三宅氏によると、The Machineの核心は「これまでのコンピューティングの在り方を、プロセッサ中心から、メモリ主導型に変えることにある」という。
つまり、ユニバーサルメモリに複数のSoCをフォトニクスでつなげることで、図3のように「データそのもの(の取り扱い)」を中心にしたアーキテクチャを実現しようとしている。
こうして現在のコンピュータの基本構造を一新することにより、ユーザーの得られるメリットを語ったのが三宅氏の冒頭の発言である。
もう一つ気になるのは、こうした新しいアーキテクチャのハードウェアに対して、それを動かすソフトウェア環境が整備できるのかどうかだ。かつて(1990年代)プロセッサを多数搭載した超並列処理コンピュータ(マシン)が脚光を浴びたことがあったが、対応できるソフトウェアが出揃わず、普及しなかった歴史がある。内容は異なるが、どんなに斬新なハードウェアでも、それを生かすソフトウェアがそろわなければ何の意味もない。
図4に示したのが、The Machineが目指すソフトウェア環境である。現時点でこれだけの要素が想定されている。とりわけOSについては、Linuxのカスタマイズ版が開発されているようだ。HPEでは今後、これらをオープンソースソフトウェアとして積極的に公開し、ソフトウェア開発環境を拡充していく意向だ。
では今後、企業のITインフラ担当者やアプリケーション開発者が、2020年以降に登場するThe Machineに対応していこうと考えるならば、どんなことに注目して準備すればよいだろうか。
三宅氏は、「開発環境ということで言えば、ここにきて活用されるようになってきたインメモリデータベース上での開発を経験しておくと、The Machineを活用する近道になる」という。その意味では、ユニバーサルメモリはインメモリデータベースのさらなる進化形といえるかもしれない。
The Machineは、2014年6月に基本構想が発表され、2015年12月に大まかな概要が明らかになった。ビッグデータ活用時代に向けて、コンピュータのアーキテクチャを一新するということで注目度が高まっているが、2016年現在、商品化までにあと4年かかる予定とするところに技術開発の難しさは感じ取れる。
HPEが「The Computer」ではなく「The Machine」と呼ぶ理由は、新たなアーキテクチャを“現在のコンピュータの進化形”とする概念だけでなく、どんなサイズのデバイスにも適用できる可能性があるからだ。山中氏は「HPEは、The Machineに社運を懸けている」と力を込める。これまでコンピュータ業界を引っぱってきたHPEの新たな発想力と技術力が、あらためて試されているといえそうだ。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。Facebook
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