富士通がK5をめぐり、とりわけAWSへの対抗意識を見せつけた“ひとコマ”があった。およそ半年前(2015年9月)、前述したK5の提供形態などについて発表会見を行った際に、K5のパブリッククラウドサービスにおける他社との価格比較例の図を示したのだ(図2)。K5の価格優位性をアピールするためのグラフである。
グラフの比較対象は「他社」となっているが、質疑応答でAWSを想定した比較であることを明かした。この会見で説明役を担っていた中村氏は価格優位の理由について、「オープン技術の採用とサービスの効率化により、競争力のある価格を実現している」と語った。日本のベンダーでこうしたグラフを会見で示し、外資系ベンダーへの対抗意識をあらわにしているのは、今のところ富士通だけだ。その意味でも強く印象に残るシーンだった。
ただ、価格競争力は競合する上での必要条件の一つだが、それだけで渡り合えるわけではない。中村氏は冒頭の発言で、K5がAWSやAzureなどと渡り合えるとする根拠として、基幹システムをクラウドへ移行する際にモダナイズする機能をK5そのものが備えていることを挙げた。これはどういうことか。同氏は2つの図を示しながら、次のように説明した。
まず図3は、左側に「現行システム」、右側に「K5で構築したシステム」を示したものだ。現行システムは用途や部門ごとに保存データが分かれており、システム全体が複雑化して外部ともつなげられなくなっている(サイロ化)。そんな課題のあるシステムも、K5への移行によって、用途・部門別のシステムにあるデータを仮想的に一元管理し、それぞれのアプリケーションをAPI化してサービスに仕立て上げ、それらを自在につなげて組み合わせることによってコンポジットな(一つにまとめた)アプリケーションを開発できるようになるというものだ。
こうした一連の作業が、基幹システムをクラウドならではの効果が出るようにモダナイズするプロセスである。K5ではこれらを迅速かつ的確に行う機能を備えている。すなわち、従来の基幹システムをクラウドネイティブな仕組みに刷新してくれるわけである。
そうして、図4のように基幹システム(SoR)と新規ビジネスのためのシステム(SoE)もAPIで自由な連携が可能となり、さらにAPIをマッシュアップすることで外部のサービスも合わせた形でさまさまな用途のアプリケーションを迅速に展開できるようになる。これによって、継続的なビジネス成長を実現することができるというのがK5の真骨頂だという。
「K5を提供し始めてつくづく感じているのは、基幹システムをクラウド上で安心して利用でき、しかもクラウドに移行したメリットを十分に得られるようにしたいというニーズが非常に高まっていることだ。従来の基幹システムを単にクラウドへ移し替えただけでは、十分なメリットは得られない。そこに不可欠なモダナイズのノウハウは、これまで多くの顧客のシステムを開発し、運用してきた当社だからこそ提供できると自負している。当社がこれから本物のエンタープライズ向けクラウドサービスを提供していきたい」
中村氏は前述した2つの図の意図を説明した後、こう強調した。特に、「従来の基幹システムを単にクラウドへ移し替えただけでは、十分なメリットは得られない」と語ったところに、外資系ベンダーへの対抗意識が強く伺えた。
そんな中村氏に、クラウドサービスの選定を担うIT担当者へのメッセージをお願いしたところ、次のように語ってくれた。
「クラウドをはじめとしてさまざまな製品やサービスを選定する役目を担っておられるIT担当者の皆さんには、技術一辺倒の見方にならないように気を付けてほしいと言いたい。技術は何かを実現するための手段であり、道具にすぎない。それはクラウドもしかり。最も大事なのは、技術で実現したいことは何か。すなわち、何をしたいのか。目的を明確にすることだ」
こうした技術論議はこれまでさまざまな取材でも幾度か耳にしたが、その対象がクラウドとなると、一段と説得力があるように感じた。ちなみに中村氏は2016年4月1日付で、クラウドも含めた富士通の技術をグローバルで推進するグローバルSI技術本部 本部長に就任する。いわば、同社の技術のキーパーソンによるメッセージでもある。
最後に、「K5」の名称の由来を紹介しておこう。「K」はKnowledge、「5」は5大陸を意味している。すなわち、日本を含めて全大陸をカバーするデータセンターで運用され、富士通の知見やノウハウを注入したサービスであるというわけだ。その名の通り、2016年4月より順次グローバル市場にも展開し、2017年度にクラウド事業全体の売上高として4000億円(2014年度実績2400億円)を目指す構えだ。果たして中村氏が言うように海外勢と十分に渡り合い、メジャーなグローバルクラウドベンダーの一角に入り込んでいくことができるか、大いに注目しておきたい。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。Facebook
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