小平:個人のグローバル化を「OS(オペレーティングシステム)=志向性・行動特性」と「アプリケーション=専門性・業務遂行スキル」の関係に例えて考えてみましょう。「まずは海外に出てみる」というお話は、「OS」すなわち意識面から変えて「グローバル化」を目指して行動した方がよい、ということですね。海外でも通用する「スキル」を身に付けてから海外に行くのではなく、まず海外を「経験」してみることが先決であると。
これらの行動ができたとして、次に必要になるのはやはり英語やマネジメント能力といった「アプリケーション=スキル」部分だと思うのですが、この点はいかがでしょうか。一番皆さんが気にするのは英語、つまり語学の部分でしょう。例えば、楽天では「英語の社内公用語化」が進んでいます(参考:第4回 「『マインドは独走させよ』——楽天流・国際エンジニア育成法」)。
大滝氏:わたしが教えている早稲田大学ビジネススクールの説明会でも、語学に関する質問が多く出ます。英語を身に付けるうえで重要なのは、「英語ができない」といわないこと、あきらめないことです。アジアでは、いい加減な文法を使いながらも英語を積極的に話す人がとても多いですよ。英語学習では、文法などの「How」にこだわるのではなく、何を伝えるべきなのかという「What」の方が大事です。
小平:英語に関しては分かりました。それでは、マネジメント能力についてはどのようにして身に付けたらよいでしょうか。
大滝氏:一番の近道は、どんなに小規模でもよいので、プロジェクトを実際にマネジメントすることです。最近はMBA教育なども充実してきていますので、余裕があればこういうところで学ぶのもよいでしょう。
例えば、早稲田大学には1年間で早稲田大学とシンガポール 南洋理工大学のMBAの2つの修士学位を同時に得られるプログラムがあります。これは、社会人向け夜間コースとは違って全日制のフルタイムコースで、プログラム全体を英語で実施します。アジアのみならず、フランスやイギリス、ロシアなどからの参加者もいますよ。修了後にはシンガポールで就職できる点も、魅力の1つになっているようです。
小平:今回お話をうかがって、「まずは日常から1歩踏み出してみる」「英語では何を伝えるかが重要であり、文法などにこだわりすぎない」など、日本人エンジニアが等身大で取り組めるようなお話が聞けました。最後におうかがいしたいのですが、グローバルな視点で見て、「日本人エンジニアの強み」とはどのようなものでしょうか。
大滝氏:日本人エンジニアの強みはやはり「マネジメントをきっちりする」「品質へのこだわりが高い」「観察力があり『人』を見ている」などがあります。そのため、「グローバルマネージャ」を目指す場合にはこの強みが生かされるでしょう。
一方、観察力の高さや集団志向、「お互いさま」の考え方が行き過ぎると、Pier Pressure=相互監視になってしまい、組織の中で身動きが取れなくなるという危険性もはらんでいます。日本人エンジニアに限ったことではありませんが、自らの強みを十分意識しつつ、自らの行動を束縛しないように、絶えず意識しておく必要があるでしょう。
大滝さんの多様で柔軟な発想には、いつも新たな気付きをもらいます。以前、ベトナムに出張した際、偶然にも大滝さんにホテルのロビーでお会いしたことがありました。今回のお話をうかがって、その柔軟な発想の背景には行動力があり、行動力の背景には「まずは1歩を踏み出してみる」という考え方があるのではないかと思いました。
ニッポン人エンジニアにとっても自分で「グローバルの壁」をあえて高く設定せず、ポジティブにものを考え、まずは日常から1歩踏み出してみるという発想は参考になるのではないでしょうか。
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長
大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。
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