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@IT > オープンソースによる開発実験プロジェクト > 酒井PMインタビュー |
企画:アットマーク・アイティ
営業企画局 制作:アットマーク・アイティ 編集局 掲載内容有効期限:2005年9月30日 |
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すぐれた開発能力と卓越した独創性を持つスーパークリエイターの発掘と支援を目指し、独立行政法人・情報処理推進機構(IPA)が2000年から続けている未踏ソフトウェア創造事業。プロジェクトの審査は合議制ではなく、12人のプロジェクト・マネージャ(PM)が個々に審査、採択を行い、その後の開発における進ちょく管理まで責任を負うというユニークな仕組みを取っている。 この6月には、2004年度第1回の公募結果が発表され、約328件の応募に対し、40件のプロジェクトが採択された。企業や研究所ではなく、あくまで個人を評価し、発掘しようというこの事業は、日本の開発現場に対してどのような影響をもたらすのだろうか。本稿では、今年度からPMに就任した酒井裕司氏の採択プロジェクトを題材に、未踏ソフトウェア創造事業の持つ意味について考えてみたい。 まずは酒井氏に登場してもらおう。酒井氏はIT系ベンチャーキャピタルの草分け的存在として知られるイグナイト・ジャパンのジェネラル・パートナーである。 ――未踏ソフトウェアのPMに就任されたきっかけは。 酒井PM 未踏ソフトウェア創造事業は若い有能なエンジニアにフォーカスを当て、優秀な個人を発掘し、一定期間IPAの予算で成果を出してもらう。そしてうまくいったら、スーパーエンジニアに認定しようというものです。ただ従来、採択する側のPMが大学の研究者中心になっていたため、もう少しビジネスに寄ったPMもいた方が良いのではないかという意見が出てきたのです。そうしたIPAの意向もあり、投資活動の一部を経済産業省の予算で行っていたイグナイト・ジャパンに話があったのが、きっかけです。だから私のPMとしての役割は、できるだけ商用化に近く、しかも未踏といえる創造性を持った技術を選ぶことでした。 ――2004年度第1回の採択に当たっては、どのようなことに留意されましたか。 酒井PM 研究開発を30年、40年と行った後に実用化されるような長期的なプロジェクトではなく、比較的短いスパンの間に何らかの実用化が期待できるという点を重視しました。そしてそうした研究に予算がつくことで、例えばこの記事を読んでいる@ITの読者の皆さんがインスパイアされ、その研究に対して何らかの形で改良したり、別の目的に使ってみたり、あるいは意見を述べたりするようなものにできれば、と考えました。 ――未踏ソフトウェア創造事業の波及効果には、どのようなものがあるのでしょうか。
酒井PM 商用化できるようなソフトを実際に作ろうとすると、莫大な投資が必要です。アメリカでベンチャー企業が新たなソフト製品を開発する場合、100億円規模の投資が行われることは珍しくありません。たぶん世界市場で戦える製品を開発しようとすれば、そのくらいの投資額が適正でしょう。それに比べれば、この未踏ソフトウェア創造事業で1人のPMの裁量に許されている金額は、年間わずか4000万円です。この金額で世界と戦えるかといえば、正直なところかなり疑問があります。 ――未踏ソフトウェア創造事業から、いきなり爆発的に市場を奪える製品を登場させるのは難しいということですね。 酒井PM しかし金額が少なくても、何らかの発火点となる研究を世に出すことはできます。単純な仕組みを持ち、なるべく多くの人が使うことが可能で、それによってほかの開発者たちの創作意欲を刺激することができる。そうした広がりのあるソフトを開発することは十分に可能だと思っています。未踏ソフトウェア創造事業から出てきたソフトをベースに、世界市場を狙うことのできる製品が登場する可能性だってある。そう考えれば、小さな資金でも十分に大きな効果はあると思うし、そうした方向を狙うというのは意味のあることだと思っています。 ――日本ではベンチャー企業や個人のプログラマなど、小さな規模で何かをしようとしている人たちへの投資の仕組みが、まだきちんとできあがっていないという問題もあるのではないでしょうか。 酒井PM 厳密に言えば、すぐれた技術力や良いビジネスモデルを持ったベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタル(VC)が日本で本格的に立ち上がったのは、2000年ごろです。それ以前は1000万円や2000万円といった金額を融資のような形でお金を出すというケースが大半で、投資であるのにも関わらず、出資先に担保などの保証を求めていました。これではプログラマ個人にとってはリスクは大きいし、しかも年収分ぐらいしか確保できないから、良いソフトを開発するというのは難しかった。 ――投資を受ける技術系のITベンチャー自体も、まだ数が少ないですね。 酒井PM そうですね。だから投資家の側も、どのような企業に投資すればいいのかというノウハウがあまり蓄積されていなかったのです。しかしそうは言っても、現状に不満を言っているだけでは何も始まらない。こうした状況の中でも、何とか優秀な個人に資金が投下される仕組みが作れないものか、そして投資家がきちんとリターンを得られる仕組みが作れないものか――私はベンチャーキャピタルに関わる実務家のひとりとして、ずっとそう考えてきました。その意味で未踏ソフトウェア創造事業は、IPAと国が一定の範囲内ではあるけれども、優秀な個人に対して補助金を出すわけですから、この枠組みをうまく使ってレバレッジをかけられないかと考えています。 ――今回の採択では、3件に対してそれぞれ1000万〜1425万円という補助金をつけられています。これについての考えを教えてください。 酒井PM 本当はもっとたくさんの人を採択し、補助金を分配したかったという気持ちもあります。ただ企業などに勤めている社会人が優れたソフトを開発しようとするのであれば、1年ぐらいは会社を休んで開発に集中できるぐらいの額でないと、補助金は生かされないのではないかと考えました。だから件数を絞り、このような形になったのです。 ――採択対象の人物像としては、どのような人を理想にされているのでしょうか。 酒井PM できれば会社勤めをしながら、なけなしの時間とカネを使って自分の好きなソフトの開発を進めているような人に、この事業が届けばいいと思っています。実は応募者には若干の傾向があって、そうした個人ではなく、大学の研究者や補助金慣れしている企業の方などが応募してくるケースが意外と多いのです。 ――今回はオープンソースでの開発を前提にしているプロジェクトだけを採択されたのですね。 酒井PM そうです。コードだけでなく、制作過程や管理過程までも含めて開示できれば、多くの人が「この程度でも未踏ソフトウェアに応募できるのか」と思えるようになるかもしれない。さらにオープンソースによってそのソフトが成長していき、さらに資金を投下すれば世界市場でも勝てる製品が作られることにでもなれば、億単位、10億円単位の出資を行って大きなビジネスになる可能性も出てくるからです。 ――これから未踏ソフトウェア創造事業に応募しようかと考えている人に、ひとことアドバイスを。 酒井PM 多くの人に頑張ってほしいですね。私の採択枠に関しては、シンプルな機能を持っていて、そして便利であるということを採択の基準として考えています。凝ったメカニズムは不要だし、最先端である必要もない。とにかく便利で、実用性のあるものを一番に考えています。そのうえでその便利な機能をコアにして、次の展開に向けた起爆剤の役割になるようなものを期待しています。 |
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