全米大学男子バスケットボールトーナメント(以下、NCAAトーナメント)の組み合わせが発表され、今年も「マーチマッドネス」が始まった。メディアもこの話題で持ちきりだ。
米国時間の2014年3月16日に全米大学男子バスケットボールトーナメント(以下、NCAAトーナメント)の組み合わせが発表され、今年も「マーチマッドネス」の季節が始まった。今回紹介するのは、その勝敗予想をめぐるお話だ。
One of the ways I was able to look smart over the past six years, during which time I spent a lot of effort on political forecasting, was by betting on the favorite. I wasn’t literally placing bets, mind you (unless you want to count my proposed bet with Joe Scarborough). But for some reason, in political prognostication, you can be regarded as a savant just by pointing out that the favorite is probably going to win.
The standard in sports prediction is higher. And this year’s NCAA basketball tournament is designed to make me look dumb. There aren’t any favorites. ...
・Building a Bracket Is Hard This Year, But We’ll Help You Play the Odds - FiveThirtyEight
では、上記の例文に出てきたキーワードとキーフレーズを見ていこう。
原文 | 訳 |
---|---|
look smart | 賢いように見せる |
favorite | 本命、有力候補 |
mind you | 念のために |
unless〜 | 〜を除けば |
some〜 | ある〜(後ろのreasonが単数形であることに注意) |
prognostication | 予測、予言 |
regard | 見なす |
savant | 大家、大学者 |
prediction | 予測、予言(predictの名詞形:prognosticationの言い換え) |
dumb | 愚かな、頭がよくない(「smart」の反対語) |
2014年の全米大学男子バスケットボールトーナメント(以下、NCAAトーナメント)の組み合わせが米国時間の3月16日に発表された。例年通り、米国のメディア全体がこの話題で大騒ぎ。ESPNをはじめとするスポーツ系媒体は当然として、NYTimesのような一般紙やWSJ、Bloombergといった経済ニュースにもこの話題にあやかった記事が上がっている。
また「Bracket」と呼ばれる組み合わせ表(勝ち上がり表)をWebサイトに設けているところも多い。これから決勝戦の行われる4月上旬まで「マーチマッドネス」(March Madness)と呼ばれる季節が続くことになる。
なお、タイトルには「10億ドルを懸けた」と書いたが、もちろんアマチュアの学生チームに賞金が出されるわけではない。詳しくはこれから説明する。
NCAAトーナメントがこれほど盛り上がるのは、メジャーな学生スポーツの中で全米王者をトーナメントで決める競技が他にないから。つまり、日本の甲子園(もしくはお正月の全国高校サッカー)のようなもので、自分の母校や地元の学校が出場すればそれこそ大騒ぎ。出場チームの在校生ともなれば、授業そっちのけで遠くの街まで応援に出かけるのも当たり前で、一昨年には優勝したケンタッキー大学の学生が決勝戦の晩に地元の街に繰り出し、発砲騒ぎも起こるほどの混乱に発展したといったニュースもあった。
また、19〜20歳くらいの若者たち(中には、まだあどけない顔をした者も交じる)が、「負ければ後がない」トーナメント戦を戦うとなれば、自然とドラマが生まれてくるものだ。過去には不運な負け方をして優勝を逃したチームのエースに大統領が慰めの手紙を書いてファックスした、といった例もあった(1993年のビル・クリントン)。
さらに今年は、NBAドラフトとの関連で「10年に1度の当たり年」「2003年以来の逸材ぞろい」などといった評判が前から広まっていた(実際「どこの大学に進むか」が全米のニュースになった選手が複数いた)。そんなスター選手たちがこのトーナメントにそろって顔を見せるとあって、今年は例年にも増して注目度が高いように思われる。
そうしたコート上での話題とは別に、NCAAトーナメントが毎年大きな注目を集める理由がもう1つある。勝敗の予想がそれで、仲間同士や職場単位でポケットマネーを出し合って行う賭けもよく行われているらしい。普段は居るのかどうかさえ分からないほど目立たないのに、この時期になると必ず活躍する――10ドルずつ(掛け金と予想を)集めて回るような奴がどこの職場にもいる、といった話がGrantlandのある記事に出ていた。
また、バスケットボール愛好者として知られるオバマ大統領の勝敗予想も有名で、ここ数年は毎回ESPNでその模様が放映されている。
ESPNでは毎年一般からの勝敗予想を集めているが、昨年はその数が(オバマのものも含めて)約815万件に達していたらしい。さらに今年は、全部で67ゲームある試合の結果を全て当てた人に賞金10億ドルを出すというコンテストが発表されて、そのこと自体が大きなニュースになってもいた。
コンテストの主催者はQuicken Loansという会社で、万一正解者が出た場合の保険を引き受けたのが、伝説の投資家として知られるウォーレン・バフェット(Warren Buffett)の経営するバークシャー・ハザウェイ。なお「全問正解」の確率は「922京3372兆368億5477万5808分の1」だという。
そんなNCAAトーナメントを「どう攻略したらいいか」は、関心を持つ人間やメディア関係者にとっては格好のネタであり、また数学が得意な人にとっても面白い研究材料である。
ESPNに移籍した統計専門家のネイト・シルバー(『シグナル&ノイズ』の著者)が、このタイミングに合わせて新しい自分のブログ「FiveThirtyEight」(名前は以前と同じ)を「新装開店」させてきた。その第1弾のコラムとして自らの勝敗予想を発表したのはほぼ想定内の動きといえるが、同時にこの新しい「FiveThirtyEight」のスタート自体が他の媒体(bloombergやAdweekmなど)でニュースとして取り上げられているのも目を引く。
なお、シルバーのBracketには試合ごとの勝敗確率を示す数字が付されており、出場校が各ラウンドを勝ち進んでいく確率を予想した表もあるのが特徴的。これを見ると、最有力と見られる上位3校でさえも優勝確率はそれぞれ13〜15%となっているから、優勝校を予想するだけでもかなり大変そうに思える。
NYPostやNYTimesでは、3月初めにマンハッタンの米国数学博物館(National Museum of Mathematics)で開催された、とあるセミナーの模様を伝えた記事も上がっていた。デビッドソン・カレッジのある数学教授が主催したこの集まりに、50人もの人が100ドルも払って参加した理由は、同教授が編み出した“独自のBracket攻略法”についての話を聞くため。この教授が指導した学生の中には(前述の)ESPNのコンテストに応募して正解率の上位1〜3%に入った者が3人いたというから、興味がある人にとってはやはり気になるところなのかもしれない。
上記の背景を踏まえて、冒頭の英文を少しずつ区切りながら読み解いてみよう。
[1] One of the ways (I was able to look smart over the past six years), /
[2] during which time I spent a lot of effort on political forecasting, /
[3] was by betting on the favorite. /
[4] I wasn’t literally placing bets, mind you /
[5] (unless you want to count my proposed bet with Joe Scarborough). /
[6] But for some reason, in political prognostication, you can be regarded as a savant just /
[7] by pointing out that the favorite is probably going to win.
[8] The standard in sports prediction is higher. /
[9] And this year’s NCAA basketball tournament is designed to make me look dumb. /
[10] There aren’t any favorites. ...
それぞれ、以下のように読み解ける。
[1] (私はこの6年ほど自分を賢そうに見せることができたが、そのために使った)方法の1つが
[2] その間、私は政治(=選挙結果)の予想にたくさんの労力を費やした
[3] 本命に賭けるというものだった
[4] 念のために言っておくと、実際に賭けをしようとしたことはない
[5] (ジョー・スカーバラに対して私が申し込んだ賭けは例外)※注
[6] しかし、ある理由から、政治に関連する予想では、自分をその道の大家と思わせることができる
[7] 本命がおそらく勝つだろうと指摘することで
[8] スポーツ(の勝敗)に関する予想は、それよりも基準が高い(=難しい)
[9] そして今年のNCAAバスケットボールトーナメントは、私のことを愚かに見せるように設計されている(=作られている)
[10] 有力候補というのは特にいない
注:要は、「有力候補に賭けていればたいがいは予想が当たる選挙の投票と違って、スポーツの勝敗を予想するのは簡単ではない。特に今年のNCAAトーナメントは、肝心の本命チームもこれといってないので……」ということだろう。だが、"(be) designed to make me look dumb."=「自分のことをバカに見えるように設計されている」といった技巧的な書き方もあって、その分少し難しい。
なお、「ジョー・スカーバラとの賭け」というのは、2012年の米大統領選の際、「オバマが勝つ」と予想していたネイト・シルバーに対して、MSNBCの番組司会者を務める元下院議員のスカーバラが「両陣営が接戦になると見ている」などと述べてその手法をけなしたのに対し、シルバーが「じゃあ賭けようぜ、負けた方が赤十字に1000ドル寄付だ」と勝負を挑み、結局スカーバラが後に謝った一件を指しているそうだ。
では最後に、もう一度英文を読み直してみよう。
One of the ways I was able to look smart over the past six years, during which time I spent a lot of effort on political forecasting, was by betting on the favorite. I wasn’t literally placing bets, mind you (unless you want to count my proposed bet with Joe Scarborough). But for some reason, in political prognostication, you can be regarded as a savant just by pointing out that the favorite is probably going to win.
The standard in sports prediction is higher. And this year’s NCAA basketball tournament is designed to make me look dumb. There aren’t any favorites....
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