以前、エンジニアには「考える必然性」がありました。
例えば、プログラミングスキルを身に付けるシーンを考えてみます。筆者がITエンジニアになったのは1998年。インターネットにさまざまな情報が流れ出し始めていたとはいえ、ITの技術的な情報は、まだそれほど多くなかった時代です。
当時、プログラミングスキルを学ぶ際の頼りは技術書でした。専門用語が並んでいますし、ただ読んでも意味が分からないので、本に書かれているサンプルコードを1文字ずつキーボードで入力し、動かしながら少しずつ覚えるスタイルです。それだけに、書籍を使った学習は、理解するまでに時間がかかり、面倒でした。
しかし、この学習スタイルにはメリットもありました。キーボードから入力するのは時間がかかるので、コードを熟読する必要があります。入力にミスがあれば、どこが問題なのかを考える必然性が出てきます。また、技術書は一般の本に比べ高価で、自分の財布からお金を出した分、「元を回収してやろう」という気持ちも働きます。それだけに、新たな技術を「あっ、そういうことか!」と理解できたとき、大きな喜びと自信を味わうことができました。
インターネットにさまざまな情報がある現代は、必要な情報が一瞬で分かります。詳しい事例やサンプルコードも豊富で、わざわざコードを手で入力しなくてもコピー&ペーストで手に入ります。
手元に参考になるソースコードがあれば、取りあえず動かしてみたくなるものです。取りあえず動いてしまえば、わざわざソースコードを読み解く機会も少なくなります。自分で入力する苦労も、入力ミスもないので、「動かない体験」をすることも少なくなり、動かない理由を考える必要もありません。
この中に、「考える」というクリエイティブな要素は1つもありません。「動くこと」への喜びもありません。
これまで、「コピー&ペーストしただけ」「動けばいいという気持ちがよく見える」ソースコードを何度も見てきました。時間がなかったのかもしれませんが、このような仕事の繰り返しでは、たとえエンジニアでも楽しくないのは当然です。
このように、情報がなんでもある現代、エンジニアはクリエイティブな要素を奪われがちです。ましてや、スピードや成果が求められる中で、「考えながら仕事をする」という時間がなかなか確保できないのも、現代の悲しさなのかもしれません。
けれども、忘れないでください。エンジニアの楽しさの本質は、
「自分で考えたことを現実にできる」
ということ。このこと自体には、いまも以前もなんら変わりはありません。
もし、クリエイティブなエンジニアになりたいと思ったら、ソースコードを解析したり、「ここをこのように変えるとどのように動くのだろう」と試すなど、もう一歩深く踏み込んで考えて、実際にやってみることが重要です。
「エンジニアはクリエイティブな職業ではなくなった」と嘆きたくなる気持ちも分かります。そういうときこそ、「コピー&ペーストのエンジニアになっていないか」を振り返ってみてください。インターネットが悪いのではなく、そういう使い方をしてしまうことが問題なのです。
クリエイティブなエンジニアになるか、コピー&ペーストのエンジニアになるか。選択する権利は、自分にあります。
現在、筆者がソースコードに直接触れる時間は少なくなりました。しかし、エンジニア時代に「自分で考えたことを現実にできる楽しさ」を学べたことには感謝しています。エンジニアを離れたいまでも、この「楽しさ」が仕事の原動力になっています。
多くのエンジニアに、「クリエイティブなエンジニアになる」ことを選択してほしいと願っています。
竹内義晴
特定非営利活動法人しごとのみらい理事長。ビジネスコーチ、人財育成コンサルタント。自動車メーカー勤務、ソフトウェア開発エンジニア、同管理職を経て、現職。エンジニア時代に仕事の過大なプレッシャーを受け、仕事や自分の在り方を模索し始める。管理職となり、自分がつらかった経験から「どうしたら、ワクワク働ける職場がつくれるのか?」と悩んだ末、コーチングや心理学を学ぶ。ちょっとした会話の工夫によって、周りの仲間が明るくなり、自分自身も変わっていくことを実感。その体験を基に、Webや新聞などで幅広い執筆活動を行っている。ITmedia オルタナティブ・ブログの「竹内義晴の、しごとのみらい」で、組織づくりやコミュニケーション、個人のライフワークについて執筆中。著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。Twitterのアカウントは「@takewave」。
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