受難の時代」を迎えているのかもしれない――。
 本書はこうした問題意識に基づいてCIOの機能・役割を整理し、「効果創出」「効率的投資」「リスク軽減」という3つの観点から、ITマネジメント成功のポイントを詳述している。
 投資評価手法やITコスト最適化へのアプローチ方法といった日常的な問題から、Web 2.0の概念、日本版SOX法におけるIT統制強化といった今日的なテーマまで、事例やデータを用いて具体的に解説。情報システムを円滑に開発・運用するための基盤づくりとして、プロジェクトマネジメントの手法についても説いている。
 巻末の「IT投資の成功要因」アンケート調査報告によれば、成功の根本的なポイントは「(社内すべての)利害関係者と合意の取れたIT戦略の策定」にあるという。現在CIOの人、今後その任に就く人、CIOを任命する立場にある人は、CIOという仕事を改めて理解するところから始めてみてはいかがだろうか。(内野宏信)
 
CIO学――IT経営戦略の未来
●須藤 修、小尾 敏夫、工藤 裕子、後藤 玲子=編
●東京大学出版会 2007年11月
●2800円+税 978-4-13-040236-1
CIO学――IT経営戦略の未来
 経営とICTとを切り離して考えることができた時代は、過去のものになっている。CIOとは、経営戦略とICT戦略との橋渡しを行い、企業のICT戦略を統括する役割を担う人間だ。そのポジションには経営能力と専門的なICT技能の双方を併せ持つ人材が就くことが期待されている。本書ではそのようなCIOに関する包括的な知見を示している。
 CIOを含めた高度ICT人材の需要は、日本版SOX法の施行などによって今後飛躍的に増大するとし、その中でCIOは、無形資産である情報を「見える化」し、情報戦略を柱としながら、電子政府、戦略調達、情報セキュリティ、予算立案、広報、業務革新、ITマネジメント、IT戦略、知的財産・コンプライアンスなどの多様な役割を担うスペシャリスト兼ゼネラリストとしての要素が求められていると指摘する。
 IT戦略投資が経営成果に結び付いているか――それがCIOが最も関心を持っている事柄の1つだ。IT投資と経営成果の関係について、MIT スローンスクール教授のブリニョルフソンは、資本や労働力よりも、データベースの普及、新規ビジネスプロセスの実装、高度な技術を持つ社員の獲得、組織変革の重要性を指摘しているという。IT投資を経営成果に結びつけている組織をデジタル組織と名付け、7つの原則を提案している。このような組織特有の入出力に関係するシステムについて詳述する。
 CIOの役割と機能だけでなく、そのバリエーションや情報セキュリティ、ICTを用いた行政革新など幅広い分野の「CIO像」を描き出している。(ライター・生井俊)
 
アマゾンのロングテールは、二度笑う──「50年勝ち残る会社」をつくる8つの戦略
●鈴木 貴博=著
●講談社 2006年10月
●1600円+税 4-06-282031-5
 「会社の寿命は30年」といわれるが、自社が戦うのに都合のよい市場を選ぶ「戦略力」により、50年たっても勝ち残る企業であり続けることができる。本書では、ロングテールをはじめとする経営戦略を、大企業の成功・失敗例から解説する。
 第1章では、イトーヨーカドーの凋落から、同社のビジネスとそれを取り巻く環境について説明する。イトーヨーカドーには数々の「優秀な仕組み」とグループ内の「優良企業」が存在するが、それでもGMS(大型量販店)という本業のライフサイクルが終盤に差し掛かっている。著者は、このような衰退事業をコア事業に定めたまま、工夫を重ねて難局を乗り切ろうとする安易な戦略に警鐘を鳴らす。
 第7章では、タイトルにもなっているアマゾンのロングテールを扱う。Web 1.0時代にひとり勝ちしたインターネット企業のアマゾンが、Web 2.0の時代になり、ロングテールの威力を発見したことで、再び大笑いすることになったと説く。それがなかった時代に比べ2倍のROAを叩き出しているが、実は売り上げの3分の1は無在庫販売が生み出すもので、利益があがるのは当然だという。
 戦略を学術的に解説するのではなく、これまでのビジネスで成功・失敗した企業の分析を通じ、戦略が持つ意味合いを学ぶ1冊になっている。(ライター・生井俊)
 
日本の情報システムリーダー50人──ビジネス戦略とIT活用の実例
●小尾 敏夫=監修
●ソフトバンク クリエイティブ 2006年4月
●2000円+税 4-7973-3486-X
 近年、情報システムリーダー(CIO)の役割が脚光を浴びている。それは、ITが企業活動に定着した証しでもある。経営戦略とIT投資との橋渡しをする情報システムリーダー約50人を取材し、ノウハウを中心に構成したのが本書だ。
 冒頭、情報時代のリーダーの条件として、改革/変革を恐れずに常に挑戦し続けることはもちろん、説明能力に長け自己表現力が豊かであること、部下や人材を育てる手法をしっていることなど10の特質を挙げる。そして、役割としては投資分野や予算管理、リスクマネジメント、コンプライアンスなどあらゆる分野に通じ、組織全体を俯瞰する目と能力が必要だと指摘する。
 それを受け、各章ではそれぞれ個性豊かな情報システムリーダーが登場する。「業務改革とシステム革新を同時にやらなくてはいけない」(元セブン-イレブン・ジャパンCIOの碓井誠氏)、「企業が成長する上では、情報共有や社内ポータルによって、社内の情報格差をなくすのが大切」(ぐるなびの吉本匡祐氏)、「(現場の意識としては)ROIを維持しつつ、売り上げを伸ばして、サービスも向上させるというバランスは絶対に求められている」(カブドットコム証券の阿部吉伸氏)など、技術一辺倒ではなく、タイミングやバランス感覚を重視するコメントが並ぶ。
 そのほか、「医療の質」を説く黒部市民病院の今田光一氏や「(ITは)人間にとってなかった方が良かった」と話すイーディーコントライブの松田誠司氏など、興味深い発言が多い。CIOや情シス部門の担当者だけでなく、幅広い層が参考にできる事例集である。(ライター・生井俊)
 
ITガバナンスの構造──SOX法とCSRが変える企業システム
●湯浦 克彦=著
●エスアイビー・アクセス 2006年3月
●3200円+税 4-434-07557-8
 有効なビジネスを実施するためには、企業としての信頼が前提条件となる。その企業の骨格と血脈を形成し、経営と業務の継続的発展をもたらし、企業の信頼を守る基盤となるのがITだ。本書はITを使いこなすための枠組みと、IT価値を発揮するための構造設計についてまとめる。
 財務諸表の科目の値は、会計に関係するITシステムのデータから集約される。そこで、財務報告の信頼性を確保するには、データの信頼性を保証しなければならない。このようなことを体系的に検証していくためには、ITシステムにも内部統制と同様の枠組みが必要になる。また、IT統制を実施、評価または監査する人材には、経営や財務に関する知識に加えてITシステムに関する基本的理解が必要になる(第2章)。
 経営・ビジネスとITが連携してこそ、ITは価値あるものとして企業の本質的な部分を担うことができる。この連係構造は、「経営環境情報」「戦略」「アーキテクチャ」など11の要素によって組み立てる。ここでの要素とは、ITの世界でいう「オブジェクト」や「コンポーネント」の概念に近い。そして、それぞれ企業における固有の部門によって担当されるのではなく、1つの部門が複数の要素をほかの部門と協業して担当することになる(第4章)。
 企業やITを取り巻く状況を述べた前半部は主に経営層、マネージャ向けの内容で、参照モデルや構造設計を扱った後半部は特にIT技術者や情シス部門担当者にとって参考になりそうだ。(ライター・生井俊)
 
次世代CIO──最高情報責任者の成功戦略
●カール・D・シューバート=著/渡部 洋子=監訳
●日経BPソフトプレス 2006年3月
●2980円+税 4-89100-497-5
 IT専門職のリーダーであるCIOの状況は発展途上にあるが、ITの成熟度レベルに関係なく、さまざまな組織でCIOにかかる期待の範囲が10年前より大きくなっている。その中で、技術者であるよりも、ビジネスリーダーであることを期待されている。そのCIOの役割と、成功するための必要なものをまとめたのが本書だ。
 仕事そのものの性質から、CIOは「イネーブラ(enabler:現実者)」として機能する。イネーブラの成功とは、ITサービスを提供する人々はもちろん、そのITサービスを利用する組織中のユーザーが成功することを意味する。ITサービスの提供者とユーザーは互いに依存関係にあり、その関係を有効に「イネーブル(実現)する」のがCIOとなる(第2章)。
 CIOとIT部門は、企業全体の意志決定をイネーブルする存在で、ITは、知識経済の価値創造の領域で使う貨幣のような存在だ。ビジネスの言葉を話すことができるCIOは、ITリソースの管理者として人や知的資本も管理しながら、企業内の人々がすべてのステークホルダーのために価値を創造できるようにイネーブルする。また、CIOは社内顧客と社外顧客という2種類の顧客と共に働く、他に類がないポジションになっている、という(第4章)。
 ほかに、第6章でCIOが単独で下すべきでない決定として、「リースvs購入」「独自仕様vsオープンシステム」「コストセンターvsプロフィットセンターvsバリューセンター」などを取り上げる。CIOの歴史から現在の状況を知り、そして将来的な役割を見据えたいCIO、CIO予備軍向け。(ライター・生井俊)
 
勝者のシステム 敗者のシステム──こうすればできるIT投資の適正化
●坂口 英弘=著
●ソフトバンク クリエイティブ 2006年2月
●2200円+税 4-7973-3457-6
 ITを積極的に活用し大きく業績を伸ばす企業がある一方で、多額のITコストを使いながらメリットが獲得できない企業、トラブルに悩まされる企業が増えている。それを分けるポイントが「システム構築のプロセスに対するノウハウの差」にあるという。本書では、システム構築を成功に導くための思考法と、その具体的な技術を紹介する。
 第一部マネジメント編では、なぜシステムは問題を抱えてしまうのか、ユーザー企業とSI企業の問題点を挙げ、ユーザー企業がとるべき改善方法を提示する。また、システムコストが増え続ける理由として、レガシーシステムから脱却できないこと、既存のシステムが複雑すぎて新たな要件定義を整理できないこと、SIベンダの移行見積コストが高額になりあきらめざるを得ないことなどを挙げ、それぞれについてアドバイスをまとめている。
 第二部テクノロジー編では、これからのビジネスニーズ、柔軟性や安定性などのシステム特性、ITコストの最適化の観点から分散システムが最も優れているといい、それを構成するためのポイントを解説する。また、システム設計手法として、オブジェクト指向とサービス指向アーキテクチャ(SOA)の概要と導入について簡単に触れる。
 マネジメントと技術に分かれている点、章の終わりにまとめがある点が好印象。より良いシステム導入を目指す情シス部門の担当者にお薦めしたい。(ライター・生井俊)
 
成功に導くシステム統合の論点──ビジネスシステムと整合した情報システムが成否の鍵を握る
●経営情報学会 システム統合特設研究部会=編
●日科技連出版社 2005年10月
●3500円+税 4-8171-9157-0
 2002年に発生した大手銀行のシステム障害事件。これを契機に、情報システムアーキテクチャとビジネスアーキテクチャとの整合性について、経営情報学会のシステム統合特設研究部会は議論を重ねてきた。本書はその報告書である。
 3部構成の第I部では、システム統合におけるアーキテクチャ概念の重要性を、EA、情報システムアーキテクチャと基盤整備、ビジネスアーキテクチャの観点から論じる。EAにより、企業活動の全体を明らかにし、それをサポートする情報システムを明確にすることができるが、最適化を考える際には最適化すべき目的関数の定義域が明確にならないと意味を失うなど、陥りやすい問題点を指摘する。
 第II部では、ビジネスシステムと整合した情報システムの構築をテーマに、ITガバナンスと都市計画アプローチを取り上げる。都市計画を考える場合と、個別の建築物を設計する場合の相違点は、計画としての全体像のレベル(粒度)にある。企業情報システムと情報システムの間にも、同様の関係が成り立つ。粒度により適応技術・手法などが異なるため、どの粒度でアーキテクチャをとらえるかを明確にすることが必要だと説く。
 第III部では、金融業、製造業のシステム統合事例を紹介する。企業統合や情報システムの再編を考えているトップ、CIO、マネージャ向け。(ライター・生井俊)
 
CIO──IT経営戦略の最高情報統括責任者
●小尾敏夫=監修、早稲田大学大学院CIO・ITコース/電子政府・自治体研究所=編
●電気通信協会 2005年7月
●1900円+税 4-88549-712-4
 IT経営戦略のメイン・プレーヤーである企業・行政におけるCIOの役割や課題、将来展望、国際比較などについて、国内外の専門家の協力でまとめた事例・論文集である。
 早稲田大学大学院教授の小尾敏夫氏は、CIO人材育成について3つの提言を記している。1つ目は、これからのCIOは知的財産権についても関心を払うべきということ。2つ目は、CIOには1〜2年間大学院レベルの実践的な教育を受けさせるなど、人材育成に時間をかけるべきということ。3つ目は、組織変革を効果的に進めるために全社員(受け手側)もITに関する要素を身につけ、レベルアップが必要だと主張する。
 NTTデータ副社長の中村直司氏は、ITケイパビリティについて言及し、5つの視点の中で一番重要なのは「チェンジリーダの開発能力」だと指摘する。企業風土や業務のやり方、部門を統合してマネジメントしていくやり方などを、どれだけ気力、熱意をもって動かせる人を育てるかにかかっているという。
 病院経営を含め各種業界の事例のほか、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのCIOの役割なども参考になるだろう。(ライター・生井俊)
 
最新 図解CIOハンドブック
●野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部=著
●野村総合研究所 2005年9月
●1800円+税 4-88990-117-5
 CIOが理解しておくべきIT経営手法についての実務書で、特にITガバナンス確立に向けた標準的な枠組みや方法論のEAPMBOKITILISMSなどを、分かりやすく解説する。
 ITでビジネスを進化させ続ける企業では、経営者と事業部門とIT部門の三者が一体となり、ビジネスとITを同時並行的に発案し決定していく「三位一体」型の意思決定が求められている。また、IT活用の全体最適化を実現するためには「戦略的」「財務的」「人的」「技術的」の4つの統制が必要だという(第1部)。
 全体最適を図るEA適用に当たっては、自社の業務と情報システムについて、反復的な改善活動(PDCAサイクル)を前述の三者が連携した体制により、繰り返すことが重要だ。実態の検証は、常に、経営戦略や事業計画、IT戦略へフィードバックされ、それが反映されるようにする。CIOは、この連携がしっかりなされるように、三者の連携を常に意識しながらマネジメントを行わなければならないと説く(第2部)。
 ほかに、情報子会社の在り方、ITコストの適正化、ITリスクなどを扱う。1つのテーマに対し見開き、図表付きで説明しておりテンポ良くまとまっている。CIO必携の書。(ライター・生井俊)
 
図解入門 よく分かる最新 エンタープライズ・アーキテクチャの基本と仕組み
●NTTソフトウェア株式会社 EAコンサルティングセンター=著
●秀和システム 2005年8月
●1800円+税 4-7980-1133-9
 全体最適を統一化したルールで可視化、運営していくエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の手法に着目、代表的な事例を通してあいまいな情報伝達をなくすためのノウハウを紹介する。
 第1章はシステムの変遷や国内の動向、EAの4つのレイヤなど、EAの概念とそれを取り巻く環境についてまとめる。EAが目指す全体最適実現のためには「ビジネス/データ/アプリケーション/テクノロジーの最適」「ビジネスとITの最適」「時間軸の最適」の3つの軸から目指す必要がある。また、EAの導入効果を出すためには「現状の把握」「ITビジョンの確立」「ITガバナンスの確立」「組織の意識改革」という4つの活動が欠かせないという。
 第2章では、EAの導入手順からBA、DA、AA、TAという4つの体系、セキュリティ対策を扱う。情報セキュリティシステムを導入する場合、現状(As-Is)を整理したうえで将来像(To-Be)の姿を考慮しながら段階的に導入していく。また、一度構築し運用したら終わりではなく、PDCAサイクルを回し継続して改善していくことが大切だ。
 第3章は自治体におけるEAの活用事例、第4章はプロジェクトマネージャのEA導入記となっている。“企業の仕組み”の全体最適を検討している経営者・情シス担当者向けの一冊。(ライター・生井俊)
 
ITにお金を使うのは、もうおやめなさい
●ニコラス・G・カー=著、清川幸美=訳
●ランダムハウス講談社 2005年4月
●1700円+税 4-270-00062-7
 情報技術は多くの重要な企業活動の在り方を変え、大きな利益を得た企業、業界トップに躍り出た企業があった。しかし、企業組織の基本形態や規模を変えるまで至っていない。本書ではこのような企業戦略の見地からITを検証する重要性を説く。
 第2章では、19世紀に行われた「レインヒルの機関車競争」を取り上げる。この競技会が蒸気機関車に革命をもたらし、鉄道網が急速に拡大、世界中の商取引の形を変えるインフラになったという。
 それを受け第3章では、果たして情報技術はインフラ技術なのかを問う。ITのコモディティ化は、ハードとソフトの両面から検証する必要がある。ハードウェアのコモディティ化は、グリッド・コンピューティングでITインフラの姿がほとんど見えなくなることで完成する。ソフトウェアは、グリッドに接続してそのときどきに必要なツールを使う形──公共事業体から供給され、使用量に応じて料金を支払うようになると推測する。
 ライバル企業が新しい技術を模倣するまでの時間を示す「技術のコピー・サイクル」やITインフラが既存の競争力を破壊するなど企業戦略の崩壊についても言及し、読み応えは十分。「危険な過ちを犯している」「でたらめだ!」と酷評もあったという本書だが、ITの効果に疑問を持っている経営者、マネージャ、情シス担当者は一度読まれてみてはいかがだろうか。(ライター・生井俊)
 
デジタル時代の経営戦略
●根来龍之=監修、早稲田大学IT戦略研究所=編
●メディアセレクト 2005年3月
●1900円+税 4-86147-008-0
 早稲田大学IT戦略研究所が運営するフォーラムでの講演記録や、同研究員らの原稿をまとめたもの。勝ち組を目指すためのIT戦略と競争戦略、そしてそのビジネスモデルに言及する。
 デジタル時代の「競争戦略」「IT戦略」「戦略手法」の3部構成。冒頭、監修の根来氏は「資源ベース戦略論」を批判的に展開する。これは「ある企業が優れた業績をあげるのは、他社にない優れた経営資源や能力をもっている」という考え方だ。本書では、ビジネスシステムで他社に対して「隔離」を形成するのは、資源だけでなく活動を加えた複合体だと説く。
 第5章「デジタル時代の規格競争」では、デファクトスタンダードを形成する条件として「ネットワーク外部性が働いていること」「世代間、規格間、規格内のすべての競争に勝つこと」を挙げる。しかし、デファクトだけでは利益を生めず、収益源の多様化が必要だと指摘する。また、デジタル時代は規格が1つに収れんするのではなく、DVDレコーダーのように複数の規格が併存できる可能性が出てきたという。
 そのほか、経営者視点からの情報システム構築の必要性やバランス・スコアカードを活用した戦略論にも言及する。盛りだくさんの内容でやや一貫性に欠けているが、経営者やマネージャが経営戦略に基づく情報システム構築の見直しを考える際に参考になるだろう。(ライター・生井俊)
 
マッキンゼー ITの本質──情報システムを活かした「業務改革」で利益を捻出する
●横浜信一/萩平和巳/金平直人/大隈健史/琴坂将広=編著・監訳、鈴木立哉=訳
●ダイヤモンド社 2005年3月
●2000円+税 4-478-37483-X
 日本企業は、優れた経営手法を多数作り上げてきたが、自社「らしさ」のなかにどう塩梅よくITを取り込むかに苦心している企業は多い。そこで、ITが事業の競争力やコスト削減にもらたす効果や、そうした効果を上げるために必要な組織運営体制・仕組みをテーマにしたのが本書だ。8本の論文と2本のインタビューで構成する。
 第1章では、なぜ、いま、「
IT投資の質の向上か」を取り上げる。ITに関する課題解決を阻む理由として「ITの企画・推進に関するアカウンタビリティが明確でない」「目標がQ(品質)、C(コスト)、D(スピード)の面から定められていない」など5項目を挙げる。その処方せんとしては「ITコストの可視化」「CIOを核にした議論の場を設定」することなどが必要だと説く。
 第2章で正しいIT投資の在り方、第5章で次世代CIO、第8章でオフショア・ビジネスを取り上げる。また、第9章、第10章はドイツ銀行とファーストリテイリングの業務改革をひも解くインタビュー。各章20ページ程度でまとめられており、テンポよく読み進められる。監督者から会社をリードする立場への転機を感じているCIOや、事業部とIT部門の連携を強化したいマネージャ向け。(ライター・生井俊)
 
ビジネス価値を創造するIT経営の進化
●角埜恭央=著
●日科技連出版社 2004年12月
●2100円+税 4-8171-6306-2
 長年、経営トップはIT部門をビジネス上の価値からほど遠い“金食い虫”と見なしてきた。IT投資の効果を正当化していない一方で、IT導入に関して「なんとなく満足」しているという逆説的な状況にある。本書のテーマは書名そのままに、「ビジネス価値を創造するために、どのようにIT経営を進化させるか」だ。
 序論「なぜ経営者はIT投資に確信がもてないか」では、著者らが行った経営度調査のデータを用いながら、IT投資がビジネス価値に貢献しているか判断する“使い手”としての見識を問う。そこから見えてくる課題を克服するため、ITがビジネス価値を創造する「組織メカニズムの解明」、他社との比較のために「IT経営度の開発」、それらをふかんする「3C-DRIVEの構築」*の必要性を説き、実践方法を紹介する。
 本書を通じ、経営トップの意識と行動はすべての影響の始点で、IT経営効果はその終点であることが分かる。経営者やマネージャが、社内のどこに焦点をあて、IT経営を改革・改善していくべきかを実感するために活用できるだろう。(ライター・生井俊)

*3C-DRIVE:自社(Company)、競合他社(Competition)、顧客(Customer)を含めた競争環境全体をふかんする体系のこと。
 
今こそ見直したいIT戦略
●ジョン・ヘーゲルIII世=著、遠藤真美=訳
●ランダムハウス講談社 2004年12月
●1900円+税 4-270-00057-0
 本書のテーマは“Webサービス”だ。人と資源とをインターネット上で結ぶのがWebサイトで、ビジネス資源、特にアプリケーションとデータを相互に接続するのを助ける技術をWebサービスと呼んでいる(要するにXML Webサービスより広い意味で使っている)。その中でも、ビジネス・コラボレーションにより成り立つ「プロセス・ネットワーク」の意味とその経済価値にスポットを当てる。
 4部構成の第1部では、柔軟性を高めるための意識改革と、ASPの失敗から学んだことをまとめる。コストと資産を削減し、成長を加速し続けるために、企業経営の柔軟性とコラボレーション能力を高める必要がある。企業経営は、「財務業績向上の圧力」「企業インフラ」「企業の境界」「メンタルモデル」という「4つの箱」にしばりつけられていて、それぞれの箱の中にまた箱があるような入れ子状態にある。Webサービス・テクノロジと分散サービス・アーキテクチャが、その4つの箱から抜け出す触媒になるという。
 第3部では、企業経営の焦点を絞り込むために、企業を解体して再統合するためのネットワークやテクノロジを取り上げる。いままでも企業の解体や再統合に強い関心を示す企業幹部は多くいたが、技術面の問題がそれらを阻害する大きな要因になっていた。Webサービス・テクノロジは、既存のアプリケーション間を柔軟に低コストで接続する技術であり、企業改革で大きな役割を果たすと説く。
 新しいビジネス環境に適合し、バリューチェーンの中で真に価値を創造する力のある企業にしたいと考えている経営者やマネージャは読んでみてほしい。(ライター・生井俊)
 
社長でもわかるIT──社長のためのやさしくわかるIT経営入門
●ITガバナンス研究会=著
●日本能率協会マネジメントセンター 2004年12月
●1500円+税 4-8207-1643-3
 経営者に必要なのは、ITに関する細かい技術知識ではなく、ITをビジネスに生かす方法だ。その視点から、ITを管理するときに必要なポイントを、社長の疑問と気付きをまとめたカバーストーリーを章ごとに折り込みながら展開する。
 まず、第1章では「IT戦略と経営戦略は同じものだ」と勘違いしている社長のストーリーが出てくる。それに対して、経営戦略が先にあってこそIT戦略を作ることができること、CIO任せにはしないことなどのポイントをまとめる。このような構成で、システム障害やコンプライアンスなどのITのリスク管理(第2章)、情報セキュリティ対策(第3章)、情報化投資の判断(第4章)などを扱う。
 専門用語を極力排除する中でも、トレンドのエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の枠組みやCOBITの34のプロセスなどを図表でまとめ、言及している。ITには詳しくないが、情報システムを見直したい、情報化の投資効果を評価したい、と考えている経営者の指針になるだろう。(ライター・生井俊)
情報技術を活かす組織能力──ITケイパビリティの事例研究
●岸眞理子/相原憲一=編著
●中央経済社 2004年7月
●3200円+税 ISBN4-502-37460-1
 情報技術の組織的活用能力(=ITケイパビリティ)に着目し、その概念と分析フレームワークから、企業によるIT導入効果をまとめている。
 企業が競争優位を獲得するには、ヒト・モノ・カネの3資源に加え、情報、技術力、ブランド、専門能力、組織能力などを開発し、これらを組み合わせて企業のケイパビリティを生成することが重要だ。ITケイパビリティは、情報技術資産とそれを扱う人的資産、情報技術を活用する企業コンテクストにかかわる資源に分類できるという。
 ここに登場する7社は、長野県の別所温泉にある上松屋旅館、靴下の専門店を展開するダンなど、ほとんどが衰退業界とされる世界で勝負を挑む中小企業である。
 上松屋旅館は、料理長の采配次第でブレのあった食材の調達コストを、情報システムを導入することで低く抑えることに成功した。また、ダンは、小売店に設置したPOSシステムのデータを、自社だけでなく染工場などとも情報共有し、商品販売サイクルの短縮化と在庫規模の適正化を実現し、販売機会損失や値崩れを防いでいる。
 伝統産業や中小企業であっても、適切な規模のIT導入には大きな効果があることを証明している本書は、大企業に限らず中堅・中小企業の情報マネージャに目を通して欲しい。(ライター・生井俊)
ITポートフォリオ戦略論──最適なIT投資がビジネス価値を高める
●ピーター・ウェイル/マリアン・ブロードベント=著、マイクロソフト株式会社コンサルティング本部=監訳、福嶋俊造=訳
●ダイヤモンド社 2003年8月
●3200円+税 ISBN4-478-37425-2
 適切なIT投資はどうあるべきか? という議論は古くからあるが、近年IT-ROIなど再び話題になっている。
 本書は、世界各地の企業を調査した結果などから、ビジネス上の価値を生み出すためのITインフラを構築するための手法として「ITポートフォリオ」によるアプローチを提唱するものだ。ITポートフォリオとはIT投資全般をリスク・リターンや事業戦略、株主価値などの面を含めてバランスを取って考えていくこと。ポートフォリオ内のさまざまなIT投資は役割と特徴が異なり、最適投資のためにはその理解が必要だとし、そのマネジメントのためにIT原則を策定することを説く。
 ここで展開される議論はある意味、常識に沿った当たり前のものである。しかし、現実にはITポートフォリオが構築できている企業は少ない。IT戦略の根本を見つめ直すための出発点として活用したい。
成功企業のIT戦略──強い会社はカスタマイゼーションで累積的に進化する
●ウィリアム・ラップ=著、柳沢享、長島敏雄、中川十郎=訳
●日経BP社 2003年12月
●2800円+税 ISBN4-8222-4367-2
 世界のリーディング企業における戦略的IT活用のケーススタディ集である。日米欧の有名企業十数社が登場するが、トヨタ、新日鉄、イトーヨーカ堂など半数は日本企業だ。著者は、その日本の大手ユーザーの特徴として、「カスタマイズしたソフトウェアを大量に使用していること」「IT子会社の発展」を挙げ、これによりITの高度な専門化とITの業務関連(知的)財産の集積という優位性を獲得していると説く。これらの企業は、ITを目的達成と差別化のための道具として見ており、「累積的進化」を実現しているとし、米国のソフトウェア産業主導型のITに警鐘を鳴らす。「日本はIT化に遅れている」という俗論を真正面から切る1冊である。
エンタープライズ・アーキテクチャ
●IBMビジネスコンサルティングサービス IT戦略グループ=著
●日経BP社 2003年12月
●2800円+税 ISBN4-8222-1873-2
 経営とITとの結びつきを強くするエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)について、コンサルティングする立場からその構造や実践、価値について紹介したのが本書だ。
 第1章は「EA時代が到来している」と題し、「EAとは何か」から、なぜいまEAなのか、経営層のITに対する要望などを述べ、情報システム部門だけでなく、経営者層にも分かりやすい導入部に仕上げている。ちなみに、本書の言葉を借りればEAとは「企業のITの状況を整理して、経営に貢献できるITのあり方を描き出す方法論」のことだ。
 第2章では「EAの構造」について、「アーキテクチャ」「ガバナンス」「移行計画」の3つの視点で説明する。さらに、アーキテクチャはビジネス構造を表す「ビジネス・アーキテクチャ」、業務プロセスや機能を表す「アプリケーション・アーキテクチャ」、ビジネス活動に必要となるデータを表す「データ・アーキテクチャ」の3層があり、これらをITに写像した「テクニカル・アーキテクチャ」を合わせた4層に分けられると解説する。
 「EA構築の実践」(第3章)では、EAを国レベルで推進するアメリカの流れを受けた日本政府や企業の取り組みを紹介している。また、第5章ではIBMが提唱する「e-ビジネス・オンデマンド」と連携することで、今後EA自体がより進化していくとまとめている。(ライター:生井俊)
ロジカル・プレゼンテーション──自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」
●高田貴久=著
●英治出版 2004年2月
●1800円+税 ISBN4-901234-43-9
 プレゼンテーションの技法を扱った書籍は数多くあるが、本書は新規事業を立ち上げるメーカーとコンサルティング会社とのカバーストーリーを織り込みながら、そこからプレゼンテーションとは何かを学ぶ異色の作品だ。
 筆者はまず「提案」を、「考える」能力と「伝える能力」とが合わさった状態で生み出されるもの、と定義している。また、提案の際に必要な様々な能力から「論理思考力」「仮説検証力」「会議設計力」「資料作成力」の4点に絞って取り上げる。
 各章は、ストーリー(メーカーとコンサルティング会社とのやり取り)と解説から構成され、章末にポイントが整理されている。「相手に伝えること」に比重を置いており、提案が通らないのを「相手のせい」や「環境のせい」にせず、「提案は通らない」ことを前提に発想することで、努力する方向性が見えてくると説く。
 本書は、経営者やプロジェクトマネージャが、部下を教育するための「指導書」としても有益だろう。(ライター:生井俊)
IT活用勝ち残りの法則──IT投資を活かすマネジメント
●淀川高喜=著
●野村総合研究所 2004年6月
●1890円+税 ISBN4-88990-113-2
 本書は「“事業サイクル”に基づいたIT活用目的の設定方法」と「“ITマネジメント”の実践方法」という、2つの軸を持つ。事業サイクルには「起業−成長−成熟−再編−分化−模索」があり、その段階によって取るべきIT政策が変化していく。また、ITマネジメントは、「変革」「アセット」「リスク」の3分野について考察する。
 企業のIT活用がうまくいかない背景に、「ベンダからの提案を真に受ける」「システム開発から運用までアウトソーサーに丸投げする」「撤退のシナリオが描けない」といった問題点があると指摘する一方で、ユーザー発のシステムにも「部門だけは便利になるが、事業全体に対する貢献は少ない」「現行業務の改善はできるが、業務そのものの抜本的な改革は難しい」などと手厳しい。
 それなら、どういうシステムやマネジメントが必要なのか。1つの解になり得るのが、経営者の在り方だという。情報システム部門やアウトソーサー任せになりつつある今日的状況に、ITマネジメントの重要性を説く本書は、経営者がIT戦略の理解を深めるために役立つはずだ。(ライター・生井俊)

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