NFLチーム、49ersの新スタジアムは、「お茶の間」さながらのユーザー体験を目指し、建設が進められている。一体どのような仕掛けが準備されているのだろうか。
米国では新しいスポーツチームの本拠地ができるたびに、その「ハイテクぶり」が話題になる。2009年にオープンしたテキサス州ダラスのAT&Tスタジアム(旧カウボーイズ・スタジアム、NFLダラス・カウボーイズの本拠地)では、約22m×48mもある世界最大のHDビデオディスプレイ(ギネスブック認定、三菱電機製「オーロラビジョン」)が話題になっていた。
また昨年9月にこけら落としとなったブルックリン(ニューヨーク)のバークレイズ・センター――NBAブルックリン・ネッツの本拠地、最近ではマジソン・スクウェア・ガーデンとならぶコンサートのメッカとなり、ローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、リアーナなど、多数のアーティストがライブを行っている――でも、「放送局顔負け」の映像・音響制作用機材などが導入されていた。
サンタクララ(カリフォルニア州)では現在、2014年秋のNFLシーズン開幕に向けて、サンフランシスコ・フォーティーナイナーズ(49ers)の新本拠地となるリーバイス・スタジアムの建設が進んでいる。シリコンバレーの中心部にできる総工費12億ドルのこの新スタジアムについての話題が、7月下旬に開かれていたFortune誌主催のBrainstorm Techカンファレンスで取り上げられたようだ。
この記事では、ジェド・ヨークとギデオン・ユゥという2人の人物を取材している。前者は49ersのCEOで、どうやらオーナー一族と関係があるらしい。Wikipediaによると、1980年生まれで、MLBロサンゼルス・ドジャースを買収し、一躍脚光を浴びたグッゲンハイム・パートナーズに勤務経験があるという。
後者のユゥ氏は49ersの球団社長を務めている(Wikipedia)。どこかで見覚えのある名前と思って調べてみたら、「2006年にユーチューブのCFOとして同社をグーグルに16.5億ドルで売却、フェイスブックのCFO時代には、マイクロソフトや香港のリ・カシン(李嘉誠)から資金調達に成功、ビノッド・コースラのコースラ・ベンチャー在籍中には、(ジャック・ドーシーの)スクエア立ち上げ時に出資」などとある。現在は49ersの少数オーナーとのことだが、「テクノロジ系ベンチャーのストックオプションで築いた財産でプロスポーツチームのオーナーに」という現代の成功者の典型的パターンのようである。
そんな人物も建設に関与する新スタジアムなのだから最先端の技術を使った仕掛けが用意されていても意外ではないが、同記事で興味深かったのは、49ersの経営陣がライバルとして「お茶の間」――つまり、リビングルームにあるカウチポテト族(Wikipedia)――を意識しているという点だ。
ESPNなどテレビ放送(試合中継)やオンラインサービスを通じた試合の楽しみ方が多様化している。加えて、スタジアムの入場料なども全般的に値上がりを続けている。そういった状況の中で、経営陣はお茶の間を上回る「ユーザーエクスペリエンス」を実現できるか、という点に注力しているという。実際に「このプロジェクトの核心部分はスタジアム建設ではない(中略)ユーザーエクスペリエンスについて根本的に考え直す機会にある」などとユゥ氏がコメントしている。
そんなリーバイス・スタジアムでは、あらゆる種類の情報端末からインターネット接続し、試合を楽しめるように、ネットワークのバックエンドを構築しようとしている。また、すでに提供が決まっている機能の中には、観客が手元の端末(持参したスマートフォンやタブレットなど)からプレイごとにハイライトシーンを楽しめるというものや、携帯端末からオンラインで飲食物やグッズを注文すると係員が座席まで買ったものを届けてくれるサービス(売店の列に並ばずに済む)などがあるという。
その一方で、充電用装置についてはいまだに提供するか決めかねている状況だという。一時は各座席の後部に端子(ジャック)を付ける案が出ていたものの、「ビールや炭酸飲料がこぼれてジャックが使えなく可能性がある。観客が充電コードをぶらぶらさせているという姿は見栄えが良くない」などの声も挙がり、取りあえずこの案は見送りになっているらしい(非接触充電に対応した端末が増えればいいのだろうが)。
Ars Technicaで5月下旬に掲載された記事では、新スタジアムのネットワークインフラ/ハイテクバックエンドの設計・実装を仕切る2人の幹部(いずれもフェイスブックの元従業員)の話を取り上げていた。「スタジアムに収容できる6万8500人の観客全員が同時にWi-Fi接続しても持ちこたえられるだけのアクセスポイント(推定1500基ほど)を設置する。ネットワークの混雑緩和のため、特に5GHz帯対応の802.11ac規格のアクセスポイント導入に力を入れる」といったことが書かれている。いずれにせよ、急成長を遂げたフェイスブックのサービスを支えるインフラの場合と同様に、当初からシステムのスケーラビリティを相当意識している感じが伝わってくる。
実際に、観客全員が同時にインターネット接続可能になれば、TwitterやFacebookへの投稿もうなぎ登り……ということで、「試合会場に居ながら、お茶の間さながらのユーザーエクスペリエンスも可能」となるのかもしれない。
三国大洋 プロフィール
オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。
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