NFLのスタジアムに足を運んで、テレビ観戦にうつつを抜かす人々三国大洋の箸休め(13)

わざわざスタジアムにまで足を運んだにもかかわらず、生の試合はほとんど観ないという人々が増えているという。その光景は「街場のスポーツバー状態」のようだ。

» 2013年09月25日 17時30分 公開
[三国大洋,オンラインニュース編集者]

 9月初めのレイバーデイ(Labor Day)明けから、米国では新しい季節が始まる。学校も新年度に切り替わり、IT企業各社からは一斉に新製品が発表されたり、あるいは大きなカンファレンスが立て続けに開かれたりする。テレビ番組も新シーズンに突入、そしてアメリカンフットボールファンには待ちに待った新しいシーズンの開幕、という感じである。

 このフットボールのシーズン開幕に合わせて、NYTimesでは8月末にESPNの影響力の大きさを伝える特集記事を3回に分けて掲載した(3本立てというのはかなり破格の扱い)。この連載記事に出ているグラフを見ると、ESPNがNFL(プロフットボールリーグ)に支払うことになっている放映権料が他のスポーツに比べ、飛び抜けて高額であることが分かる。NFLとの契約は2021年までの支払額が合わせて152億ドル、それに対し次点のカレッジフットボール・プレイオフの放映権料は73億ドル(2026年まで)で、MLB(2021年までに56億ドル)、NBA(2016年までに39億ドル)はさらにその下、などとなっている。

 NFLはESPN以外に、CBSやFox、NBCなどからも放映権料を受け取る。2011年9月にESPNとの契約を更新した際には「年間の支払額19億ドル」という話が、また同年12月にCBS、Fox、NBCの3社と契約更新した際には年間支払額が推定で30億ドル(約60%アップ)という話がそれぞれ伝えられていた。その他、間もなく契約更改に向けた交渉が始まるDirectTVとの契約(現在の年間放映権料は約10億ドル)などもあり、「これら全部を合わせると2014年からは年間約70億ドル近い金額がNFLに転がり込むことになる」と下記のForbes記事には書かれている。

 8月後半に、NFLのコミッショナーを始めとする幹部らがグーグル本社を訪れた際、「NFL Red Zone」(または「Sunday Ticket」)という、現在はDirecTVが保有している放送枠の権利獲得にグーグルが動くのではないかとのうわさが流れたのも、やはりこの辺りの「価格高騰」が背景にある。要は、加入者数も頭打ち状態(もしくは減少)で、「競合するDish Networkと合併したほうがいい」などといわれているような今のDirecTV(加入世帯数はそれでも1900万くらいある)では、「今の年間10億ドルでさえ払い続けるのは大変だろう」、それに対し「グーグルなら10億ドルくらい朝飯前の金額のはず(それで、一向にらちのあかないテレビ分野への本格進出が可能になるなら、安い買い物)」といったことらしい。

 いずれにしても、アメリカンフットボールが大好きな米国人には、それを楽しむための選択肢もたくさん提供されている。そして、特にWebとモバイル端末が普及したおかげで、いまではどこにいても、好きな選手が出場する試合や、気になる対戦をライブでチェックできるようになっている(以前はローカルテレビ局の放送で、地元チームの試合を観る手段がほぼなかった)。その結果、いまではお茶の間とスタジアムとが、フットボールファンを奪い合うような事態になっているらしい。

 9月半ばに掲載されたこのNYTimes記事では、ジャクソンビル・ジャガーズというチームの本拠地であるエバーバンク・フィールド(EverBank Field、フロリダ州)の話が紹介されている。試合当日に足を運んでくれるファンを増やそうと、スタジアムのラウンジを整備・アップグレードしたところ、目の前のフィールドで続く地元チームの試合にはほとんど注意を払わず、遠隔地でやっている他チームの試合経過ばかりを追いかけるファンがたくさん出てきてしまったという。記事中に付されている写真には、大型テレビや9画面のマルチスクリーンの前に陣取り、スマートフォンを片手に画面を見続ける人々の姿が出ていたりする。その大半は、自分のファンタジーフットボールのチーム――お気に入りのプレーヤーをピックアップして作る架空のチーム。その勝敗で賭けをしている人も多い、とどこかで読んだ覚えがある――に登録した選手の活躍ぶりなどをチェックしているらしい。記事中には、「このラウンジがあまりに盛況で、入場制限が掛かるときさえある」などとも書かれている。

 結局、スタジアム内のこのラウンジが街場のスポーツバー状態になったということかもしれないが、不思議なのは「わざわざシーズンチケットを購入し、1試合当たり40ドル近くも払ってここに足を運ぶ、しかも生の試合はほとんど観ないという人が何人もいる」というところ。いくら最新鋭のテクノロジー(ネットへの高速無線接続やタブレット端末付きのテーブル、ビデオゲーム機なども含む)や快適なリクライニングチェアが完備され、しかも暑いスタンドとは違ってエアコンがよく効いているといっても(そして地元のジャガーズがひどい弱小チームだといっても)である。

 ずっと前に、ディズニーランドを訪れながら、実際のアトラクションなどを自分の目で直接見ようとはせず、代わりにひたすらビデオカメラを回し続ける来園者の不思議を指摘した米国人作家のコラムを読んだ記憶があるが、このフットボールスタジアムに足を運んで大小の画面を見続ける人たちの話を読んで、あのコラムのことをちょっと思い出した。

三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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