――『世界で勝負する仕事術』と関連しますが、グローバルな環境において、人々に求められる能力は大きく分けて3つあると思います。
竹内さんはどのような能力が一番大切だと思われますか。
竹内教授:エンジニアである以上、やはり「技術の強み」が最も大切だと思います。こちらが良い技術、価値のある技術を持っていれば、たとえ英語ができなくとも、相手が進んで理解しようとしてくれます。
技術があると、エンジニアの自信にもつながります。エンジニア同士であれば技術用語が通用するので、コミュニケーション能力などはあまり問題にはなりません。一方、確固たる技術の強みがない状態では、いくら英語が上手でも、あまり意味はなく、技術上の優位性のない状態で、海外というアウェイで戦うのは厳しいでしょうね。
結局は、目の前の相手に「コイツは信用できる」「この人がそう言っているのだから、組織は動く」と思わせることが大事なのです。あくまでもコンテンツ、中身勝負です。
話は少しそれますが、海外のパートナーと会議を実施する場合、先方は良く分かっている人間が少数で、アジェンダに基づいて課題を共有して、意思決定を行おうとします。一方、日本企業はその逆で、会議への参加人数は多いものの、最前列に座る経営者が技術を理解していない場合が多く、「で、何を決めに来たのか? 誰と話をすればいいのか?」ということになり、その場で意思決定できないような傾向があります。
――「持ち帰って検討させていただきます」というやつですね。
竹内教授:海外の人から見れば、「この場で決めるんじゃないの?」という感じでしょう。これでは、海外勢との競争は難しいですね。
――私が専門としている組織論の分野では、人材育成の手法として3つ考えています。
今までの経験、そして今、大学で育成に携わっていることを踏まえ、この点についてはどう思われますか。
竹内教授:人材育成に関しては、さまざまな手法やオプションを準備し、「チャンス」を提供することは重要だと思います。
ただし、それらが有効に働くのは、学ぶ側に「学ぶ意欲」「学びへの渇望」がある場合に限ります。やる気のない人間に、いくら立派な機会や学習内容を用意しても、まったく意味はありません。その上で、社内フリーエージェント制など異動のチャンスを使って成長していく、ということは有効だと思います。
――『世界で勝負する仕事術』の中で、「24時間、仕事を忘れないでいられるか」という問い掛けが印象的でした。
私は「働く」ことについて、2つのとらえ方が混在してしまっているのではないかと考えています。やらされている感が強く、自分の時間を切り売りしたものであり、苦役的な意味を伴う「労働(Labor)」ととらえるか。それとも、自分の人生の一部であり、自己表現の手法でもある「仕事(Work)」ととらえるか。
「24時間、仕事を忘れないでいられるか」という問い掛けはまさに「働く」ことを「仕事(Work)」ととらえることだ、と私は受けとめたのですが、この点はいかがお考えですか。
労働/Labor | 仕事/Work |
---|---|
(肉体的な、骨の折れる)労務 苦労 |
業績、作品、著作物 正常に動く、効き目がある |
人生とは切り離し、部分的 | 人生の構成要素であり、全体的 |
竹内教授:そうですね。そしてまた、労働(Labor)なくして仕事(Work)なし、だとも思います。私自身、「9割がLabor、1割がWork」といった感じです。
Workはつらい。自分にできるかどうか分からないし、アウトプットのリスクを負います。成果が見えているオペレーショナルな「労働」に従事しながらも、創造性を発揮する「仕事」に持っていくことが、大事だと思います。
大切なのは自分の中で2つのバランスを取ることでしょう。そして、エンジニアがWorkの部分でどこまで伸びるかは、やはり「基礎をどこまで徹底できているか」、ということです。
――竹内さんは、『世界で勝負する仕事術』の中で以下のように書いています。
「どうせ将来が予想できないのだったら、一番大事なのは環境が変わっても生き残れる適応力や精神力を身につけること。(中略)柔軟性やしなやかさを身につけるためには、できるだけ若いころから、競争が厳しく、変化が多い業界で鍛えられていたほうがよいと思うのです(p.199)」
この点について、もう少し詳しく教えていただけますか。
竹内教授:「労働か仕事か」という話題に関連しますが、受け身になるのではなく、まず自分から先にやる、失敗や外すことを恐れずにやる、ということだと思います。
もっと言うと、「変化への適応」だけでは不十分です。変化に対応するだけでは、振り回されてしまう。むしろ、「環境の変化を作っていく」ぐらいの心意気が求められます。実際、東芝はフラッシュメモリで、半導体業界を変えました。
変化を創造していくためには、やはりコア技術を持っておくことが大切になるのです。
「デファクトスタンダード」は、それは必ずしも静的なものではありません。むしろ、常に動いている動的なものであると言えるでしょう。前のバージョンと新製品、ユーザーからは同じ製品に見えても、中で採用している技術はがらっと変わっている、ということはあります。企業同士の、激しい競争です。
日本人エンジニアに求められることは、しっかりとしたコア技術を持ち、その上で他の領域でも応用しながら、変化を創造していくことだと思います。
今回の対談は、『世界で勝負する仕事術』を読んだことをきっかけに、実現しました。
竹内さんは大企業でエンジニアとして開発に携わっただけでなく、海外でMBAも取得し、帰国後は製品開発のプロジェクト・マネジメントやマーケティングも担当、そして今は大学の教員と、幅広いキャリアと視点を持っています。そのためか、『世界で勝負する仕事術』は、メッセージが明快で、とても分かりやすく、ぜひ著者に直接、お会いしたいと思ったのです。
実際にお会いした竹内さんは、にこやかな笑顔を絶やさない一方、世界で伍していくためには当然のことながら世界一を目指さなくてはだめで、そのためにはコアとなる技術やその学び方を徹底するが大切だと何度も強調しており、その真剣なまなざしがとても印象的でした。また、「労働なくして仕事なし」「変化の適応から変化の創造へ」、というコメントをいただきましたが、これは私が専門領域とする「組織論における組織学習」とも密接に関係するものです。
組織学習には、
があります。竹内さんが指摘するようにまずはLabor的な業務(適応学習)をきっちりと踏まえ、その上でWork的な業務(創造学習)に広げていくのは、組織論の観点からも同感できるものでした。そして、自分自身が人生をかけ取り組んでいくためには(まさに24時間考え続けていくためには!)、基礎的な技術や学習方法の徹底が大切であると、あらためて認識しました。
※小平達也が監修を務めたコミックエッセイ『異文化クライシス〜新入社員は外国人〜』(PHP研究所)が出版されます。本書のテーマは「日本企業のグローバル化」。
外国人社員とのカルチャーギャップに翻弄される姿をユーモラスに描きながら、「日本企業で働く人々にとってのグローバル化とは何か?」「企業文化とは?」といった「会社での働き方」を見つめ考え直すきっかけにもなります。グローバル化対策に、仕事の合間の一服に、お手に取っていただければ幸いです。
Webサイト:http://ad.ja-sol.jp/
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長
日本企業のグローバル化を支援する?ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長。厚生労働省、文部科学省他政府有識者会議座長・委員、大学講師などを務め幅広く活動。豊富な経験に基づく独自ノウハウと事例を収録した「グローバル採用の教科書 外国人社員採用・活用ハンドブック」 は人事部における定番アイテムとなっている。
(公務など)
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