「データサイエンス修士号」のお値段は年間6万ドル?〜UCバークレーのオンライン講座三国大洋の箸休め(8)

カリフォルニア大学バークレー校の情報大学院がデータサイエンスの修士号を取得できるオンライン講座をスタートする。6万ドルという年間授業料は果たして適切なのだろうか。

» 2013年08月05日 17時30分 公開
[三国大洋,オンラインニュース編集者]

 カリフォルニア大学バークレー校(以下、UCバークレー)の情報大学院(School of Information:「i School」というニックネームもあるらしい)が、Master of Information and Data Science(MIDS、情報とデータサイエンスの修士号)を取得できるオンラインの専門講座(以下、datascience@berkeley)を2014年1月からスタートする、という話が7月中旬にいくつかの媒体で報じられていた()。

 「21世紀で最も魅力的な職業」とHarvard Business Review(HBR)で称された人気の新たな仕事に就きたい人たちを当て込んでの動きとされるが、年間授業料が6万ドルも掛かり、しかも基本的にほぼ全てオンラインでの通信講座ということもあって、「果たしてどれくらいの学生が集まるやら……」といった論調の記事も混じっている印象だ。それでも学校側では「学位取得者には初任給(年俸)11万〜13万ドルの仕事が待っている」として、応募者集めに余念がないようでもある。

 まず「次のネイト・シルバーになりたいか? 6万ドル払えばなれるぞ」("Want to Be the Next Nate Silver? That'll Cost You $60,000")といった調子の見出しでこの話を伝えているのがWired。「1年で6万ドルって高くない?」という部分に重点を置いた感じの伝え方である。

 この記事には比較材料として、UCバークレーで提供されている他の社会人向け修士課程の授業料が示されているが、それによると他の講座は半期で州内居住者が2万7175ドル、非居住者は2万8448ドル。だとすると12カ月以上の期間で6万ドルというのはそれほど高くもないはずだが、この記事はなぜだかその前に普通の修士課程(非居住者でも1万5000ドル強)の金額なども示して、datascience@berkeleyが高いという印象を強調しようとしているかのようだ(無論「リアルな授業」がない分、UCバークレー側の負担は少なくなるけれど)。

 また本文の後部でも、「EMCが2011年に行ったデータサイエンティストを対象にした調査では、修士号以上の学位を持つ者は回答者の40%しかいなかった。(中略)この分野ですでに名を成したネイト・シルバー(ESPNへの移籍が決まった選挙予測の達人)も、『マネーボール』の主人公ビリー・ビーン(オークランド・アスレティクスのゼネラルマネージャー)を補佐したポール・デポデスタも、それにビッグデータのguruであるジェフ・ハマーバッカー(Clouderaのチーフサイエンティスト)もみんな学士号しか持っていない」など、なぜだか一貫して厳しい書き方である。

 なお授業料については「1回2222.22ドル×27回」とdatascience@berkeleyの案内ページには記載されている(高いかどうかは別にして明朗会計ではある)。また「募集要項」のページには、「学士号取得者」、「GPA3.0以上(学校の成績、4.0が満点)」などの他、「技術関連分野の職種で5年程度、もしくはそれに準じる数学的能力を示す勤務経験」、「データ構造、アルゴリズム、アルゴリズムの分析など、コンピュータサイエンスに関する基本的な知識」、「(Python、Java、Rなどを使った)プログラミングの知識」など、学資の確保以外にもクリアすべきハードルがいろいろとあって入学への敷居はなかなか高そうだ。

 なお、募集人員は「最大20人」ということで、流行のMOOC(Massive Open Online Courses)とは異なる少数精鋭の授業となるようだ。

「オンライン講座」開設は窮余の策

 UCバークレーがなぜdatascience@berkeleyをオンラインでやることにしたか? その点について、わりと丁寧に伝えているのがVentureBeatで、この記事によると、i Schoolでデータサイエンスコース新設の話が持ち上がった当時、(州からの補助金削減などの影響で)同校には単純にそのための予算がなかった、ということらしい。そして、オンライン講座開設に向けてさまざまな選択肢を探した結果、同校は2Uという外部業者のプラットフォームを採用することにしたという。

 2Uが選ばれた決め手は、約80%という極めて高いコース終了率だそうだが、その高さの秘訣(ひけつ)は(前述の)「少人数制」に加え、「リアルタイムの授業」、「教師や他の生徒との活発な交流」などだという。普通のMOOCだと、オンライン教材を使いはするものの学生はほぼ独学する形となり、数千〜数万人の学生が登録しても修了者はごくわずか、というのが相場。つまり、同じオンラインの教育といっても、無料・低料金のMOOCサービスと、2Uで提供されているものとは「全くの別物」ということになりそうだ。

 なお、UCバークレーはこの取り組みで授業の内容考案や教材の準備、学位認定など重要な部分を全てコントロールし、かわりに収入の4割程度を手にすることになるという。

追記:

InformationWeekのWebサイトには「ビッグデータ分析に関する修士課程トップ20」というリストがある(リスト作成は2013年1月)


三国大洋 プロフィール

オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。


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