PCを使わない“アンプラグド”なプログラミング教育は入り口であり、目指すところではない小学生の「プログラミング教育」その前に(7)(1/2 ページ)

2017年8月に開催された「プログラミング教育明日会議 in 東京」レポート後編である本稿では、プログラミング教材を使った模擬授業の様子や、展示ブースの模様を紹介する。

» 2017年10月12日 05時00分 公開
[神谷加代@IT]

 2020年から、小学校で必修化が始まるプログラミング教育。現場の教員や教育委員会の関係者は、実際にどのような授業をすればよいのか、頭を抱えている状態だろう。

 そうした教育関係者向けに、最新情報や模擬授業、教材研究の場を提供する動きが始まっている。特定非営利活動法人みんなのコード(※1)も2017年8月22日、「プログラミング教育明日会議 in 東京」を、早稲田大学西早稲田キャンパスで開催した。

※1「一般社団法人みんなのコード」は、2017年10月1日に「特定非営利活動法人みんなのコード」へ法人名を変更した

 前回記事では、同イベントが取り上げた教育委員会の取り組みや小学校における先進事例の発表をレポートした。本稿では、同イベントで行われた2つの模擬授業と、教材展示会場の様子をレポートする。

画像 「プログラミング教育明日会議 in 東京」には、教員や校長、教育委員会のメンバーなど200人近い参加者が集まった

模擬授業【1】 5年生算数・正多角形の単元でプログラミングを活用

 特定非営利活動法人みんなのコード(以下、みんなのコード)は、教育機関を対象にプログラミング教育の支援活動に積極的に取り組んでいる。全国各地で、プログラミング教育に関する教員向けの研修や情報収集の場を提供している中、2017年からは、小学校の授業で使えるプログラミング教材「プログル」の独自開発も手掛けている。

 今回のイベントでは、プログルに新たに加わった「多角形コース」を使って、5、6年生向け算数の模擬授業が行われた。講師は、元小学校教員で、現在は「みんなのコード」に所属する竹谷正明氏が務めた。

 新学習指導要領では、算数の指導内容のうち、多角形を作図する学習にプログラミングを取り入れてもよいと例示されたため、今後、多角形の作図にプログラミングを取り入れる教員は増えることが予想される。事実、この模擬授業にも、多くの教員が集まっていた。

画像 元小学校教員で、現「みんなのコード」の竹谷正明氏

いきなり「プログラミング」に触れるわけではない

 「多角形の単元でプログラミングを活用する」といっても、単元の最初からいきなり「プログラミング」に触れるわけではない。前提として、同単元で習得すべき知識については、教科書などを使いながら授業を進めるという。プログラミングが登場するのは、同単元の最後。学んだ知識や内容を土台に、学習を発展させる演習にプログラミングを活用する。模擬授業も、まずはプリントで既習事項を確認するところから始まった。

 次に竹谷氏は、模擬授業における狙いを、「プログラムを作って、正多角形を描くときの“ルール”を考えること」と設定。模擬授業に参加した教師らは、多角形コースにアクセスして、実際に手を動かしながらプログラミングを体験し始めた。

まずは、「試行錯誤」で操作に慣れる

 多角形コースは、キャラクターに正三角形や正方形などの図形を描かせるプログラムを組み立てることで、多角形の性質についての理解を深められる仕組みになっており、全部で8つのステージに分かれている。最初は、子どもが操作に慣れるためのステージだ。

プログル多角形コースの最初のステージ

 「ここでは、子どもに操作方法や進め方の手順を説明しながら、『失敗してもいい』『自分が考えたことを、どんどん試してみよう』など、試行錯誤を促すような言葉掛けをしてほしい」と、竹谷氏は教員にアドバイスした。

声で命令することで、「くり返し」の意義を体感する

 その後、正方形の作図のステージまで進んだところで、実際のプログラミングに取り掛かる前に、竹谷氏は全員の作業をいったん止めた。自身をプログラミングを通じて動くキャラクターに見立て、竹谷氏に正方形を描かせるために必要な指示を声に出すよう、会場の教員に求めたのである。

画像 正方形の作図のステージ

 教員たちは、竹谷氏に「前に進んで! 右に90度回って!」などと命令を出し、竹谷氏はその通りに動く。ここで竹谷氏は、「同じ指示を4回出すのは面倒だね」と話しつつ、「くり返しブロック」の仕組みや“最初の地点に戻らなければ図形が完成しない点”などを、簡潔に説明した。

 「正方形の作図には、正三角形の作図に向けた伏線になる考え方も含まれている。実際の授業では、クラス全体でここまでの内容に取り組み、この先は個別で進めるのがいい」(竹谷氏)

自分でも歩いてみることで、「外角」を実感できる

 正方形の作図に続き、模擬授業の参加者は、正三角形を作図するステージに取り組んだ。ここで竹谷氏は、「プログラミングによる正三角形の作図は、多くの子どもが間違う部分がある」と強調した。

 例えば、正方形の作図では、キャラクターの向きを変える際、その角度を「90度」と設定する。この角度は、正方形のそれぞれの「内角」の大きさと一緒だ。ただし、正三角形の作図の際、キャラクターの向きを変える角度を、それぞれの内角と同じ「60度」に設定してしまうと、下記スクリーンショットのような動きになり、正三角形を描くことができない。

画像 正三角形の作図のステージ

 竹谷氏は、こうした場面に出くわした子どもの指導方法として、「『実際に自分で正三角形を描くように歩いてみよう』とアドバイスするのがいい」と話す。正方形の作図の際に竹谷氏が自身をキャラクターに見立てて動いてみせたのと同じように、プログラミングに挑む子どもも、自分がキャラクターになったつもりで実際に動いてみる。

 多くの子どもは、こうした作業を通じて、キャラクターを動かして正三角形を描くためには、正三角形の「外角」に相当する120度向きを変えなければならない点に気付くという。

「規則性」を見つける

 プログルのステージは、正三角形の作図をクリアすれば、正六角形、正五角形の作図へと進むようになっている。正六角形や正五角形の外角の大きさを知らない子どもも、下記表のように「くり返す数×回す角度=360度」という規則性を見つけることで、正六角形や正五角形の外角を求め、作図が可能になる。

画像 正三角形、正方形の作図を通して、多角形を作図する際のルールを考える

 「従来、算数の時間で『作図をする』といえば、定規とコンパスを用いて行う方法が一般的だったが、プログラミングを用いることで、算数の考え方を活用した新たな作図方法を習得できる。プログルの多角形コースは、45分の授業でも手軽に使える教材だ。より複雑なことがやりたい場合は、Scratchなどのツールもお勧めだ」(竹谷氏)

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