忘れずに手を洗おう……ビッグデータとIoTの活用例三国大洋の箸休め(26)

張り紙に頼る代わりに、センサーとInternet of Things(IoT)、ビッグデータといった技術を活用して手洗い忘れ防止を実現したケースを紹介する。

» 2014年03月10日 18時00分 公開
[三国大洋,@IT]

 「手洗いなんて忘れても大したことないさ」、とは言えない職場もある。今回はそんな職場の代表例である医療現場で、張り紙や標語、個人の意識向上に頼る代わりに、センサーとInternet of Things(IoT)、ビッグデータといった技術を活用して手洗い忘れ防止を実現したケースを紹介する。

今日の例文

Every year, nearly 2 million people contract infections while staying at the hospital, and inadequate handwashing is a big cause. It turns out we might be able to help fix the handwashing problem with help from intelligent sensors, and a Huntsville, Ala.-based sensor-network company called Synapse Wireless is working on just such a system for its hospital-industry customers. However, the trick to pulling it off isn’t just having the right sensors, it’s also having the right tools in place behind the scenes, on the servers that act as the sensors’ brains and tell them what to do.

Why the internet of things is big data’s latest killer app ― if you do it right - GigaOM


ワード&フレーズ

 では、上記の例文に出てきたキーワードとキーフレーズを見ていこう。

原文
contract かかる、感染する
infection 伝染病、感染症
while 〜 〜している間に
cause 原因
fix 壊れたものを直す、解決する
work on〜 〜に取り組む
however ただし
trick 秘訣、コツ
pull off うまく作り上げる
not just ―、(but) also 〜 ―だけでなく〜も(not only ―、but also 〜」と同じ)
have 〜 in place 〜をそろえる
behind the scenes 舞台裏、表に出ないところ

ニュースの背景

 「家に帰ってきたら、すぐに手を洗いなさい」と、誰もが子供のころに言われた覚えがあると思う。また親となって、そう言う側に回った人もいるだろう。ある時期から企業の受け付けなどに消毒液が用意されることも珍しくなくなった。それでも普通の暮らしの中では、たとえ忘れたとしても、あまり大きな影響はなさそうな「ちょっとしたこと」と感じられる。

 一方、それが「ちょっとしたこと」では済まない場合もある。すぐに思い付くのは飲食店など「口に入れるもの」を扱う仕事だろう。手洗いと食中毒の発生件数や確率の相関関係などは目にしたことがないが、一度事故が起こってしまえば営業停止、商売にとっては命取りになるリスクがあることは、素人でも分かる。

 さらにそんな手洗いの不備が、文字通り「命に関わる一大事」になる分野もある。医療の分野がそれで、米国では、不十分な手洗いが原因で何らかの病気に感染する人が毎年200万人近くもいるという。

 この不十分な手洗いから生じる感染を防ぐために、ネットワークに接続するセンサーを使った仕組みを開発した米企業の話が、先ごろGigaOMで紹介されていた。

 「Internet of Things(IoT)がビッグデータにとっての最新キラーアプリになる理由(ただしきちんとできた場合)」(“Why the internet of things is big data’s latest killer app ― if you do it right”)というタイトルのこの記事によると、Synapse Wirelessという米アラバマ州の会社が開発したこの仕組みは、病院で働く人々の名札に埋め込んだ無線機能付きのセンサーとソープディスペンサー、それにクラウド上のサーバーを組み合わせたもので、手洗い専用のリマインダーの役目を果たすという。

 具体的には、例えば看護師が入室した際に名札のセンサーがその情報を記録してサーバーに送信、サーバー側からは室内にあるソープディスペンサーにこの情報が渡され、入室から一定時間(例えば30秒)経過しても看護師が手を洗っていないと、今度はそのことがサーバーに伝えられて、名札のセンサーにアラートが送られる、といったものらしい。

 このアイデアだけを聞くと実装はそれほど難しくないようにも思える。しかしGigaOMでは「これをリアルタイムで実現するのはなかなか難かしい」とか、「データを後で解析するために保存しておくとなると、余計に仕組みが複雑になる」という開発責任者の話を紹介している。

 なお、Synapse Wirelessでは「Storm」「Hadoop」「Cassandra」「Kafka」といった技術を使ってこの仕組みを作ったという。また作り手の大半は半ば素人――アラバマでは、シリコンバレーのように各技術に精通したエンジニアが見つかりやすいわけではない――ので、ある程度技術に通じた人たちが最適なツールを見つけながらプロジェクトを進めていったという。

文章の分解

 上記の背景を踏まえて、冒頭の英文を少しずつ区切りながら読み解いてみよう。

[1] Every year, nearly 2 million people contract infections while staying at the hospital, /

[2] and inadequate handwashing is a big cause. /

[3] It turns out we might be able to help fix the handwashing problem /

[4] with help from intelligent sensors, /

[5] and a Huntsville, Ala.-based sensor-network company called Synapse Wireless is working on just such a system /

[6]for its hospital-industry customers.

[7] However, the trick to pulling it off isn’t just having the right sensors, /

[8] it’s also having the right tools in place behind the scenes, on the servers /

[9] that act as the sensors’ brains and tell them what to do.


 それぞれ、以下のように読み解ける。

[1] 毎年200万人近い人間が、病院にいる間に、感染症にかかっている

[2] そして、不十分な手洗いがその一大原因となっている

[3] この手洗いに関する問題を解決できる可能性があることが分かった

[4] インテリジェントなセンサーの助けを借りることで

[5] Synapse Wirelessというハンツビル(アラバマ州)に本社を置くセンサーネットワーク関連の企業がそのようなシステムの開発を進めている

[6] 病院(=医療)関連業界の顧客のために

[7] ただし、このシステムをうまく作る秘訣は、適切なセンサーを用意することの他に

[8] 見えないところ、つまりサーバー上に適切なツール類を用意すること(も必要になる)

[9] センサーの頭脳として振る舞い、センサーに対して指示を出す(サーバー)


もう一度英文を

 では最後に、もう一度英文を読み直してみよう。

Every year, nearly 2 million people contract infections while staying at the hospital, and inadequate handwashing is a big cause. It turns out we might be able to help fix the handwashing problem with help from intelligent sensors, and a Huntsville, Ala.-based sensor-network company called Synapse Wireless is working on just such a system for its hospital-industry customers. However, the trick to pulling it off isn’t just having the right sensors, it’s also having the right tools in place behind the scenes, on the servers that act as the sensors’ brains and tell them what to do.


追記:米大リーグ、選手のすべての動きを追跡する新ツールを発表

 前回の記事で触れた、MITのSloan Sports Analytics Conference(SSAC)で、MLB Advanced Media(MLBAM、米大リーグの技術開発部隊)が新しいデータ解析ツールを発表していた。

MLBAM introduces new way to analyze every play - MLB.com

 フィールド内で起こった「全てのプレーを追跡する」といううたい文句のこのツール、特に、これまで難しいとされていた守備に関するデータも分析できるのが特徴ということらしい。

 上記MLB記事のページにはサンプルとなる動画も掲載されているので、それを参照していただくのが一番早いかと思うが、この新しいシステム(まだ名前はない)では、例えば打球のスピード、フライの場合はその上昇角度(バットに当たった直後の)、飛距離、滞空時間、さらに野手については守備位置と打球落下点との距離、初動までの経過時間、ランニング時の最高速度、加速度などが分かるという。

 MLBでは既に「PITCHf/x」「FIELDf/x」「HITf/x」(いずれもスポーツビジョン[Sportvision]製)といった映像記録解析ツールを導入しているが、新しいシステムはこれらの「増強版」に当たるものだ。

 既存システムとの違いは、Sportvision社製のツールが球場内に設置したカメラだけを使うのに対し、新システムはカメラの他にレーダーも利用している点。このレーダー関連技術はトラックマン(Trackman)というメーカーのもので、既にゴルフ中継などではよく使われているらしい。

 新システムの導入予定は、2014年シーズンにまず3球場――NYメッツの本拠地、Citi Fieldなど――で、その結果を踏まえて2015年には全球場に導入される見通しだ。

 ただし、1試合当たり7TBytesにもなると想定されるデータをきちんと記録・分析できるのか、といった点も検証する必要があるという。例えば、フィールド上の全選手の位置を1秒間に30回も撮影するらしいが、そうした計算処理の結果がほぼリアルタイムで、つまりテレビ放送中にリプレーで見られるようになればすごいことだ。

 なお今年は田中将大のNYヤンキース入団もあり、これまでにも増してMLBの映像を目にする機会が増えそうだ。最近では、故障を克服した松坂大輔がメッツでローテーション入りを狙っている、といったニュースも見かける。ヤンキースとメッツが戦う「地下鉄シリーズ」(レギュラーシーズン中のリーグ交流戦)で「田中と松坂の投げ合い」というのは日本人の多くが期待するところだろうが、今シーズンはこの交流戦が5月半ばに4試合予定されており、うち2試合(14日と15日)はCiti Fieldでの試合。もしかしたらここで新システムのデータがテレビ画面に映るかもしれない。

三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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